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第33話 死亡フラグは突然に(笑えない)

「テレサ!」


 王城、廊下。

 第3王子チャールズは、1日ぶりに妹の姿を見た。


「ただいまですチャールズ兄様」

「ただいまです、じゃないよ! 一体どこに行っていたんだ、皆心配してたんだぞ!? 特に兄上と父上がご乱心で……」

「ちょっと異世界に行ってまして……」

「はぁ?」


 テレサはアシリアを追ってヤマト国へ行った事、紋々太郎一派との戦い、竜宮城の話をチャールズに聞かせた。


「す、すごい事になってたんだね……」

「はい。特にガイアさんは悲惨で……」


 怪鳥と衝突し魔法の絨毯から落っこちて一派のボスと出会したり、事故の様な形で悪竜の王と邂逅したり。

 ガイアは一際酷い目に遭っている。


「ガイアさん?」


 その声は、チャールズの背後の曲がり角から。


「あ、ウィリアム兄様」

「っ……!」


 角から現れたのは、ガタイの良い眼鏡野郎、第一王子ウィリアム。

 その目元には、薄らと隈が出来ていた。

 昨晩は「テレサを探す」と、エドワードや部下達と共に寝ずに街中を駆けずり回っていたため、寝不足だ。


「テレサの気配がしたから来てみたら……無事で良かった……」

「心配かけてしまったみたいで、ごめんなさい」

「良いんだテレサ。お前が無事なら、俺はもうそれだけで何もいらない……」

「あ、兄上……ちょっと良いですか?」

「後にしてくれチャールズ。テレサ、少し話を聞かせてくれるか。昨日の事もそうだが、そのガイアさんとやらについて」

(ですよねー……)


 こうして、ガイアの知らない所で、ガイアに死亡フラグが建った。





「ん?」


 人で溢れかえった繁華街。


 唐突な寒気がガイアを襲った。


(……何だ……?)


 今日は冬にしては暖かい方だし、ガイア自身に風邪の兆候も無い。

 思い当たる事と言えば……


(……姉貴と会うのがそんなに嫌か、俺の深層意識……)


 ガイアはこれから、実の姉と会う約束をしている。

 よくわからないが、さっき突然、『不意な休みになった。たまには姉弟で話でもしましょう』とメールが着たのだ。


 ガイアの姉は極端な女尊男卑主義者。

 幼い頃から、ガイアは余り姉との良い思い出が無い。

 会う事に消極的なのも当然の心理と言える。


(コウメ放置して来ちまったのも不安だし……)


 テレサは「昨日は無断外泊という形になったので、1度お城に顔を出してきます」と城に行ってしまった。

 今、オフィスにはコウメとアシリアしかいない。


 ついさっき異世界から来たばかりの少女を放置するのは少し不安だ。

 しかし、「い、行ってください。私のために気を遣わないでくださいお願いします……私、人に気を遣われるとストレスで胃が…あ、私の体調悪化なんて望む所ですよねごめんなさい」とか言い出したので、姉の方を優先せざるを得なくなったのだ。


「アシリアがいるから大丈夫!」とかアシリアは言っていたが、まぁ正直不安だ。

 アシリアの知識は族長の知恵袋がメイン。

 そしてその族長の知識は大抵何かしらおかしい。

 コウメにこっちの世界について妙な事を吹き込んで無いといいのだが……

 とにかくさっさと戻るのがベストだな、とガイアは思う。


「つぅか何の話だろうな……」


 あの男嫌いの姉がわざわざ呼び出すとは、相当だろう。

 待ち合わせの喫茶店に入り、ガイアは姉の姿を探す。


(……いた)


