第32話 新入社員(亀)
「どうにか帰って来れたな……」
久々の魔地悪威絶商会オフィス。
ガイアはゆっくりと深呼吸。
「いやぁ、ガイアさんだけどっか行っちゃった時はどうなるかと……」
「アシリアもびっくりした」
「あぁ、俺もだよ」
まさか誰かさんのくしゃみのせいで、世界を震撼させた化物と邂逅する羽目になるとは、夢にも思わなかった。
「……あの……本当にごめんなさい……」
そして何故か、その誰かさんも、ここにいたりする。
「……本当に大丈夫なのかよ、コウメ、だっけ?」
亀の甲羅を背負った魚人の少女、コウメ。全方位から腰まで伸びた黒髪が実に陰気臭い雰囲気を醸し出す。
あと謝罪癖がある。
この少女は、本来此処、というかこの世界自体にいるべきでは無い、異世界の住人だ。
「あの……良いんです……乙姫様の決定なので……ごめんなさい」
乙姫はどうにかガイアを連れ戻す事に成功した後、ある決定をした。
それは、コウメの処遇。
「この子のせいで迷惑かけたでしょ? この子、持ってっていいわよ」
「人命をなんだと思ってんだお前!?」
「そ、そういう習わしがあるんです…ごめんなさい……」
「習わし?」
またそれか、とガイアは思う。
「そう。『迷惑かけたら体を張って死ぬ気で埋め合わせをする』。だから、1年くらいこの子をコキ使っていいわよ。頃合を見て私が回収するから」
「大して役に立てないと思いますが……ごめんなさい」
「それに、丁度良いわ異世界。あんた前々から事ある事にウジウジウジウジ……全くの新天地で精神的に鍛えられてきなさい」
「うぅ……善処します…ごめんなさい……」
「で、そっちとしてはどうなの?」
「私としては社員が増えるのは大歓迎です!」
「アシリアも仲間増えるの嬉しい」
テレサとアシリアは既にコウメ歓迎ムード。
「そっちの青年はどう? この子便利よ? 何しても泣き寝入りするから。セクハラし放題」
「ひっ……あ、あの、出来ればお手柔らかに……」
「絶対しねぇから俺を見て怯えるな」
「そ、そうですよね、…自惚れてごめんなさい。私なんかよりその辺の枯れ木の方がそそりますよね……」
「そういう意味じゃ無くてな……」
というか、あっさり受け入れているが、コウメ的には本当にこれで良いのだろうか。
「なぁ、嫌なら嫌と言った方が良いんじゃないか?」
嫌がる者を無理矢理社員として迎え入れようなんて、テレサがするはずが無い。
乙姫だって、流石に本気で嫌がれば一考くらいしてくれる……かも知れない。
「…乙姫様、いつもこんな感じなので……慣れてます…それに……」
コウメは横目で乙姫の側に立つ側近の方を見る。
その手には、先程の乙姫の命令により用意されたバリカン。
「……このまま竜宮城にいたら、私はモヒカンに……個人的な事でごめんなさい……」
「ああ、よくわかった」
という訳だ。
「……あの…ところでここって何の会社……なんですか? あ、ごめんなさい…関係無いですよね。とにかく私は馬車馬の如く働けば良いんですよね。亀なのに馬だ何だ言ってごめんなさい」
「ここは『悪の組織』です!」
「あ、悪の……?」
テレサの話を聞きコウメは引き攣る。
「ど、堂々たるブラック企業……ああ、きっと私業績とか悪くなったら臓器取られたり売春させられたり……」
「安心しろ。ブラックどころか企業として扱って良いのかも危ういから」
「あ、悪の組織……なんですよね?」
「……なら教えてやる。ここにいるので従業員全員。そしてこのお子様が、社長だ」
「お子様言わないでください!」
「え、えーと……」
「それと、従業員はこのデブ猫も含む」
「猫さんまで……!?」
従業員、少し柄は悪めだが普通の青年・可愛らしい猫耳少女・ふてぶてしいデブ猫。
社長、元気ハツラツとした小柄な少女。
「…………悪の、組織……?」
全員の顔を見た上で、頭上に?が浮かびまくるコウメ。
かなり困惑している様だ。
……わかる。よくわかる。
とガイアはアシリアの時と全く同じ感想を持つ。
「まぁ一応本業は今の所便利屋だ。依頼が来たらお悩み解決」
「あと、悪い人を見かけたら倒して警察に連れて行きます! ダークヒーローなので!」
「皆でテレビ見たり月見たり御飯食べる」
「………あの、えーと…………辞書ありますか?」
「悪についてなら調べるだけ無駄だぞ」
そもそも社長が、悪についてよくわかっていないのだから。
「…………」
少し考え込むコウメ。
「何か、割とやっていけそうな気がします……あ、私如きがこんな事言うと最上級の侮辱ですよねごめんなさい……」
「大丈夫そうで何よりだ」
こうして魔地悪威絶商会に新たな社員がやって来た。
「ちなみに私…住む所とか、どうすれば……」
「アシリアちゃんと一緒にここに住めば良いです」
「アシリア、歓迎する」
それを聞き、ガイアは安心した。
何せ、コウメは宮女だ。
家事炊事はお手の物だろう。
コウメがアシリアと住むのなら、アシリアの飯をガイアがこさえる必要が無くなる。ちょっとした労力の軽減だ。
「それと、私料理に関しては全然ダメダメなんですが……」
「それも大丈夫です。ガイアさんが居ますので! ね?」
「……ああ、そうだな。世の中そんな上手くいかねぇ事くらいわかってたさ」
ガイアは最近よく思う事がある。
神様ってもしかして俺の事嫌いなのかな? と。




