下がるシャッター、唄う老婆に歩く犬 (※大まかなあらすじ付き)
歩いて柳ケ瀬に向かうジャンヌ達。
理由は、バスで行くには中途半端な距離だからである……もっとも、歩いたら歩いたでそれなりに距離があってやっぱり中途半端なのですが……( by岐阜県民)
「柳ケ瀬に煌めく英知ガブリエルブレインの噂あり」
同じく現世に転生し太ましい男と化したジル=ド=レイからその情報がもたらされたのは、皮肉にもPSSC用ゲームソフト「秘刀恋舞Ⅱ~愛オシキサダメ~」が発売した日であった。
隠されし神の居場所へ誘う新たなる「聖女」を探し出すカギとなる3つの道具のアイテムを手に入れることは、世界を救うために必要な事であり、現時点でその1つである聖剣フラガラックは手中に収めている。その聖剣を大須の地下に存在した古の迷宮で命からがら手に入れた際に、守っていた守護者の少年から残りの2つのアイテムの名前を知り、ジル=ド=レイに伝えたところ、奴はその財力にものを言わせているのかどうかはわからないが1週間経たぬうちに先程の情報を仕入れてきた。かつても優秀な仲間であったが、衰えている気はしない。そもそも、フラガラックや神が隠されて世界が危機にひんしているといった情報もジルからもたらされたのだ。気になる部分
はあるけれども、今のところそれなりに的を射ているので、従っている。ただ、待ちに待った新作ゲームソフトの誘惑に負け初動が遅れてしまい、こうして二週間も経ってやっと岐阜に赴くことになったのは、長らくひきこもり生活をしていた私の中に培われ、今も蔓延る怠慢根性によるものであろう。まったく不徳の致すところで、もし今本当に大いなる御神及び数多の天使様の眼が暗黒に包まれているとしたら、それは不幸中の幸いに他ならない。
「ジャンヌさま~ここからが、いよいよ柳ケ瀬ですよ~」
そう言って見上げたぱくりまく朗の視線をなぞると、そこには、雑多さで有名なディスカウントストアがあった。
「ドンキ……か……」
「前は100均ショップだったんです」
横断歩道を渡店の前に至ると、マスコットキャラクターであるサンタ帽子を被った薄汚れ気味なペンギンの像と、大量の自転車が目を引き何だか訳もない視覚的疲労感を与えてくる。付近に何やら芸術家が作ったギターを象ったと思われるモニュメントがあるが、哀れにもその大半は段ボール等や無機質たる鉄箱が蔓延る資材置き場の中にに埋没しており、一部しかその姿を見ることができず、その存在美は雑然の中で半分以下に封じこまれてしまっている。ある意味においてまことに容赦ない仕打ちであるが、人が刻んだ歴史の中で、これよりも更にノンデリカシーな文化弾圧があったのだから随分ましな方と言える。ドンキは宗教的背景や排他的偏向思想があるわけではないし、何より日本と言う国は基本的に非武装非戦争をモットーとしている。この程度は享受して許容範囲と思いたい。ただ、町の顔に位置するものが100均やドンキと言うのはやはり素直に享受することは難いが。
「ではジャンヌさま、ドンキーは帰りに寄るとして先ずは柳ケ瀬の中にゴーゴープーです」
「そうだな」
まく朗曰く有名俳優さんが紹介したお陰で予約しないと買えなくなった栗粉餅屋の横から、いよいよ本題であろう商店街に突入した。
「ここが……柳ケ瀬か……」
天を覆うアーケードにより昼間から薄暗いその街並みは、大須商店街に似ている。しかし、あの場所とは決定的に違うものがあった。それは、活気だ。
店の多くはシャッターが閉まっており、ところによっては中が空洞化している。歩く人もまばらで、デパートらしき廃墟には何者かによって、エキセントリックな落書きが施してある。オタク向けな店は望めないとまく朗から聞いていたが、それ以前に大分過疎化しているように見える。シーンと言う音が聞こえそうなくらいに街全体が静かで、いかに平日とはいえ地元の繁華街と比べて圧倒的に元気がない。私は、そのドンレミ村よりも閑散とした空間に逆にえもいわれぬ興味のようなものを感じ、足を止めた。
「やはり、大型専門店に客を取られているのか?」
「それもあります。でも、それだけじゃないですね。先ほど言ったように、市内電車が無くなっちゃったから交通の便が悪くなったりとか、若者達が離れていって高齢化が進んだからとか、新幹線の駅が羽島だからとか、色々理由はあると思います」
「なるほど、大須や秋葉原のように一点特化ができなかったのは、若者が不足していると言うことか」
「動いている人や、大学みたいな学校ぐるみで盛り上げようとしているところはあるんですけど、まだ大衆世間の目に見える成果は出せていないのが現状みたいです。あ、でも、大須に習ってコスプレフェスティバルを始めたり、アイドルを結成したり、毎月同人イベントしたり、夏に廃墟使っておしっこちびりそうなお化け屋敷開いたりしてるんですよ!」
「いや、お化け屋敷は大須でやったのを聞いたことがないんだが」
「さすが、ジャンヌさま指摘が鋭いです~漏れそうです」
「しかし、それにしても人が少ないぶん情報集めには苦労しそうだな。せめて日曜日に来るべきだったか」
「ジャンヌさま、本当に漏れそうです。尿意来ました~」
「……この辺にトイレはあるのか?」
「行くとしたらゲーセンかタカシマヤですね」
「ああ、ゲーセンがあるのか。では、そこにしよう。ラインナップも気になるしな」
僅かなるオタ文明の希望に向けて再び歩き出し、有名ハンバーガー店の脇に差し掛かったところで、今度はまく朗が足をとめる。急ぎトイレに行きたいはずの人間が、停止するなど何事かと思ったが、すぐに理由が解った。
なぜなら、その眼前に、明らかにこの場所において、柳ケ瀬と言う寂れたる商店街において、まこと異質まこと不適合たる存在が存在していたのだから。




