棲み潜む空腹:第十話
「キナくさいって……何かあったんですか?」
木蘭座についてどうやって調べたのかは謎なんだけど、周さんがそういうくらいなんだから相当なネタを掴んだんでしょうね。
そんな気持ちと共に周さんに視線を向けると、それに気づいたらしい周さんがニカッと笑う。
「木蓮座がやってる出し物の中に、占いがあるらしいんだ。出し物の中でもかなり奥まった場所でやってるんだが、これがまあ百発百中といっていいほどよく当たる、って話なんだなぁ」
周さん曰く、〝近日中に大金を手にする〟と言われた人が財布を拾ったり、〝良縁来たる〟と言われた人に見合いの話が舞い込んだり……。
木蓮座の占いは当たらないことがないって噂が噂を読んで、連日お客が引きも切らないらしいの。
もし周さんの話が本当だとしたら、それってとってもすごい事だと思う……けど……。
ただね、こうも思うのよ。〝それって、とっても怖いことなんじゃないかしら〟って。
だって、いいことばっかり当たればいいけど……その占いが百発百中っていうなら、それが悪い結果だとしても本当のことになちゃうってことでしょう? 未来は変えられる、って、そう思いたいじゃない?
そもそも、〝当たるも八卦、当たらぬも八卦〟……っていうのが占いっていうものなんじゃないかしら?
必ず当たる占いなんて、存在しないと思うんだけど……。
「……百発百中の占いなど存在しないと思うんだがな? もしお前が言っていることが本当だというなら、そんなに当たるのは気味が悪いな」
「まあな。妙な話だとはオレも思うよ。何かしらの手を使って占いの結果を本当にしているのか、はたまたサクラの噂が独り歩きしているのか……」
そんなことを考えつつ首を傾げる私の考えを読んだわけじゃないんだろうけど、伊吹さんも必ず当たる占いについて不信感を持ってるみたい。
渋い顔で首を傾げる伊吹さんと、それに同意を示す周さん。
「だがまあ、問題は占いが当たりまくってることじゃなくてだな……どちらかというと、〝占いにいくこと〟が問題と言うか、何というか……」
「えっと……つまり周さんは、その占いそのものが不審なものだっていう証拠か何かを掴んだ、って言うことですか?」
「お! よくわかったな、雪ちゃん」
私の言葉に、パチンと指を鳴らして周さんが破顔する。
この反応からすると、私の予想は当たってたみたいね。
「どうもな、怠病になった人間の殆どが、その占いに行ったか……もしくは占いをしに行ったヤツが身近にいるか……っていう感じなんだよなぁ」
「え、ええぇぇぇ!?」
周さんの口から飛び出したとんでもない情報に、驚愕の叫びしか出てこない。
もしこれが本当なら、これって大変なことじゃない?
一見無関係だった怠病と木蘭座に、まさか関連があったなんて!
思わず口元を押さえて黙ってしまった私と、その隣で難しい顔で腕を組む伊吹さん。
「え……それ、本当なんですか? というか、今日一日でよくそんなに調べられましたね?」
「ああ。小鬼たち以外の連中にも手伝って貰ってあれやこれや調べてみたから、信憑性は高いはずだぜ?」
「うぅぅん……行動力の塊……」
周さんの行動派エピソードは伊吹さんから聞いてたけど、こうして目の当たりにするとパワフル、なんて言葉じゃ収まらない力強さを感じるわ。
まさか、私に言伝てするのを忘れるくらいに夢中になっちゃうなんて……。
まぁ、それだけ木蘭座について気になった、ってことなんでしょうけど。
頭の中であちこちに飛び回る思考を抑え、改めて周さんに向かい合う。
「それはつまり、占いに行くと本人なり身近な人が怠病になる、ってことですよね?」
「ほんの僅か、占いに行ったが本人も家族も発病しなかった例もあったりするんだが……占いが関わってるだろうとアタリを付けるには十分だろう?」
「うぅん…………確かに……」
悪戯っぽく瞳を煌めかせる周さんの言葉に、私もじっと考えを巡らせる。
周さんの仮説が本当なら……今後、もっと被害は拡大していくはずだわ。
だって、百発百中って言われてる占いに、連日人が押し寄せてるんだもの。
このままのペースだと、帝都中に怠病が広がるのも時間の問題じゃないかしら?
……誰も彼もが精気を失って、倒れて、寝付いて……今はまだ死者こそ出ていないけど、これからどうなるかなんてわからない。
もしかしたら、病が広がるにつれて失われる命だって出てくるかも……。
「…………それにしても、どうして占いに行くと怠病にかかるの……?」
「……雪ちゃん?」
「占いの精度を上げて、人を呼んで……帝都に怠病を広げてどうしたいのかしら……?」
不意に、耳の奥にキィンと甲高い音が響く。酷い耳鳴りで目眩がしそうだわ……。
それと同時に、頭の中で〝どうして〟っていう言葉だけがグルグルと渦を巻いて暴れだした。
周さんがこっちをみてる気がするけど……なんだかそれもよくわからなくって……はっきりと目に写るのは、いつのまにか目の前に置かれていたカードの束だけ。
表紙のベロ藍に散った白い星の輝きが、〝手に取れ〟って言っているように感じられて……私の腕は、迷うことなくカードの山に伸びていた。




