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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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059_静かなる通過

予選1日目。

展示会場の外縁に作られた特設競技エリアは、朝から熱気に包まれていた。

参加者数は四千名を超えていた。

そのうち半数が、今日だけでシミュレーターに乗る。すでに会場の電光掲示板には「一次予選:進行中(進行率38%)」の表示。各地で“勝った者”の名が表示されては、すぐに塗り替えられていく。

観客席ではすでにSNS配信が行われ、早くも“注目選手”ランキングが形成されつつあった。

だが、その中にクラフトの名前はない。

〈Pilot ID: 1024987 / CRAFT〉

〈指定ゲート:レーン22〉 

「機体データ受信完了。同型機、性能差なし」とAI音声が告げる。

レーンに到着したクラフトは、ポッドの中に静かに座り、呼吸を整える。

彼が搭乗する機体は、他の参加者と同一仕様。予選ラウンド1〜3までは、実力以外の要素を排除するため、“完全統一仕様”が徹底されていた。

「本気で勝ちすぎないようにな」と、クラフトは小さくつぶやいた。

ポッド内、照明が落ちる。

視界が仮想空間に切り替わり、〈ルーテ峡谷〉の戦場が広がった。


カウントダウン。

相手機との距離は中距離。視界は晴れ、遮蔽は少なめ。

真正面からの撃ち合いに持ち込むには適したステージ。

――だが、それは避けた。

開戦と同時にクラフトは旋回。先に撃たせ、回避の動きを見せながら軌道をずらす。逆にこちらからは狙わず、時間いっぱいまで牽制を続けた。

観客席には、もどかしさが漂い始める。

《なんで攻めない?》

《慎重すぎじゃない?》

《カメラ追ってても地味すぎて眠くなる》

だがクラフトは意に介さない。

相手のブラスター残弾。ミサイルの予備数。オーバーヒート時間。視点の癖。旋回速度のわずかな偏差――

すべてを把握し、「今なら撃てる」と思った直後にも撃たない。

焦らせ、誘い、引き出し、ギリギリまで“接戦”を演出する。

相手が“勝てるかも”と確信したその瞬間、クラフトは背後へ回ってロックオン。零距離ブラスター一撃で撃破。

時間残りわずか、判定は勝利。

だがスコアは“C+”――命中率・機動評価は極端に低く、「紙一重の勝利」と記録された。

ポッドを出たクラフトを、クレアが呆れ顔で出迎えた。

「……あの動き、大穴を演じるつもりですね」

「ギリギリすぎませんか?ナビちゃんなんて途中で寝かけてましたよ?」

通信越し、ホテルの展望ラウンジからナビの声が入る。

「にゃぁあ~……本気出さにゃさすぎて眠かったにゃ。カメラにすら映らなかったにゃ。いっそ予選落ちすれば注目されなくて済むにゃよ」

「それは困る」とクラフトが返す。

「通過はしたし、順位も低め。いい感じに目立ってない」

「完璧だ」

「完璧って……」クレアは額に手をあててため息をついた。

観客席では、少数の解析屋だけがその戦いに反応していた。

「なにあの試合運び……回避精度、読解力、誘導タイミング……見れば見るほど、わざと地味にしてる」

「バケモンだな、あの男」

だが、それも注目ランキングには反映されない。

登録名は“CRAFT”、戦績は“C+”、動画の再生回数は低いまま。

本気を出していない、ということすら気づかれない。

それもまた、彼の戦術だった。


〈現在:一次予選通過者 1536名/2048名〉


クラフトの名前は、順位表の下の方に小さく載っていた。

ギリギリ、安全圏。だが誰の目にも留まらない、曖昧な位置。

──予選、本格始動。

だが彼は、まだ半分も“力”を見せていない。

すべては、後の賭けフェーズで“仕掛ける”ために。

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