ep1 『intro』
最近、夢を見る。内容も覚えてないような。けれど、とても辛い内容だと言う事だけは何となくではあるが分かる。この奇妙な夢を見るようになったのは何時からだろう。多分あの時からだろう。アレを見てしまったあの日から……。
話の始まりは去年の夏の事だった。俺は親友の死を目の前で見てしてしまったのだ。それは一瞬の出来事で、目の前で何が起きたのか理解できなかった。人間の死とはこんなにもあっけなく訪れてしまうものなのかと嘆いた。けれど、それは現実で、俺の目の前にはさっきまで一緒に歩いていた親友だった物がある。表現が可笑しく聞こえるが、本当にこんな感じだったのだ。そこにあるのはただの肉片で、俺の知る友人ではなかった。とっさに頭がそう解釈したのだ。この耐え難い現実を。
いつもの通学路に広がる血の海。地獄絵図と称すにはあまりに現実味のない光景。その場にいた俺たち二人以外にも登校中の生徒は居た。だが、その誰もが俺と同じ感想を持っているだろう。
ーー一体何が起きたんだろう?
当然だ。すぐ隣で歩いていた俺でさえ状況を把握しきれていないのだ。到底他の人間が理解できる情況ではない。けれど残酷なことに、人の脳は今起きた事を勝手に整理させて結論を出してしまう。『事故で誰かが死んだ』と。その途端、あちこちで嘔吐する人間が出てくる。余りに無惨で気持ちの悪い死体を見て。それは俺も例外ではない。俺の足元に転がる友人の目玉を見つけてしまうと、俺はそれまで意識していなかった猛烈な吐き気と嫌悪感が押し寄せてきたのだ。
まるで作り物のようなその眼球は、真っ直ぐに俺を見ている。黒目が日の光で妙なテカり方をしており、眼球の後ろの方からは血管が伸びている。理解したくない。そんな思いとは裏腹に俺の頭は次々とこの惨状を把握し出す。歩道に転がる友人の身体には首から上が見れたものでは無くなっている。そしてその少し先まで残るタイヤの跡。血が朱肉の代わりのように作用してタイヤの跡を付けていたのだ。
ここまで来ると、嫌でも何が起きたのか理解できてしまう。友人は車に引かれたのだ。それも頭部だけを見事にぐしゃぐしゃに。
友人。アイツをそんな風に呼び続けるのは酷く淋しい。
ーー友永太一。
それがアイツの名前だ。太一は俺の幼馴染みで兄弟のような存在だった。家が近所と言うこともあり、何をするのも二人一緒だった。そうして二人でここまで成長してきた。それが、こんな形で終わりを迎えるなんて、誰が想像しただろう。いや、誰もが想像なんてしていない。人の死なんて。
無趣味でもともと出不精の俺とは違い、太一には一生を掛けても良いと思える事があった。それは『音楽』だ。高校に上がった頃から俺と太一は一緒にいる時間が以前に比べて減ってしまった。それは太一がバンドを始めたからだった。だが、それを俺は疎ましく思ったことも、淋しいだとも考えたことがなかった。太一が音楽を仕事にしたいと昔から語っているのを知っているからだ。だから俺にとって太一がバンドを始めたのは喜ぶべき事だったのだ。
そして、事故の数週間後には太一達のバンドのライブが控えていた。太一はそのライブを心から楽しみにしていたし、練習もしていた。それなのに、太一はもう二度とギターで音を奏でることが出来ないのだ。もしも神様が存在しているのだったら、俺は神に言いたい。何で太一が死ななくてはいけなかったんだ。もっと死んでも誰も悲しんだりしない人間は沢山居ると言うのに、なぜ太一殺したんだ、と。
太一の葬儀が終わった後、俺は葬儀に来ていた太一のバンドのメンバーと話をした。太一のバンドは『Simple Wiht Cool』と言う名前で、ヴォーカル女、ベース男、ドラム男、そしてギターの太一の四人組で構成されたロックバンドだった。地元ではかなり有名なアマチュアバンドで、プロでもやっていけるほどの実力派バンドだった。それも太一のいない今、続けていくのは難しそうだ。皆、バンドのリーダーである太一を失った喪失感とショックで暫くは立ち直れそうにない様子だった。それは俺も同じで、太一のいないこれからの人生に絶望すらしていた。
あの手紙を見付けるまでは。
はじめまして。
この小説を読んでくださり、まずは御礼を申し上げます。
音楽を主題にした作品を書きたくて半ば衝動的に執筆してしまいましたが、この小説を読んで誰かが何かを感じ、何かを考えさせられたらと思います。