 奥の席に座り、優雅にコーヒーを飲む若い女性。

 その外見は、ガイアと同年代であってもおかしくない程に若々しくスタイル抜群。そして一般的感性で見れば美人に分類される顔立ち。


 ガイアの姉、マリナ。

 下手すれば10代にも見えるが、ガイアとは10歳近くも離れた、30手前の立派な大人である。

 現在の務め先は警視庁。結構なエリートさんだ。


「おっす」


 余り気は進まないが、ガイアは彼女に声をかけた。

 どうせぶっきらぼうな言葉が出迎えて来るだろう。

 身内とは言え、この姉は男を極端に嫌う。


 きっと開口一番ガイアに悪態を……


「久しぶりね最愛の弟ちゃん。ああ可愛らしい」

「お前は誰だ」


 ガイアには弟に優しい言葉を投げかけながら微笑む様な姉なんていない。

 割と本気で他人の空似を疑う。


「忘れたの? あなたのお姉ちゃんよ。ほら、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでごらん」

「なんだろう、鳥肌止まんねぇ……」


 結構ガチの方の鳥肌が立っている。

 悪竜の王の時とは恐怖のベクトルが違うが、度合いで言えば同程度に恐い。


「いい加減にしなさいよこのクソ野郎。せっかくこっちから歩寄ってやってるってのに……」


 マリナはコーヒーを一気に飲み干し、ぶはぁ、と豪快に一息。

 その顔には親の仇でも目の前にしたかの様な、不快感丸出しの表情。


 良かった、自分の知る姉に戻った。とガイアは安堵の溜息。


「つぅか今の優しいお姉ちゃんキャラは何のご乱心だよ……」

「うっさいわね。少しは優しくしろって言ったのはあんたでしょ」


 ああ、巨乳騒動の時のアレか、とガイアは思い出す。


「まぁ、あの一件で私も考えた訳よ。……確かに、いくら男とは言え、今までのあんたに対する私の態度は、いくら何でもキツイものがあったんじゃないかと」

「今更過ぎる」


 ガイアの中で、このお姉様はもう立派な天敵だ。

 今更歩み寄られて来ても怖くて逃げ出す。


「で、まさか今の心臓に悪い悪趣味なドッキリのためだけに呼び出したのかよ」

「……あんたも結構ボロクソ言うわね……ま、いいわ。もちろん、他にも用件はあるわよ」


 何でも、急にまとまった休みが取れたそうで、実家に顔を出すつもりなのだそうだ。


「で、一応母さんと、ついでにあの父親に、私達姉弟の近況を報告しておこうと思ってね。どうせあんた、母さん達と全然連絡取って無いんでしょ?」

「まぁ……」

「という訳で、何か特別変わったことがあれば言いなさい」

「変わった事、ねぇ……ああ、バイト変えた。あと、妙な組織に入った」

「妙な組織?」

「一応、悪の組織」

「……あんた、自分の姉の職業も忘れた訳?」


 マリナの職場は警視庁の割と上の方である。

 それを相手に「悪の組織に入りました」などと宣言するとはどういう了見だとマリナ的には思うわけだ。


「安心しろよ。警察の厄介になるどころか、オフィスは警察からの感謝状だらけだ」

「はぁ? 悪の組織なんでしょ?」

「正確には悪の組織(笑)だ」


 あの組織形態でまともな悪の組織を名乗れる訳が無い。

 まぁ今の所給料が出たこと無いので、そういう面では完全なるブラック企業だが。


「姉貴も知ってるだろ、『正義の魔法使い』」

「ああ、最近悪党どもをしばき回してくれる可愛子ちゃん。知ってるどころか大ファンよ。躊躇いなくホテルに連れ込むくらいには」

「…………」


 どうしよう。

 急激にテレサの元で働いてますと言い辛くなった。

 言ったら会わせろと騒ぎ出しそうだ。


「で、あの子が何?」

「いや、まぁ……何だ……あいつがやってる組織だ」

「そう、それはアレね。今からちょっとその職場に行きましょうか」

「やっぱりな。ダメだこの直球レズビアンめ」

「私はあんたの保護者みたいなモンよ!? 心配! どんな所で働いてるかすごく心配! だから行きましょう!」

「嘘臭いにも程がある!」

「わかった! サインもらってちょっとスリスリクンカクンカするだけで終わるから! お願い!」

「建前投げ捨てるの早いな!?」


 ガイア的にはせめてあと数秒くらいは弟のためだと言い張って欲しい物だ。例え嘘でも。


「しばらく心の底から適度に優しくするからぁぁー……」

「ええいうっとおしい……」


 昔からこうだ。

 可愛い女の子に目がないというか何と言うか、アレだ。

 とにかく困った性癖の姉を持つと苦労するという事だ。


「あと性的な行為に発展する場合はちゃんと意思確認だってするわ! 腐っても法の元に民を守る立場だから!」


 ……何か、ここまで食い下がられると、断った後が恐い。

 まぁ本当にヤバイ事しようとしたら最悪対竜兵装使えばいいか、とガイアは判断。


「……拒まれたら素直に退けよ」

「流石マイブラザー!」

「あと意思確認の際に誘導尋問は無しな」

「そんな! 私の得意分野なのに!?」

「だからだこのクソ姉」


 ケチだ何だと騒ぎ始めているが、当然の条件だろう。


(あ、でもあいつ今城行ってるんだよな)


 まぁでも顔を出して来るだけと言っていたし、すぐ戻るだろう。



 テレサが城に戻った事で自らに危機が迫っている事など露知らず、ガイアは姉を連れ、オフィスへと向かった。



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