033_ドクタス観光そして次の案件が決まる
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翌朝、シルバーナの停泊するドックに、光沢のある漆黒のビークルが滑るように現れた。ミオ=デグラントと彼の子どもたちが乗っており、今日は観光案内を兼ねての小旅行だ。ドアが開くと、真面目な表情のカイと、本を小脇に抱えた内気なエナがこちらに微笑んだ。
「おはようございます、クラフトさん、クレアさん。今日は僕たちがドクタスをご案内します」
ビークルの中で、二人の子どもが交互にドクタス星系の成り立ちと企業連合の役割について話してくれた。中でも特徴的なのは、小惑星帯に生息する宇宙生物の存在だった。その生態系は他の星系にはない独自性を持っており、時折話題になるという。
最初に訪れたのは宇宙生物展示館だった。動物園に併設されたこの施設には、様々な星間生物の標本や映像資料が並び、クラフトは思わず足を止めて見入った。普段は映像越しでしか見たことのない生命体が、ここには生きたまま展示されている。
「すごいな」
そう呟いたクラフトの目の前に、巨大な蛇のような生物の幼生標本が現れた。うねるような体躯、無数の触手。それらが静止していることが逆に恐怖を誘う。これが成長すると直径百メートル、長さ数十キロにまで達し、小惑星の地表に穴を掘って船を襲うという。
「絶対に遭遇したくないな」
次に訪れたのは農園だった。工場で栽培される穀物や野菜のほかに、観光者向けに昔ながらの畑での栽培も行われていた。温室の中では、青々と茂る野菜の葉が揺れている。
併設されたレストランでは、朝採れの野菜と新鮮な肉が供され、シンプルながら旨味の深い料理が並んだ。
「これ、美味いな」
「そう言っていただけて光栄です」
ミオが静かに笑った。
昼食の席では、子どもたちが傭兵の仕事について興味津々で質問してきた。カイはその運用や戦術に、エナはクレアの存在に強く関心を示した。
「クラフトさん、戦場で一番大事なのって何ですか?」
唐突にカイが尋ねた。
「索敵だな」
クラフトは即答する。
「敵より先に対象を見つける。先に見つけたほうが圧倒的に有利になる」
「へえ……機材の話じゃなくて、まず目なんですね」
「機材も大事だがな、実戦じゃ一秒の判断で命が決まる。先に見つけて、先に動いたほうが強いんだ」
カイは頷いて、どこか真剣な表情になった。
今度はエナが口を開く。
「カテゴリ4のアンドロイドって、陽電子頭脳が特徴だから、普通は船やコロニーの中枢に設置されるだけで……その、人型にすることってないんですよね?」
「そうだな」
クラフトはさも知った風に答えた。しかし内心、自分の隣にいるクレアがいかに例外的な存在かを、改めて意識した。そうなんだ、カテゴリ4って人型は稀なんだ。知らなかった。依頼した工房の連中も言ってなかった。
「シルバーナにはナビがいるので、航行やデータの分析は彼の領域だな。一方で、対人戦闘や人との会話からの情報把握には向かない。そこはクレアがサポートしてくれてる」
「なるほどです!」
エナは納得したようだった。
「私は、手足が必要なケースを優先的に対応しています。それ以外は基本ナビにお任せですね。……あとはキャプテンの夜の世話を」
「クレア、それは言わなくていい」
「そうですか。では記録には残しません」
エナが吹き出しそうになりながら笑いを堪えた。
ミオ氏が口を開く
「私が興味を引かれたのはシルバーナですね。設計を見ましたが、とてもユニークです。推進やシールドのために独立したコアを持つ。ブラスターは連射よりも、破壊力重視。見たことない技術もちらほら。メタ王国のコルベットがベースのようですが入手の経緯を聞くのは無粋ですかね?」
「そこは企業秘密ってことで」
クラフトは曖昧な回答をしたが、ミオ氏もそれ以上突っ込んでくることはなかった。
