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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
七章 未踏宇宙域編

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85/90

084_力技

「長距離スキャンでこの空域の小惑星の分布を確認しろ」

クラフトの低い指示が艦橋に響いた。

「了解、モニターに出します」

ナビの電子音声が応じ、前方のホログラムに数万単位の点群が浮かび上がる。

小惑星群はこの宙域にランダムに散らばっていたが――そのうち一部が、明らかに異常な軌道で《プロメテウス》へと向かって移動を始めた。

「おいおい、まさかあれ全部そうなのか」

クラフトが眉をひそめる。「二十億クレジットじゃ割に合わないな」

軽口めいた苦笑が漏れるが、誰も笑わない。

「測定結果出ました」博士が報告する。「小惑星の数はおよそ十万。サイズは直径百メートル前後でほぼ均一です。最初の接触まで十五分二十一秒。」

「博士、さっきの方法は通じるか?」

「正直わかりませんね。サイズが違えば機能も違うと考えるのが妥当でしょう。通信プロトコルは同じかもしれませんが、試してみないとなんとも。」

「そりゃそうだ」クラフトが肩をすくめる。「動作が止まっても、これだけの数を処分するのも手間だな。」

「一部しか動き始めていないところを見ると、それぞれに活動範囲があるのかもしれません」博士が続ける。

クラフトは腕を組んだまま黙考した。「クレア、この宙域からの脱出ルートで隕石群が手薄なコースはあるか?」

「ありません。どのコースをとっても大差なし。密度分布に偏りは見られません。」

「……だろうな。」

クラフトは薄く笑った。

「完全にはめられた。どこの誰かは知らないが、見事な罠だよ。見破れなかった。

 仕方ない、穏便に突破するのはあきらめるか。」

「カイ、接近する小惑星の中で一番近い奴に無人シャトルを接近させろ。ギリギリまで寄せて急速離脱だ。やつらの反応と通信プロトコルを計測したい。」

「了解。」

カイが無人シャトルを遠隔操作し、接近する小惑星の表面すれすれをかすめるように通過――その瞬間、

空間が白光に包まれた。

すさまじい爆発が起こり、周囲の岩塊が霧散する。

「おおっ、こいつは攻撃しなくても爆発するのか!」

クラフトの声が楽しげだった。

カイは呆れたように顔をしかめ、クレアが横目で睨む。


ラボにいた博士がモニターを食い入るように見つめ、呟いた。「おもしろい。」

「キャプテン、シャトルの観測データを分析しました。通信プロトコルは以前と同じ。ターゲットの識別はスラスター反応を基準にしているようです。爆発規模から判断すると、自爆型。外的攻撃、あるいは敵が接近して逃げようとすると自爆する仕組みでしょう。」

「ああ、俺もそう思う。」

クラフトは楽しげにうなずく。「あとは自爆のトリガー距離を割り出せれば、急接近と急速離脱で自壊を誘導できるかもしれんな。ブラスターを撃ち続けたら、さすがにエネルギーが持たない。」

「キャプテン……まさか、あれをせん滅する気ですか?十万はいますよ?」

カイが信じられないという顔で問う。


「まあ、全部とはいわないさ。撤退するにしても多少は削らないと道が開けない。」

「いや、それにしても無茶すぎる……。」


「さて、議論している時間もない。」

モニターの中で隕石群が一斉に稼働を始めた。

クラフトはペダルを踏み込み、オートパイロットを解除する。

「向こうから突っ込んでくる。回避するか、撃ち落とすかだ。総員、シートに座ってろ!」

プロメテウスが轟音とともに加速し、迫りくる隕石群へと突っ込んでいく。

シールドが青白く輝き、船体が振動する。

「カイ、シールド展開、最大出力。まずは自爆の起動距離を計測だ。」

「了解!」

プロメテウスは小惑星の間をすり抜けながら、ギリギリの距離で回避を続ける。

爆発した個体、反応しなかった個体――その差異を博士が解析していく。

「キャプテン、分析結果出ました。ランダム性が高いですね。接近と離脱を繰り返しても安定した反応が取れません。こりゃあ困りましたねぇ。」

明らかに楽しげな博士の声。

クラフトは苦笑を浮かべる。

「博士、楽しそうなのは何よりだ。」

隕石群の密度が急上昇する。

ブラスターとパルスレーザーが火を噴き、無数の光跡が宇宙を走った。

それでも包囲網は崩れない。どの方角にも抜け道が見えず、じり貧は明らかだった。

「博士、次の手だ、何とかしろ!」

「はいはい、今やってますよ~。」

博士はぶつぶつ独り言を言いながら、モニターを凝視する。

「……ほほう、興味深い。小型型と同じプロトコルだが、通信密度が高い。原始的な暗号化通信だ。キャプテン、どう見ます?」

「暗号化されてるってことは、解かれるとまずい内容ってことだ。できるか?」

「さすがですキャプテン。船の演算リソースを集中すれば解読できるでしょう。おそらく楕円曲線暗号ですね。超次元幾何学演算で処理するとして、、、解けますね。ただし解読中は船体AIが10分間使えなくなりますので目で見て回避してください。」

「!!!」

クラフトの表情が一瞬で引き締まる。

「10分、か。目視対応、いいだろう、やれ。今すぐだ。」

「了解、全演算リソースをラボに回します。」


「聞いたな!」クラフトが鋭く指示を飛ばす。

「今から十分間、AIの補助は停止する。これ以降は人間の目で監視だ!」

「了解!」

艦橋にカイとクレアの声が重なる。


クラフトは続けて他乗組員に指示を出す。

「メディカルチーム、あなたたちもモニター監視に参加してもらう。死角を減らす。異常な光量変化や衝突予兆を検知したら即報告だ。」

「了解、医療スタッフも視覚監視に入ります!」

護衛チームも応じた。

「セキュリティ、船外カメラと補助センサーを担当。周辺宙域をリアルタイムで監視する。視認したら即、艦橋へ!」

「了解、護衛チーム監視態勢に入ります!」


全艦が一体となり、嵐のような隕石群へ挑む。

艦橋、医療区画、ラボ、機関室――それぞれのセクションで、クルーたちが震える手でモニターを追う。

AIに頼らず、己の目で宇宙を読み取る。

その緊張感が、まるで金属をきしませるように艦内を満たしていた。


「キャプテン!」

カイの叫び。

「右舷、距離一三〇〇、接近速度一二〇キロ!」

「見えてる!」

クラフトが操縦桿を引き、プロメテウスがわずかに姿勢を変える。

すれ違いざまに爆発――青白い閃光が船体を舐める。

シールドが一瞬きしんだ。


「シールド損耗率三%! まだ持ちます!」

「上等だ。……博士、あとどのくらいだ?」

「あと七分三十秒!」

「長ぇな!」


続く連鎖爆発、閃光、警告音。

それでもクラフトは笑っていた。

「面白ぇ。――やれるもんなら、やってみろ。」


彼の手の中でプロメテウスが獣のようにうなりを上げる。

人工知能の補助を失っても、艦は人間たちの意志で生きていた。

誰一人として目を離さず、誰一人として恐怖に屈しなかった。


十万の隕石型兵器。

それを、ただの人間の目と判断で凌ごうという無謀な賭け。


だが、この瞬間――《プロメテウス》のクルーたちは、確かに“生きた戦艦”そのものだった。

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