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前略、灰色青春探偵様【連作ミステリィ・三流探偵シリーズ】  作者: 佐久間零式改
眠り猫のいる風景
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第2話 シキが鳴いたという四つの証言

――――――――――5月31日 16:15



 放課後、有無を言わせぬいなりに従うように、話題の図書室へと二人で行くこととなった。


 俺といなりは並んで歩いて図書館へと向かった。


 いなりとこういうふうに並んで歩くのは初めてで新鮮ではあった。


 とはいえ、白ワニ事件の関係者である以上、気が置けないところがあるのが難点だ。


「これは図書室で猫の声を聞いたという人の証言なのですが……」


 いなりはそう前置きをして、学校指定のバッグの中から用意周到とばかりに一冊のノートを取り出した。


 何のノートだろうかと詮索しながら見ていると、いなりはとあるページを開き、朗読し始めた。


「これは高等部三年生のU・Dさんの証言です」


「……証言? 何のだ?」


「シキちゃんの鳴き声を聞いたという証言です。今のところ、四人から証言が取れているのです」


「とりあえず聞いてみよう」


 いなりは取材までしたのかと関心しながら、その証言とやらに耳に傾けた。


「今みたいな放課後の話なのです。U・Dさんは大学受験の勉強があるからと図書室へと行き、自習したのだそうです。しばらくすると何か妙な気配がしたというのです。何かが蠢いている、そんな気配だったのです。気になりだして、勉強が手に付かなくなり、図書室の中を見える範囲で見回したのですが、これといっておかしいところはなかったそうです。その時に『にゃ~お』とい猫の鳴き声が聞こえたそうなのです。猫?と思って、U・Dさんは図書室をもう一度見回してみたのですが、猫なんて当然そこにはいませんでした。U・Dさんの証言は以上です」


「そいつは、なんで眠り猫シキが鳴いたって思ったんだ?」


 シキが鳴いたのを偶然見たのならば話は別だ。


 今の証言だとシキが鳴いている事を見ておらず、あくまでも憶測で物を語っている。


 その人物はシキの置物さえ見ていないのだから、証言として信憑性があるかと言えば、そうでもない。


「シキちゃんが鳴くっていう噂を耳にしてから、あの鳴き声はシキのだったのか! って思ったそうですよ」


「こじつけの可能性もあるって事か」


「かもですね」


 いなりはこの証言をあまり信用していないのか、否定的な見方をしている言葉を選んでいた。


 端からシキが動くのを否定したいだけかもしれない。


「続いて、高等部一年生のO・Aさんの証言なのです。その人は本を返却しに行って、図書室のカウンターで図書委員に返却の手続きをしている最中に『にゃ~』という猫の鳴き声を聞いたそうです」


「それだけ?」


「はい」


「シキの方から聞こえたのか? それとも別の方向から?」


「その辺りはよく分からないのです。図書室で猫の声を聞いたとだけですね」


「……ふむ」


 図書室からした、というのならば、間近で聞いたという事なのだろうか?


 返却はカウンターのところで行うから、眠り猫のシキが近くに置かれているため、シキが鳴いたと連想するのも不思議ではない。


 いかんせん証言としては、評価がしがたい。


「高等部二年生のT・Kさんの証言なんですけど、これは信憑性があると思うのです。その人も図書室のカウンターの近くで『にゃ~~っ』っていう猫の鳴き声を聞いたそうなんです。しかも、シキの置物から音がしたというのです。シキは動いてはいなかったけど、シキが鳴いたように思えたっていうのです」


「……ほぉ」


 実際にシキが鳴いたところを見たワケではないのが、信憑性としては疑念が残る。


 しかし、最初の証言を除けば、図書室のカウンター、つまりはシキがいる場所から猫の鳴き声がしたという証言が取れていることになる。


 つまりは、シキが鳴いたと想定されるといったところだ。


「で、四つ目の証言は?」


 俺が促すと、いなりは開いていたノートを閉じて、俺を見てにんまりと笑う。


「最後の証言は私なのです。先日、図書室で本を探していたところ、シキちゃんがいる方から『にゃ~う』っていう可愛い鳴き声がしたんですよ」


「にゃ~う?」


「にゃ~う」


 いなりは右手で招き猫のポーズを作って、そう可愛く鳴いた。


「……ふむ。つまり、図書室でまれに猫の鳴き声が聞こえるから、シキが鳴いていると推測され、注目されているといったところか」


 集団幻覚、もとい、集団幻聴ではなさそうだ。


 そうなると、猫の鳴き声というのは事実に思える。


 だが、シキが鳴いたとなると疑わしい。


 どういう事なんだろうな。


「シキちゃんの寝床に到着したのです」


 いなりに言われて、俺ははまり始めていた思考の螺旋から離脱する事を余儀なくされ、立ち止まった。


「図書室なのです」


 俺といなりは、図書室の前に来ていた。


 置物が鳴くなんて事はないだろうが、とりあえず調べてみるとしようか。


 俺は図書室のドアに手をかけ、そっと開けた。



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