午後は市内観光だった。ドクタスの都市を一望できるタワーに登ると、遥か地平まで続く都市の輪郭と、その奥に連なる山々、宇宙港の輝きが見えた。
「いい景色だ」
クラフトが素直に言うと、クレアも同意するように頷いた。
メインストリートでは、子どもたちが流行のブランドやショップについて教えてくれた。クレアの目が何かに反応するたび、エナが嬉しそうに説明を添える。ここ最近、人との会話が増えたせいか、クレアの表情が豊かになった気がする。
カフェで一休みしながら、B級グルメを堪能した。芋の薄切りを揚げただけの料理が驚くほど美味で、肉と骨を練り込んだソーセージも癖になる味だった。会話は終始なごやかで、子どもたちの笑顔が印象に残った。
少し早めの解散の際、ミオがクラフトに近づいた。
「キャプテン。今晩、よろしければ夕食をご一緒しませんか? 大人だけで。少し仕事の話もしたくて」
「構わない。時間は?」
「19時に迎えを手配します」
夜、超高級料亭に到着したクラフトとクレアを待っていたのは、極上のコース料理と、静かで落ち着いた空間だった。料理は見た目も味も素晴らしく、クラフトは何度も頷きながら口に運んだ。
食後、ミオはグラスを置いて言った。
「今回の件では、本当にお世話になりました。あなた方がいなければ、どうなっていたか……」
「仕事だ。気にするな。その後、何か進捗はあったのか?」
「捕縛した犯人は海賊でした。しかし下っ端のようで、こちらが望むような情報は持っていませんでした。海賊の拠点情報は入手できましたが、おそらくすでに逃走した後でしょう」
「そうか」
「一つ聞いていいか?」
「答えられることであれば」
「稼働前のゲイトが1つ破壊されただろう。そのゲイトのある座標に最も近い星系はどこだ?」
「ソレント帝国領の治める星系です」
「ソレント、そうか」
「やはり気になりますか?」
「まあ、一介の傭兵には過ぎた案件だろう。近寄らないようにするよ」
「そうですか」
ミオもクラフトもこの件が終わっていないことは理解しつつそれ以上の会話をすることはなかった。
「では、本題に入っても?」
ミオの表情が真剣になる。
「四週間後、企業連合と周辺星系軍による共同作戦が実施されます。小惑星帯に生息する成長したワームの駆除作戦です。今日の午前に見た生物の件ですね。成長した個体の活動範囲が拡大しており、今後被害が出る恐れがあります」
「個体数は?」
「対象となる成長個体は三十二体。全体の生態は監視されており、ほぼ把握しています。一定規模以上の企業には参加と協賛が義務付けられており、私たちの会社もセキュリティ部門を派遣する予定です。そのセキュリティ部門は、身元の確認も再度行って、信頼のできる者だけで構成しています」
「それで、俺に?」
「キャプテン、ギルドを通じて傭兵への打診はすでに始めていますが、可能であればあなた個人に正式な協力をお願いしたいのです。我が社の名義で、ギルドよりも好条件を提示します」
「悪くない話だが……俺に依頼する理由が弱いな」
「あなたの戦闘記録を確認しました。身辺警護もですが、海賊船十一隻を撃退した防衛戦――見事でした。あれほどの制圧力を見せられたら、我が社のセキュリティ部門も強化したくなります。訓練を、お願いできませんか?」
「なるほど。訓練か。悪くはないが、四週間拘束されると、ギルド案件を受けられない。その損失分を上回るかどうか、だな」
「訓練費用として、一億クレジットをご用意します。ワーム駆除作戦は4週間後、そちらは参加費として五千万クレジット。弾薬などの費用は全額こちらで負担します。さらに、駆除の成功報酬については、ギルドからも支払われます」
クラフトの口元がほころぶ。
「キャプテン、顔が」
クレアが小声で注意した。ミオが苦笑する。
「受けよう」
次はSFもの定番の怪物駆除です。
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