034_集中訓練のメニューを考えて顔合わせ
星系の名前ってどうやって付けているのか聞かれました。
お答えします、この小説を書いているカフェの名前をもじってます。
タリーズ、ドトール、ルノアール、エクセルシオール etc
シルバーナ、ブリッジ。
ドクタスの朝は薄い重力のせいか、やや緩やかに時間が流れているように思える。
その静けさの中で、クラフトはモニターに映し出された編成図を前に、腕を組んでいた。
「なるほどな。こいつは、素直な布陣だ」
そのつぶやきに応じたのは、クレアだった。
静かながら確信を帯びた口調は、まるで音を立てずに降る雪のようだ。
「ええ。とてもオーソドックスな配置です。護衛艦は60メートル級の小型艦、主に機動性とシールド機能を重視しており、個々の艦は高い自衛能力を有しています」
ナビが横から補足する。
「現在の構成では、1チーム5隻で1隻の輸送艦を護衛しています。遭遇率や敵性データから見るに、この宙域であれば6隻体制にする必要はないでしょう」
クラフトはゆっくりと視線をモニターから外し、クレアを見た。
「つまり構成も機体は悪くない。中身を磨けばってことだな」
クレアは頷く。
「編成や装備は十分と考えます。個人の能力はまだ伸びしろが大きいと言えます。護衛に特化しているため、操船技術は中の上といったところかと。そこで、前半は技術基礎、後半に実戦形式のシミュレーションを組み込み、段階的に負荷を上げるのが良いかと存じます」
「対人戦闘訓練も軽く混ぜましょう。艦外での対応力にも繋がります」
クラフトは顎に手を当て、しばし考え込んだあと、頷いた。
「いいな。じゃあ、その方向でいこう。で技の抽出、できてるか?」
クレアがホログラムを展開し、四つの戦術名称を空中に浮かべた。
①バレルロール
機体を横軸に回転させることで弾道を回避する技
②インメルマンターン:
急上昇から急転回、敵の背後を取る機動
③スプリット:
高速Uターンでの追尾回避と反撃
④ジャックナイフターン:
直進中に機首を反転し、後方の敵を迎撃する技術
「訓練初期に導入するのはこの4つで十分でしょう。各技は高度な慣性操作とスラスタ制御を要します」
「なるほど。これを操れたら、並の相手には撃ち負けないな」
クラフトは鼻を鳴らしたあと、ホログラムを一掃し、新たに戦闘シナリオを浮かび上がらせた。
訓練後半用シナリオ案:
①護衛対象1隻 vs 海賊6隻(通常)
②護衛対象1隻 vs 海賊10隻(包囲)
③護衛対象1隻 vs 海賊6隻+待ち伏せ海賊6隻(奇襲)
「護衛対象は固定で、敵側の構成だけを変えていく。バリエーションを増やして、実戦適応力を高める」
ナビとクレアは静かに同意を示した。
準備は整った。あとは、彼ら自身が“始動”するだけだった。
翌朝
ドクタス・シップワークスのシミュレーションホール。
天井まで届くドームは灰白色の金属パネルで覆われており、静電フィールドがシステムと視覚情報を遮断していた。
15名のパイロットが整列している。まだ若さが抜けきらない顔も多い。だが、目は真剣だ。
最前列に立つのは、セキュリティ部門の長、レイモンド・カーク、体格の良い、眉の濃い男だった。
「アテンション!」
鋭く通った声がホールに響き、空気がぴんと張り詰める。
壇上にはクラフトとクレア、そしてオーナーのミオが立っていた。
ミオが口を開く。
「本日より、我が社セキュリティ部門の中核を担う諸君に対し、集中訓練を実施する。教官として迎えるのはキャプテンクラフト。戦術と実戦の両面で、私が最も信頼する男だ」
クラフトは無言で一礼する。隊員たちはその姿に視線を集中させた。
「ひとつ、お願いがあります!」
若手の一人が手を挙げた。頬に汗が伝う。が、声は震えていなかった。
「教官の戦闘技術を、ぜひ直接、見せていただけませんか!」
しばしの沈黙の後、クラフトは苦笑した。
「まあ、言われると思ったよ」
ミオが笑みを浮かべる。
「それも想定済みだ。シミュレーターを起動。キャプテンには“海賊役”をお願いしよう」
シナリオが開始された。
護衛艦5隻、護衛対象1隻。
対するはクラフト、単機。
クラフトは静かにシミュレーターに乗り込み、視界一杯に表示された仮想宙域を見渡した。
「懐かしいな。移民船での模擬戦とよく似てる。今回は義眼の予測はオフだ。同じ条件で勝負しないとな」
開始と同時に、クラフトは一点の躊躇もなくスラスターを吹かした。
「打診? そんなのは甘い世界での話だ」
初動、クラフトは護衛艦の隙間を縫い、直進しながらエネルギー弾を連射。
完全な奇襲。護衛艦1隻が即時撃沈される。シールドを展開していても近距離から集中砲火されたらすぐに破られてしまう。
「なんだと!?」
隊員たちのモニターが警報を鳴らす中、残った4隻が反応。3隻が追撃に入り、1隻が護衛対象に張りついた。
だが、その構成こそが、クラフトの狙いだった。
「そうくるよな。相手が1機とわかれば、複数で追ってくるのは理にかなっている。しかし、護衛が手薄になってるぜ」
クラフトは急上昇、反転し、上空から一気に護衛を守るために残った1機を急襲撃破。
多対一の戦いでは、序盤は1機づつ確実に落とす。
「護衛対象に張り付いていたら、逃げられないからな。セオリー通り3機で守っていればそうはならないのにね」
追撃してきた3機に対しては、直進しながらのジャックナイフターン。
背後から迫る敵を粉砕していく。
反応速度、予測軌道、重力操作すべてが次元を超えていた。
12分後、すべての護衛機が“沈黙”した。
シミュレーターから降り立ったクラフトは、訓練生たちの前に歩み出る。
「これで、いいかね?」
セキュリティ部門長のレイモンドは無言で頷いた。
次の瞬間、レイモンドの声がドームに響いた。
「本日より集中訓練に入る! キャプテンクラフト、クレア女史を教官と呼べ! 無礼は許されない! 1時間後、ミーティングルームにて座学を開始する。午後はシミュレーター訓練だ!」
隊員たちは敬礼し、静かに列を解いていった。
その顔には、先ほどまでになかった確かな火が灯っていた。
目の前に現れた“本物”に触れた者だけが持つ衝動だった。
「皆、若いな……」
クラフトがふとつぶやくと、クレアが隣から声をかけた。
「キャプテン?」
「いや、何でもない。俺も少し熱くなってるのかもな」
「それは、教官としての自然な反応でしょう」
ミオが微笑んだ。
「良い滑り出しだ。安心したよ、キャプテン」
「ありがとう、オーナー」
こうして、15人のパイロットとクラフトたちの密度の濃い4週間が幕を開けた。




