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栄光の跡地

午前11時頃、カラオケ店を出た私達は北に向かって歩き始めた。


「昔は市内電車が走っていたから、乗ればすぐいけたんですよ!」


こうやって案内役を務めてくれるのが、ぱくりまく朗。本名は不明で、私の開設しているブログに意味不明人によっては迷惑千万な投稿やを繰り返していた謎の危険人物だったが、ブログのオフ会に現れてその意外な姿にど肝を抜かれ、あることをきっかけにこうして行動を共にする機会を得た。詳細は後程話すことにする。


「ちなみに、この辺では市内電車のことをちんちん電車って呼ぶことが多いんですよ~うちのおばあちゃんも昔はこっちに住んでるから、ちんちん電車ちんちん電車ってたまに懐かしがってます!」


軽音楽部あるいはラブリー戦車部に入っていそうな、私ほどではないがかなりの美少女であるのに、このまく朗と言うやつは下ネタを恥じらいもなく言う。どう言う育ちかたをしたのかは、ウロボロスの寝床或はテセウスの船が真にテセウスの船であったかどうかと言う事に匹敵する謎であるが、そこを詮索するのは至極下衆な行為であるから、本人から切り出さない限りは海豹(あざらし)の皮を被った善良なる童と言う事で、その存在を留めおくことにしよう。



この私とて、このジャンヌ=ダルクとて、このしがない日本人である 十字まもり に生まれ変わったが、果たしてその魂がまことのものなのかは定かではない。神の声が聞こえなくなった聖女など、我ながら実に定まらぬ存在に思う。かつて受けた、裏切り、絶望、悲しみ、苦痛の記憶が(ほのお)と共にこの心に焼き付いていることが、逆に自己を自己たらしめている要因となっている事は実に皮肉である。そんなことをつらつら考えていたら、急に立ち止まったまく朗にポインとぶつかった。



「どうした?」


「いや~、あそこにはペラムンがあったんですけど、遂に無くなっちゃいましたねー」


「……」


うって変わって呑気な話ではあるが、ペラムン……正式名称ペーラームーンはアニメ関連の本やグッズに特化したオタク腐れ女子向けの店である。ネーミングは間違いなく某美少女戦士であろう。


「この辺では残された最後の希望者みたいな存在だったのになあ」


「そうなのか? JR岐阜駅の高架下付近にアニマイトがあったから、あれで十分ではないのか?」


「いえいえ~ペラムンは独自路線をいってたんですよ。あちらでしか買えない同人誌もあったし、他にも、オリジナルグッズとかあれやこれやあったんです」


言ったことは無いが、噂には聞いている。「西方シリーズ」や「ふぎらしを炊く頃に」などをいち早く取り入れて、オタク文化の最先端をいっていたとか。しかし、それも今は神話伝説の類いと化しており、私がペラムン大須店に入った時には最早その面影はなく、売っていたのは大量のサイリウムとアイドルのブロマイドのみであった。もう少し早くひきこもりからニートになっておけば、その栄光を垣間見れたかと思うと実に惜しい。


「残念すぎておならプーです」


「確かに」


「結局、柳ケ瀬は大須のようにはなれなかったんですよね。昔はゲームショップとか、そっち方面の店が結構あったのにみーんななくなっちゃいました」


「そうか……」


まく朗がこんな風に語るということは、オタクカルチャーにはほぼ期待できない事を意味する。明確な目的がなかったら、テンションはがた落ちするに違いない。アニマイトに行って、駅ナカで昼食いただき帰るのみでも良かろう。


しかし、明確な目的が私にはあるのだ。


「ジャンヌさま?」


「……これ以上立ち止まるまい。行こう、柳ケ瀬へ」


「はい! 屁ブーストして向かいましょう!」


隠されし神の因果にて滅びしペラムンよ、仇はこの私が討つ。だから、今は安らかに眠るがよい……



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