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「おお、ここにいたのか。イリオス、グリーンウッド!」
しばらくして、リュシアン殿下とオーレリア様がバルコニーにいる私たちの元に来た。
私もさすがに涙はもう止まっていたけれど、オーレリア様は私たちの様子からすぐに察したようで、笑みを深めて小さく頷いた。
「ミリアーナ。ヴァンガード伯爵子息。今回は本当に、お世話になったわね。感謝しているわ」
「ふふっ。まさか最後の最後で、全部ひっくり返されるとは思いませんでしたよ」
「でも、ああしないと、わたくしたちの未来はなかったでしょう?」
パチリとウインクをされるオーレリア様のお顔は、本当にお綺麗だった。これまでの憂いが、まるで嘘のように消え去っている。殿下と腕を組まれる姿も、生誕パーティーが始まった時とはまるで違う、幸福感に満ちたものだった。
「殿下。先程の演説、お見事でした」
イリオス様が殿下にスッと頭を下げる。
「ふふん、そうだろう! 私のオーレリアが機転を利かせて、あそこまで盛り上げたのだ! 最後は私が格好良く決めるべきだろう!」
ハハハと大きな声で笑いながら、オーレリア様の肩を抱き寄せる殿下。
うわぁ、『私の』とか言っちゃってるよ。
お互いの気持ちの確認ができたからか、すぐに調子に乗ってる殿下に、私は乾いた笑みを浮かべる。それは隣のイリオス様も同様だった。ただ、オーレリア様だけは、少し嬉しそうにされていた。
「そういえば、ミリアーナ」
「はい、何でしょう」
「マグダレーナ様が、いつあなたをお茶会に誘っていいか聞いてきたわ。予定を確認しておいてちょうだいね」
「えぇっ!? シャンドール侯爵令嬢と、お、おお、お茶会ですかっ!?」
思いもよらない話に、私は目を丸くした。
「ええ、そうよ。Aクラスの令嬢からは、クッキーを差し入れるようになってから何度かお茶会へのお誘いをされていたけれど、全部断っていたのよ。まだリュシアン様の『恋人役』をしていた期間だから、話せることも少なかったでしょうし」
「で、ででもっ! 私、高位貴族の皆様のお茶会に着ていける服なんて、持ってなくて――」
「あら、そんなもの、買ってもらったらいいじゃない」
そう言って、オーレリア様がイリオス様を見た。彼は頬を少し赤く染めながら、口元に手を当てて小さく咳き込んだ。
「ま……まぁ、そうだな。ミリアーナに似合うデザインなら、いくらでも――」
「え、えぇぇっ!?」
このドレスや宝石だって高いはずなのに、『いくらでも』とは!?
「ああ、あとヴァンガード伯爵子息から聞いたと思うけど。あなたのお父様の温泉事業、わたくしも投資するわ。我が家の方でも少し調査をさせたけれど、結構良質な温泉が湧いているようなの。だから、ちゃんと準備しておいてちょうだいね」
「ええぇぇぇぇっ!!?」
オーレリア様、秘密裏に公爵家の力で、我が領地の温泉の源泉まで調査済みとは!
しかも、将来は王太子ご夫妻がその温泉施設にお立ち寄りになるから、そのための王族専用の建物も必要ということで――
「い……一体、いくらお金があったら足りるんだろう」
『恋人役』の成功報酬として受け取る二人分の報酬と、オーレリア様からの支援があるとはいえ、費用はどれくらいになるのか。頭を抱えたくなる私の肩に、イリオス様がポンと手を乗せた。
「まぁ……俺の家からも支援するから」
「そうだぞ、グリーンウッド。金など気にすることはない! それに先程、この内容を観劇にしたいと劇作家たちが申してきてな。それに出演でもすれば、建設費用などあっという間だ!」
またトンデモ発言をぶっ込んできたよ、この人!!
「ちょっ! で、殿下!? もう、演技は勘弁してくださいよっ!!」
「そうだな。私も、今回のことでこりごりした。演技など二度とやらんわ!」
豪快に宣言するリュシアン殿下の言葉に、私たちは声をあげて笑った。
夜風がバルコニーを心地よく吹き抜けていく。先程までの緊張が嘘のように、四人で過ごすこの時間は、ただただ穏やかだった。和やかな雰囲気で過ごしていると、大広間に流れる音楽が、いつの間にか少し落ち着いた曲へと変わっていた。
窓越しに大広間へ目を向けると、先程まで楽しそうに踊っていた学園の生徒たちも、少しずつ家族や付き添いの者の元へ戻っている。もう、帰る時間が近づいているのだろう。
殿下もそれに気付いたのか、ふっと表情を引き締めた。そして、王族らしい優雅な流れで、手を差し伸べた。
私に対して。
「さて、グリーンウッド。最後のダンスだ。私と一曲、踊ってくれないか?」
「え?」
「――我が、友として」
差し出された手を前に、少しだけ戸惑ってしまう。断罪劇までは、『恋人役』だった私。そして、今は『友』として、殿下は私のことを見てくれている。
私は、オーレリア様とイリオス様を見た。リュシアン殿下の婚約者と、私に求婚してくれた、将来の夫となる人。
その二人が、笑顔で私たちを見守ってくれていた。
「いってらっしゃい、ミリアーナ」
「いっておいで」
この『関係』でいいのだと、認めてくれていた。
溢れそうになる涙を誤魔化すように、私は大きく笑みを浮かべた。
「はい……行ってきます!」
リュシアン殿下の手を取る。殿下は私に、友へ向けた笑顔を返してくれた。
足取りが軽い。まるで、羽根が生えたような気分だ。
そして、ダンスフロアに向かう私たちを、招待客は大きな拍手で迎えてくれたのだった――
リュシアン殿下。
オーレリア様。
イリオス様。
意地を張って素直になれない二人と、踏み込みきれない一人の側近。
婚約した六歳の頃からお互いに想いあいながらも、すれ違い続けて九年の歳月が過ぎてしまった。
その関係性は、学園入学という転機と共に、『王太子殿下の恋人役』という異分子を加えることで大きく動き始めた。
あの日、領地再建のために受けた『恋人役』の依頼は、誰も想像しなかった未来へと、私たちを導いてくれたのだ。
これからは、偽りの恋人ではなく、本当の恋人となった二組が、残りの学園生活を送ることになる。様々な困難に当たることもあるかもしれないが、それもまた、人生を彩る上で大切な思い出へと変わるのだろう。
どんな生活が待っているのか。
私は、今から楽しみでならない――
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
この後、後日談を一話予定していますが、4人のお話はここで完結になります。きっと残りの学園生活は、幸せに過ごしてくれることと思います。
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