エピローグ「豊かな大地と共に」
あれから、五年。
フォレスティア王国の離宮の庭は、今日も色とりどりの花と、瑞々しい野菜で溢れている。
「ママ、見て! こんなに大きいの、採れたよ!」
栗色の髪を揺らしながら、四歳になる息子のリオが、泥だらけの手で巨大なカブを掲げて走ってくる。
その隣では、二歳の娘のセナが、おぼつかない足取りで兄を追いかけていた。
「まあ、すごいわね、リオ。今日のシチューは、特別美味しくなりそう」
私は二人の子供たちを、まとめて抱きしめた。
土の匂いと、子供たちの笑い声。
これ以上の幸せはない。
「おっと、俺の分も残しておいてくれよ」
背後から、優しい声と共に、たくましい腕が私たち親子をまとめて包み込んだ。
私の愛する夫、カイルだ。
彼は王としての公務を終えると、いつもこうして、真っ先に私たちの元へ帰ってきてくれる。
「パパ!」
子供たちが、歓声を上げて彼に飛びつく。
その光景を、私は微笑ましく見つめた。
五年の歳月で、世界は大きく変わった。
私とカイルが始めた農業改革は、アルセリアとフォレスティア両国に留まらず、他の国々にも広がりつつある。
食料自給率が上がり、飢饉に苦しむ地域は劇的に減少した。
人々は、私たちのことを「農業の聖人夫婦」などと呼ぶらしい。
ヴェルモント農業技術学校は、今や大陸一の教育機関となり、世界中から若者が集まってくる。
父と母は、穏やかな隠居生活を送りながら、時々ここへやって来ては、孫たちの顔を見て喜んでいる。
かつての悪役令嬢、リリアナ・ヴェルモントは、もうどこにもいない。
私は今、愛する夫と、可愛い子供たちに囲まれ、二つの国の国民に愛される農業の女王として、充実した毎日を送っている。
「リリアナ」
カイルが、私の名前を呼ぶ。
「ん?」
「……いや。幸せだな、と思ってな」
彼は、少し照れくさそうにそう言って、私の唇に、優しいキスを落とした。
眼下に広がるのは、どこまでも続く豊かな大地。
私たちが愛し、育て、そして愛されてきた、かけがえのない大地。
この大地の上で、私の家族と共に、笑顔で生きていく。
悪役令嬢として始まった私の二度目の人生は、想像もしなかった、最高の結末を迎えた。
物語はここで幕を閉じる。
けれど、私たちの人生は、この豊かな大地と共に、これからもずっと続いていく。




