エピローグ
王都から馬でおよそ半刻、カラミアに向かうの街道沿いをラルザハルは歩いていた。
相次ぐ王族の急逝に当初予定されていた戴冠式はしばらくの見送りとなり、アカルジャの王国中が喪に服している。
〈ロサの乙女〉の死は病死として発表され、彼女にまつわるいくつかの事実が密かに闇に葬られた。
王都からそれほど離れていなこの付近は、街道沿いに田畑が見渡せた。農家のかまどから白い煙が立ち昇っている。
背後を駈けてくる馬の蹄に、ラルザハルは足をとめた。
後ろを振り返って額に手をかざし、王都から追ってきた人影を目を細めて待つ。ひとりは白馬に騎乗した女、もうひとりは黒鹿毛に騎乗している。
ジャレスは馬の背から降りると、ラルザハルの眼前に立ちはだかった。
「ふん。この私に挨拶もなしで国へ帰るとは……貴様、いい度胸だな」
深雪から降りたラシェイが、たしなめるようにジャレスを肘でつつく。
「判っている。うるさいぞ、ラシェイ」
ジャレスはおもしろくもなさそうに、そっぽを向いて黙り込む。そんな二人を交互に見比べてラルザハルは言った。
「ラシェイ、深雪はどうだ?」
「ええ、わたしたちとても相性が良いみたいよ。この子は素晴らしいわ」
「それは良かった。安心したよ」
ラルザハルは頷いた。
正直、深雪を見ているのはまだ辛かった。
ラシェイに譲ることに決めたのは、彼女なら深雪を乗りこなせると思ったからだ。
深雪にとっても、その方が幸せだろう。もともと深雪の乗り手には男性よりも女性の方が合っている。
「カラミアに」
しばらくの沈黙をおいて、ジャレスが口を開いた。あいかわらず横を向いたまま、目を合わせようとしないのは言い難いことだからだろう。
「カラミアには帰るな。王都に残れ」
ジャレスは続けた。頑なに視線を逸らせたままで。
「わ、私の周囲には信頼できる人間が極端に少ない。国を建て直すためにも……お、お前の、力が必要なのだ」
「わたしからもお願いするわ。ジャレスさまに力を貸してあげて」
「だが俺は……」
レダニエの最後の言葉が蘇る。
自ら死を選んだ姉について、ジャレスは何も言わない。故意に意識の外に締め出すようにして沈黙したきりだ。
レダニエが、自分が、そしてジャレスが、それぞれが胸の内に同じ想いを抱えていた。
互いが最終的に選ぶのはどちらだろう。
失ったものは二度とは戻らないし、簡単に忘れられるものでもない。彼女がその手で喉を突いたのは、ラルザハルの短剣だった。
「ただ雷光を迎えに行くだけだ。あいつは俺以外には扱えないからな」
迷いはいまも胸にある。けれどラルザハルは言った。
過去よりも未来に思いを寄せて。
こんにちは、海野かもめです。ようやく終わりました♪
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
なんというか、明るくも楽しくもない話ですみません。
私としてはラストは明るい未来を予想させるものにしたかったのですが、いかがでしたでしょうか?
誤字脱字、おかしな所、それと感想などありましたら、一言でも嬉しいです!
というか泣いて喜びます!!
最後まで読んでくださってありがとうございました!




