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誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について  作者: Sora
五章 バックス星系 第21回・銀河産業技術展示会編

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057_展示会をチラ見

〈シルバーナ〉が〈スカイ・ドーム・ホテル〉の専用ポートに滑り込んだのは、ちょうど日が傾きはじめた頃だった。

船体が静かに接岸するのと同時に、乗客用ゲートが開き、クラフト、クレア、そして猫姿のナビが姿を現す。旅の疲れも見せず、ナビは早くも興奮気味に小さな足をばたつかせていた。

「にゃああ! すっごいホテルにゃ! 走り回っていい?」

「フロントを突っ切らなければいいわよ」とクレアが笑う。 

「こいつ、どんどんネコっぽくなってくな」

クラフトが呆れて言う。

ホテルロビーは吹き抜け構造。天井には透過結晶のパネルが張られ、空の夕焼けがそのまま天井を染めていた。床は滑らかな白磁、大理石のカウンターには無人の受付端末が並び、来客を顔認証で迎えている。中央には噴水、両翼には浮遊式の案内ドローンが飛び交い、宿泊者の動線をナビゲートしていた。

チェックインは簡単だった。クラフトが腕輪型の端末をかざすと、自動的に二人と一匹分の宿泊情報が表示され、最上階スイートのアクセスキーが発行される。

部屋のドアが開いた瞬間、ナビが飛び出した。

「ふわふわの床! 大きいベッド! にゃー!!」

クッションに跳ね飛び、ソファの下をのぞき、バスルームへ走り、カーテンの隙間から身を乗り出す。完全に子猫のような無邪気さで部屋中を駆け巡る姿に、クレアは思わず吹き出した。

「落ち着きなさい、ナビちゃん。転げ落ちたら危ないわよ」

クラフトは荷物を置くと、無言で窓際へ向かう。自動ドアが開き、テラスへ出た彼の視線の先には、広大な都市ノイア・ヴェルクの夜景が広がっていた。

上空では広告ドローンが飛び交い、建物群の間をホバーカーが光の筋を描いて走る。遠く、海沿いの地平線には巨大なドーム型建造物――銀河産業技術展示会の会場が見えていた。

「見えるな、あれが例の展示会か」

「小型船から軌道上の大型船まで、今年はフルラインナップだそうです」とクレア。

ナビもテラスの手すりに飛び乗り、興味津々にドームを見つめていた。「にゃー、行きたい行きたい! 明日すぐ行こうにゃ!」

「名目上、“知見を広めるため”ってことですね」とクレアが小さく笑う。

クラフトは一言だけ、「ああ」と頷いた。


翌朝、三人はホテルから出て、展示会場へのシャトルに乗り込んだ。

空中走行のシャトルは市街を横断し、湾岸に広がる広大な敷地へと滑り込む。そこに建っていたのは、十数の展示ドームと観覧エリア。地上部では主に小型船・中型船、そして関連機材が展示されている。

大型船は軌道上に停泊しており、地上のブースでは各シップメーカーが最新モデルやロングセラーを紹介していた。衛星軌道上の実機は、希望者がシャトルで直接見学に行ける仕組みになっている。

エントランスのゲートを通過すると、顔認証と全身スキャンが自動で行われ、ホログラムの入場証が腕に浮かぶ。いかにも未来都市らしい入場方式だ。

会場内はまさに“銀河の技術見本市”だった。

AI制御の複眼ドローン、極小サイズのレーダーユニット、マイクロリペアロボット、生活用レプリケーター、重力制御シャワーなど、民間向けの最新技術が並び、ナビは見たものすべてに「にゃ!」と反応していた。

「レプリケーター、うちのシルバーナと同じ型ですね」クレアが展示機に触れながら呟く。

「でもこっちのほうが出力が上だ」とクラフトがパネルを読み取りながら言う。「ミネラル生成の再現度が倍近いな」

軍用セクションへ足を進めると、空気がわずかに張り詰めたような感触になる。ブラスターの新型モデル、砂漠用ホバー・ビークル、艦載ドローン兵器などが並び、冷ややかな光を放っていた。

