047_王女、海賊の襲撃に合う
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惑星ノバスから離れた鉱山衛星都市――そこは採掘施設が連なる無骨な景観の中に、生活区画や学校、病院が建てられた小さな街だった。王国第一王女セシリア・リュミエール=エクシオールは、この日、慰問と視察のために衛星都市を訪れていた。
港にはセシリアを迎えるため、小学校の子供たちが楽器の演奏を準備して待っていた。
「皆さまのご尽力が、我が王国の礎となっています」
セシリアは白と水色の軽やかな公務ドレスをまとい、微笑みながら子どもたちに手を振った。星の外れに暮らす人々にも、王家の温もりを届ける――それが彼女の信念だった。
だが、その穏やかな時間は突然終わりを告げた。
鋭い警報音。続いて響く爆発音。空を裂いて現れたのは、複数の黒塗りの高速艇だった。
「海賊です!武装集団が接近中!」
聖騎士団の警護隊が慌ただしく配置に就くが、敵は手慣れた動きで施設を制圧していく。
「王女様、こちらへ!」
侍女たちに囲まれながら、セシリアは専用シャトルへと向かった。タラップを駆け上がりながらも、彼女の視線は後方――逃げ遅れた子どもたちを庇って倒れた衛兵の姿に釘付けになっていた。
シャトルが上昇を始めた、そのときだった。艦内の通信端末が異音と共に海賊の映像を映す。
『セシリア王女。我々は現在、都市内の子どもたちを拘束している。あなたが戻らぬ限り、安全の保証はしない』
一瞬の沈黙の後、セシリアは毅然と答える。
「私が戻れば、子どもたちを解放するのですね?」
『ああ、約束しよう。だが逆もまた然りだ』
「では、先に子どもたちを私のシャトルまで連れてきてください。その全員の安全を確認した後、私は身柄を引き渡します」
数分後、シャトルのタラップ前に、海賊に連れられた十数人の子どもたちが現れた。
「さあ、早く」
セシリアは最前列の少女に歩み寄り、抱き上げてぎゅっと抱きしめた。
「怖かったでしょう。でも、もう大丈夫」
その顔には、微かだが確かな笑みが浮かんでいた。公務の仮面ではなく、一人の人間としての微笑。
全員の搭乗を確認した彼女は、侍女にタブレットを託す。
「陛下に伝えて。私の決断は、私の責任だと」
それだけ言い残し、セシリアはタラップを降り、ゆっくりと海賊たちのもとへ向かった。
その映像は、数時間後には王国中に広まり、そして惑星のニュース映像で取り上げられ続けた。
海賊の大型船1隻と中小の艦船20隻により鉱山衛星都市が占拠された。
「……厄介なことになったな」
白銀の髪に蒼い瞳。帝国第二皇子、ユリオス・ヴァル=ソレントは、冷静な声で呟いた。
ニュースは、子どもたちの救出と引き換えに人質となったセシリア王女の映像を繰り返し流していた。王女の通信記録、そして彼女が子どもを抱きしめる場面、その後の歩み。
「王女の身に何かあれば、この星系に留まっている者は身辺や行動を詳しく調べられるだろう。
正式な外交として来ていない以上、我々も対象になる。それはよろしくない」
「レオン。王国の騎士団で早期解決は可能だと思うか?」
尋ねられた親衛隊少佐レオン・バルザードは、腕を組んで首を振った。
「聖騎士団は対テロに対して、厳しい姿勢を取っています。恐らく、迅速な奪還作戦は難しいかと。敵の数も多いようですが、王女を含めて、民間人への被害がでることを承知の上で殲滅作戦を取る可能性が高いです。そうなれば、国民の非難を避けるために、調査が大々的に行われることになるでしょう」
「何か案はあるか?」
「作戦行動だけについてですが、少数精鋭での潜入し、速やかに王女を救出、早期解決に帝国が積極的に関与するのが良いと考えます。6名から10名相当の戦力があれば、対応可能です。功労者である帝国に調査の手が及ぶこともないでしょう」
ユリオスは立ち上がる。
「作戦行動以外は私の領分と言いたいのだな。理解した」
「レオン、準備しておけ」
「承知しました」
一方、海辺のリゾートエリア。クラフトはビーチサイドの屋台でコーヒーを啜りながら、同じ映像を眺めていた。
ニュースキャスターが深刻そうな声で伝える。
『王国第一王女が、鉱山衛星都市カリオスにて人質に──』
「……ああ、また厄介ごとが始まったか」
クラフトは短く息を吐く。パーティーで挨拶を交わし、お茶会で少し言葉を交わしただけの相手。依頼でもないのに、命を懸けて助けに行くには薄い縁だ、と彼は冷静に考えていた。
「王国騎士団の出番だろう。俺の出る幕じゃない」
クレアは何も言わない。
映像の中、王女が幼い少女を抱きしめる場面。その口元に浮かんだ微笑みに、クラフトの目が止まった。
あの笑顔は、晩餐会でも、お茶会でも見せなかったものだ。誇りや建前ではなく、心の奥から湧いた微笑。
「……そうか。あんた、そんな風に笑うんだ」
クレアは何も言わない。
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