085_殲滅
隕石の密度がさらに増した。
プロメテウスは四方から押し寄せる巨大な岩塊に囲まれ、艦橋の空気は張り詰めていた。
「明らかに逃げ場がないですね」
クレアが冷静に言う
「ここまで追い込まれるのは久しぶりだ、いや初めてか」
クラフトは不敵に笑った。
「カイ、反応弾のセーフティー解除だ」
「了解」手際よくシステムを操作する。
クラフトは前方に集中する隕石群に向けて、反応弾を連続して発射する。
その破壊力は凄まじく、岩塊を次々と薙ぎ払い、炎と破片のトンネルを形成する。プロメテウスはシールドを最大出力にして、その炎のトンネルを突っ切った。
だが密集した隕石群を抜けると、さらに散在する隕石群が待ち構えている。
一時的に隕石の包囲を突破したに過ぎない。
「シールド低下。残強度、四〇パーセント」カイが緊張を帯びた声で報告する。
「博士、あとどれくらいかかる!」クラフトが尋ねる
「あと三分ほどですね」
博士はモニタに目を凝らす。額に汗が光り、表情には狂気さえ宿っていた。
暗号解読用の演算が進む。
画面上の数字が高速で変化し、進捗バーがゆっくりと埋まっていく。
「ほう……これは……」博士が低く唸る。
演算処理が進み、やがてモニタに「解読完了」の文字が浮かび上がる。解読開始から9分43秒。
「キャプテン、解読は完了しました。続けて分析に入ります。AIは復旧しますのでもう少し耐えてください」
「了解、シールドの強度が残り少ない、急いでくれ」
博士は画面上の膨大なデータを確認しながら、目的の信号を探した。
「これじゃないな……これも違う」
ナビが声をかける。
「博士、何を探しているのですか?」
「隕石から隕石への爆破指示の命令文だよ。あるいは爆破停止の命令。」
ナビは冷静に聞く
「隕石が個々に独立して判断しているなら、そのような機能はないかもしれませんが……」
「まあ、その可能性もある。しかし、ネットワークで連携しているなら、攻撃パターンが個別の判断だけに依存するというのは合理的ではない。真面目な知的生命体が作った仕組みなら、爆発も相互に連携しているはずさ。そっちにいったぞ爆発しろ、とか、距離が近いから爆発するな、とかね」
博士の目が鋭く光る。「おっ」博士は邪悪な笑みを浮かべた。
「見つけた。さて、あとはどちらの信号を作るかだが」
「キャプテン、爆破信号と停止信号。どちらにが好みです?」
「決まっている。爆破だ!依頼には脅威の排除がはいっている。こいつらを一掃しろ!」
「了解、あと四十秒持ちこたえてください」
隕石の直撃は避けられても、その破片はシールドをじりじりと削っていく。
「残強度、二五パーセント」
カイが冷や汗を浮かべながら報告する。
博士も状況を把握している。モニタを見つめ、データの流れを追いながら指先を高速で動かす。その横顔には恐怖の色はなかった。
「残強度、十八パーセント」
「よし、できた」
「キャプテン、偽信号の準備が整いました。実行してもよろしいでしょうか」
「やれ」クラフトは短く即答する。
「了解」博士が信号を発信した数秒後、モニターに無数の光が瞬いた。隕石群が次々に爆発し、炎と破片の海が宙域を覆う。プロメテウスはその中を航行しながら、艦橋のモニタで残敵を確認する。
「宙域をスキャン、残敵の確認を」
クラフトが指示する。
「反応消滅を確認」カイが答える。
「終わったか」
クラフトは深く息を吐き、艦橋の椅子にもたれた。
宙域には静寂が戻った。




