ようこ、シャームに2号店
社長はエンジニアと一緒に横浜の介護付きマンションを後にすると、車の中でエンジニアが社長に話しかけた。
「社長、みなさんパワフルでしたね」
「そうだな。でもご苦労が大きかったからこそパワフルになったんだ。わたしの母親もそういう人だから良く分かる」
「……なるほど」
「何でも笑い飛ばしてしまうパワフルさは並大抵のご苦労じゃ生まれない。だからこそ、お役に立ちたいんだ」
「……社長。おれI区画の施設、残業して作り終えます」
「ん? いやいや、君は早朝シフトだろう? もうすぐ退社時間だ。今日はゆっくり休んで、また明日頑張ってくれ」
「なら、タイムカード押してから勝手にやります。おれも負けてられないっす」
「ほぅ、君もあの方たちに感化されたのだな。ならば、わたしのおごりで高級焼肉弁当のデリバリーを頼んでおこう」
「まじすか! やった!」
社長たちは会社へ戻ると、一緒に高級焼肉弁当を食べて開発室に籠った。
その頃、おばあさんたちはチャットでお店の会議をしていた。
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マユ:やっぱ全回復薬があまっちゃうんだよね
メイ:そろそろ強い人たちがいる他の町に進出?
マユ:実はちょっと考えてたんだよね
メイ:やば、2号店!
美咲:商品の移動だったら、わたしが転移魔法でやるよ
マユ:あ美咲ちゃん<笑顔>助かる!
メイ:さすが<キラキラ>
ナミ:美咲ちゃんありがとう<お辞儀>
マユ:美咲ちゃん、全回復薬が売れそうな町ってピンデチの近くにある?
美咲:レググリかシャーム、あと少し行きづらいけどマガイルーかな
マユ:レググリはちょっと良いイメージ無いから、シャームかマガイルーかなぁ
洋子:シャームなら近いしタマシリさんも居るわ
メイ:じゃあシャームじゃない?
マユ:かな
ナミ:うん
美咲:いいと思う
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こうして、おばあさんたちはシャームに2号店を出すことにした。
ー 夕方 ー
その頃、横浜の介護マンションからイグラアの社長に電話が入り、社長に取り次がれた。
「はい、社長の佐々木です」
『あ、先ほどはお越しいただきありがとうございました。ご提案いただいた元自衛官の方々と元柔道コーチの方、それとバンドの方々から承諾していただきまして……』
「おお、そうですか! もし宜しければ、今からお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
『え? あ、はい。 みなさん、ご在宅ですので大丈夫だと思いますが……、念のため確認を取っておきますね』
「お手数をおかけして申し訳ありません。宜しくお願い致します」
『はい、ではまたご連絡しますので』
「はい、お願い致します」
社長は電話を切ると背広を羽織りながら横で作業をしているエンジニアに言った。
「さきほどのご高齢者の方々からご承諾を頂いた。お伺いの確認がとれたら、またマンションに行ってくる」
するとエンジニアはドヤ顔で社長を見ると、笑顔で答えた。
「社長。もしご高齢者の人たちがゲームの世界に入れたら、『ピンデチふれあい苑』にご招待してください」
「……なんだって?」
「見てください、社長。まだ全ての機能は不完全ですが、ピンデチふれあい苑の基本構造は完成しました」
エンジニアの言葉にPCのモニターを覗き込んだ社長は、ピンデチふれあい苑の美しい内装におどろいた。
「おお、凄いじゃないか! まさかこの短時間で完成させるとは!」
するとエンジニアは少し恥ずかしそうに答えた。
「へへ。ちょっと本気だしちゃいました。ははは」
社長は思わず立ち上がると大きな声で言った。
「最高だぞ! ありがとう!」
そして社長は嬉しそうに右手を出して握手を求めると、エンジニアも笑顔で右手を差し出し、固い握手を交わした。
◆
その後しばらくして介護付きマンションから訪問の承諾をもらうと、社長は夕方から出勤してくる夜勤チームの数名を連れて横浜の介護付きマンションへやって来た。
そして社長は社員たちと手分けして、協力してもらえる元自衛官の3人と元柔道コーチ、そして昨日のバンドの4人の部屋を訪問することにした。
社長は元柔道コーチの大熊笹の部屋を訪れていた。
「こんにちは! 失礼いたします」
「はーい」
「株式会社イグラア社長の佐々木です。お邪魔致します」
「どうぞどうぞ。あなた、いらしたわよ」
「ああ」
大熊笹はベッドから起き上がろうとすると、社長は慌てながら大熊笹に言った。
「どうぞ、そのままでお待ちください!」
「いえいえ、挨拶くらいはさせてください」
大熊笹は柔和な笑顔で答えると、ゆっくりとお辞儀をした。
社長も深々と頭を下げると、ゲームの説明を始めた。
「すでにお話をお聞きになられていらっしゃると思いますが、こちらのVRグラスをかけて頂ければ、すぐにゲームの世界へ行けますので」
社長は大熊笹にVRグラスを手渡した。
「ほう。このサングラスのようなもので……」
「はい。わたしも行きますので、さっそく一緒に参りましょう」
「はい」
大熊笹は社長に促されるままVRグラスをかけた。
そして自動認識によってアバターが作成されるとピンデチの時計台の前にやってきた。
「おお、これはすごいですな!」
社長はVRグラスをかけて驚いている大熊笹を見て笑顔になると、社長もVRグラスをかけてログインした。
社長は時計台の前に出現すると、近くに居た大熊笹に声をかけた。
「大熊笹さん、私です。社長の佐々木です」
「ああ、社長さんですか。中世の騎士のような姿ですな」
「はい、私はゲームの中では騎士なのです」
「ほお、なるほど」
すると、イグラァの社員たちに付き添われてマンションの住人が次々と時計台の前に現れた。
それを見た社長は頭を下げながら大きな声で言った。
「みなさん、こんにちは! 社長の佐々木です。よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします」」
「みなさんにお1人ずつ、サポートの社員をつけましたので、まずは歩く練習から始めましょう」
「「はい」」
ご高齢の方々は社長に笑顔で答えた。
社長もご高齢の方々に笑顔で頭を下げると、大熊笹に歩き方の説明を始めた。
「大熊笹さん、頭で自分が歩くイメージをしてみてください。実際に歩けますので」
「歩くイメージですか……、ええと……」
大熊笹はすぐに歩き始めた。
「ああ、歩けます歩けます」
すると、ご高齢のみなさんも次々と歩き始めた。
「まぁ、自分の足で歩くのなんて何十年ぶり?」
「ははは、これは素晴らしい!」
「若返ったようだ」
「これなら走れるわ」
次々に喜びの声が巻き起こると社長は大きな声で全員に言った。
「では、みなさん。歩く練習がてら、あそこに見える施設まで歩きましょう!」
「「はい!」」
社長は全員を引き連れてピンデチふれあい苑へ向かった。