ナビが興味深げに見つつ「いい装備だけど、傭兵が使うようなものは少ないにゃ」と言ったのに、クレアが頷いた。

そして、いよいよ――三人と一匹は、大型艦船の展示エリアに足を運ぶ。

吹き抜けのホールには、各星域の造船企業がブースを連ねていた。高級仕様のパトロール艇、長距離探査船、輸送に特化したコンテナ船、そして戦闘を前提とした攻撃型巡洋艦。

艦体を模した精巧なホログラムがブースごとに投影され、クルーの生活空間や艦内機能が立体映像で次々と紹介されていく。

クラフトの目が、ふと一点で止まる。

そのブースは他とは違いほぼ人が居なかった。この時代それぞれの艦艇は役割に応じて、運搬や医療という分野ごとに特化した作りが一般的だ。しかしクラフトの目を引いたのは、ディープスペース探査用の科学調査船のコンセプトモデルだった。

「ご興味ありますか?」

声の主は、二十代後半と思しき女性だった。長身で、落ち着いた色のスーツ。整えられた髪と瞳は静かに光をたたえ、深い知性を感じさせた。

クラフトは模型に目を向けたまま言った。

「この艦……他とはコンセプトが違うみたいだな」

彼女は微笑んで、小さく頷いた。

「ええ。こちらは〈ライムワード級〉のコンセプトモデル。エリジオン・アストロテック社が、複数の星間国家と共同で進めている深宙探査プロジェクトの一環として開発したものです。ディープスペース探査を主目的とした設計で、民間採用はまだ決まっていません」

「長距離航行用……?」

「はい。全長は約四五〇メートル、全幅一五〇メートル。内部には科学調査、研究開発設備、メンテナンス設備、高度医療ユニット、乗員の長期生活に対応した居住設備、さらに資材運搬用の大容量カーゴスペースも確保されています」

クラフトは視線を巡らせながら静かに訊ねた。

「つまり、調査・医療・生活・補給……そして?」

女性はひと呼吸おいて、艦体後部を示すホログラムを展開する。

「自衛能力も備えています。迎撃用ブラスター、誘導弾、シールド、防衛ドローン。あらゆる環境に対処できるよう、設計段階から汎用性を重視してきました」

「……まるで、宇宙に浮かぶ小さな都市みたいですね」

「他の船が目的ごとに役割を分けて設計されるのに対して、これは“万能型”か」

クラフトが呟くように言うと、女性スタッフは少しだけ苦笑した。

「ええ。今のトレンドとは、真逆ですから」

「どういう意味だ?」

「効率重視の時代です。任務ごとに最適化された設計が主流。不要な機能は“コスト”と見なされがちです。実際、この艦も製造費は他モデルの三倍近くになりますから」

クラフトは頷きながら、再び模型を見つめた。

調査、研究、開発、すべて揃っている。それは、戦闘を重視したシルバーナにはない機能だった。この船があれば、個人の力が及ばない難題も、アイデアと技術で新たな可能性を提示出来るかもしれない。もちろん、そんなシーンに出くわすことはないだろう。

──だが、もしも。

何かを、誰かを救える機会があるとしたら。

その時、この艦は“選択肢”になり得る――そんな予感があった。

彼女の目元に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。

「軌道上に実機が停泊しています。シャトルでご案内可能ですが、いかがですか?」

ナビが「にゃー!」と跳ね、クレアはクラフトの顔を横からうかがった。

クラフトはしばらく模型を見つめたまま、目だけを女性に向けて言った。

「行こう。実際に見てみたい」

「かしこまりました。ご案内いたします」

案内スタッフは端末に操作を入力し、アクセス認証を通すと、軌道シャトルのチケットが三枚と一匹分、転送された。


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