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ep2「Dear」

 人にはそれぞれ誰にも譲れない夢や考えがある。でも、死んでしまった人間の夢はどうなるのだろう。死んでしまったのだからその夢を誰かに譲らなくてはいけないのだろうか。そんなのは不公平だし、そんなのは理不尽だ。そして、死んだ人間が不憫すぎる。


 葬儀が終わった次の日、俺は太一の部屋に居た。一階では俺の両親が太一の親御さん達と話をしている。何度も訪れていたはずの部屋が、今日は何だか嫌に広く感じられてしまう。壁に掛かっている洋楽のロックバンドのポスターや太一の好きだったサッカー選手のポスター。そのどれもが、俺の胸を締め付ける。太一は音楽の他にもサッカーも好きで小中と学校の部活に入っていた。それなのにもう、太一はサッカーもできない。死ぬと言う事はこんなにも何もかもを失ってしまう事なのだと初めて気が付いた。

 そして、部屋に置いてある二本のギター。メーカーも種類も、名前すら知らないギター。太一が初めて買ったギターは使い古されてボロボロになっている。確か太一が6歳の頃に買って貰ったギターだったはずだ。塗装部が剥げ、至るところにガタが来ているのが分かる。それは太一の努力の証だと物語っている。

「どうして、こんなっ!!」

 思わずその使い古されたギターを掴んでいた。悔しかったからだ。こんなにも努力していた人間が、どうして夢を諦めなくてはいけなくなってしまったのかと。死んでしまったのかと。どうして俺じゃなかったのかと。俺ギターの前で一人うなだれた。後から後から溢れ出していく涙の粒が床に溜まる。こんなにもやるせない気持ちを抱いたのが初めてだったので、戸惑った。抑え方が分からない。だからこうして泣くことしかできなかった。

 ようやく涙が収まったとき、不意に目に止まったものがあった。それは、少し開いていた押し入れだった。普段は別段気に止める事もないだろう変化。だが、今の俺はそれが無性に気になってしまったのだった。そして、俺は少し開いた襖を開けきった。するとそこには、プレゼント用の派手な包装紙に包まれた何かが入っていた。

ーー拓也へ

 そう書かれた手紙が上に乗っていた。俺は少し困惑しながらも、その手紙を開いてみた。

『誕生日おめでとう! これでいつか二人でツインギターでもやろうぜ!』

 短い文章だった。だが、この手紙の内容からして俺は嫌な予感しかしなかった。俺は急いで包装紙を破り捨てた。そして中に入っていた物を見たとき、俺は再び泣き崩れた。包装紙の中から出てきたのは新品のギターだったのだ。それも多分、太一が俺用に改造してくれたものだった。ギターに『Dear My Friend』と彫られていた。果たされることのない約束。そう思うと余計に悲しく、切なくなる。だが、だからこそ俺は一つの夢を抱くことができた。



 次の週末。俺は太一のバンドのベース担当の奴に会いに行った。ベース担当の男の名は『木田勇樹』俺とは同い年で同じ高校だ。

「俺に、ギターを教えてくれないか?」

 会いに行った理由はこれだ。あの時、俺は太一の部屋で抱いた夢とは、太一の分まで音を奏で続けていく事だった。けど俺はほとんどギターは初心者であり、到底太一の代わりなど務まらない。だからこうしてベース担当の勇樹に教えてもらおうと来たのだ。

「お前、本気なのか?」

 勇樹は少し怪訝そう表情を俺に向けてきた。俺も勇樹の気持ちは分かる。太一が死んだこのタイミングでギターを教わりに来たと言うことが何を意味しているのか、それは考えるまでもなく分かることだ。それ故に勇樹は俺に対して「本気なのか?」と問うてきたのだ。

「俺は本気だよ。太一の分まで音楽をやろうって決めたんだ」

 それは、嘘偽りのない俺の素直な気持ちなのだ。太一の部屋で見つけたあのギター。そしてあの手紙。俺を決意させるには十分過ぎるほどの要因なのだ。

「教える分には良い。ただな、アイツの代わりにメンバーになる何て言うなよ? それだけは止してくれ。これ以上、由香を苦しめる事は出来ないんだ」

 ヴォーカルである『由香』彼女と太一は付き合っていたらしい。それを知ったのは太一が死んでからだった。太一が俺に対してしていた隠し事の一つ。なぜ隠していたのか何て理由は簡単で、太一はそう言う事を言えない性格なんだ。妙なところで照れ屋なんだ。

「分かってる。だからバンドは自分で作る。勇樹はギターを教えてさえくれれば、それ以上迷惑は掛けない」

 メンバーを一から探すのは簡単な事ではない。だからと言って、誰かに辛い思いをさせてまで、俺は自分自身のエゴを通そうと思うほど人間腐ってない。

「そうか、なら良い。基本的な部分しか教えられないと思うけど、お前なら、お前のその覚悟なら大丈夫だと思うよ」

「本当、ありがとう」

 こうして俺は、皮肉なことにも太一の死を通じて音楽に巡り会えたのだった。

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