ひろし、新しい施設を見つける
ー 現実世界 ー
その頃、ゲーム制作会社イグラアの社長は、エンジニア部門でご高齢者向けバージョンの相談をしていた。
「社長。プロトタイプですが、ご高齢者向けのバージョンがこちらです」
エンジニアは大型画面に「ご高齢者向けバージョン」のゲーム内の映像を映しながら説明した。
「まず最初にキャラクターを作ったり、設定したりと難しい事がありますので、自動化しました」
画面にはピンデチの時計台が映し出され、エンジニアは説明を続けた。
「VRグラスをかけると自動で顔と体がスキャンされますので、すぐにゲームを始められます」
「おお、それは良いな」
「ゲームを始めると、このように大きな文字で全て表示されます。そして時計台に現れると……」
エンジニアが操作する高齢者のアバターは時計台から真っすぐ進み、行き止まりだった場所を開墾した土地に移動した。
「ピンデチにご高齢者専用の新しいI区画を作りました」
エンジニアは「I区画」と書かれた新区画を社長に見せて続けた。
「まだ今は何もないのですが、ここにご高齢者専用の施設を作り、ゲームの事をゆっくり知っていただこうと思います」
「それは良さそうだな」
「はい。職業は無職でスタートします。そして65歳以上限定で、いつでもこの施設で職業を変更出来るようにする予定です」
「なるほど。……そうだ、ひとつ提案があるのだが良いか?」
「はい、なんでしょうか」
「実は最近始めたばかりのプレイヤーの方々の一部が、コーシャタへ買い物に行けなくて困っているんだ」
「と……、いいますと」
「最初はお金がなくてモービルが買えないために歩いて行くのだが、遠いうえに砂漠地帯にサンドワームもいる」
「それはレベルを上げながら攻略してもらうしか……」
「それが、最近はバトルをするよりも美味しいものを食べたり、可愛い服を買ったりしたい方たちも多いのだ」
「……なるほど。このゲームもバトルで強くなるだけではなく、新しい時代になってきたと」
「その通りだ。バトル以外を楽しむ方々も、ご高齢の方々も、もちろんバトルが好きな方々も、お互いに棲み分けをしながら交流できるようなゲームにしたいのだ」
「なるほど、それは良い考えですね」
「そこでだ。その最初のプロジェクトとしてコーシャタへの定期バスの運行を考えている。そのバスをご高齢の方々に運転して頂き、対価をお支払いしたいと思ってな」
「なるほど、それは素晴らしい案ですね。マイクロバスのモービルのデータはあるので、手を加えてバスのモービルをデザインします!」
「うむ、頼んだぞ」
「はい!」
こうして、ザ・フラウの新しいプロジェクトが始まった。
ー 現実世界 おじいさんとあばあさんの家 ー
おじいさんが現実世界に戻ると、おばあさんもちょうどVRグラスを外したところだった。
「おばあさん、お帰りなさい。今わたしも帰ったところだよ」
「あら、お帰りなさい。今日は何か面白い事がありましたか?」
「ああ、きょうは試合をしてな。よくわからないのだけど、勝ったんだ」
「あらあら、勝ったならいいじゃないですか」
「ああ、ははは。おばあさんは何かあったかい?」
「ええ、今日はとっても美味しい『溶岩ようかん』を食べたんですよ」
「ほぉ。なんだか美味しそうだなぁ」
「ええ、とっても美味しいんです」
「そうか。わたしも溶岩ようかんを探してみようかな。ははは」
二人は一緒に夕飯の準備をしながら、ゲームの話で盛り上がった。
ー 翌日 ー
おじいさんはいつものように買い物をしに街に来たので、今日も家電量販店のザ・フラウのコーナーでニュースをチェックしていた。
すると、おじいさんは驚いて目を疑った。
大画面には、ピンデチの新しい区画についてのニュースが書いてあり、なんと書道大会の文字があった。
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【書道大会のお知らせ】
この度ピンデチI区画に、ご高齢のプレイヤー様向けの施設「ピンデチふれあい苑」を開設致します。
この施設ではご高齢のプレイヤー様のサポートやプレイヤー様同士の交流を中心に、様々なイベントを行う予定です。
つきましては、施設の名称「ピンデチふれあい苑」の題字を書いていただく書道大会を開催いたします。
金賞に輝いた作品は、そのまま石碑にさせて頂き、施設の入口に設置さていただきます。
また、副賞として10万プクナを進呈致します。
皆様、ふるってご参加くださいませ。
エントリーはログイン後、画面のニュース欄よりご応募ください。
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おじいさんは居てもたっても居られなくなり、急いで自動販売機でジュースを買って外へ出た。
そしてスーパー・ヨクヨで買い物を済ませると、真っすぐに家へと向かった。
家に帰ると、おじいさんはおばあさんに嬉しそうに話した。
「おばあさん、ゲームで書道大会が開かれるんだ」
「あらまぁ、それは楽しみですね」
おじいさんは野菜や肉を冷蔵庫に入れながら笑顔で答えた。
「いやぁ、今日は早く行って練習しないと」
「あら、なんだか嬉しそうですね」
「ああ、はは。……どういう感じで書こうか……」
「うふふ。今日は先に行ってくださいね」
おばあさんはそう言うと、茹でていた素麺を冷水で流し、キュウリとハムを刻んで添えると、上から麺つゆをサッとかけて差し出した。
「ああ、ありがとう。もう居ても立っても居られなくてなぁ」
「あなたのそんな顔、久しぶりに見たわ」
おじいさんは素麺をすすると照れくさそうに言った。
「ははは。こんな歳で嬉しくなってしまってな」
おばあさんは、おじいさんが急いで素麺をすするのを笑顔で見つめた。
おじいさんは素麺を食べ終わると、皿を片付けて居間のソファへと向かった。
「すまないね。先に行ってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい。楽しんでくださいね」
「ああ、ありがとう」
そう言うと、おじいさんはVRグラスをかけた。
おじいさんが時計台の前に現れると、少し離れたところに今まで無かった施設が出来ている事に気づいた。
「ああ、あれが『ピンデチふれあい苑』か」
おじいさんは三輪自転車を出現させると「工事中立入禁止」と書かれた看板の手前まで行ってみた。
そして、施設を見ながらイメージを膨らませると何度か頷きながら、あごに指を当てて考え込んだ。
「ううむ。『ふれあい』の文字をどう表現しようか……」
おじいさんは呟きながら三輪自転車をUターンさせると、ゆっくりとG区画の家に向かった。
おじいさんはG区画の家に到着すると足早に中へ入り、和室の引き出しからイリューシュが用意してくれた高級書道セットを取り出した。
「ふれあい……、ふれあい……」
おじいさんが呟きながら長半紙と筆を用意していると、朝稽古をしていたアカネと黒ちゃんが休憩をとりに降りて来た。
「あ、じいちゃん。今日は早いね!」
「ひろしさん、おはようございます」
おじいさんは二人の声を聞くと笑顔で答えた。
「おはようございます」
すると、今度はめぐが笑顔を浮かべながら玄関ドアを開けて入ってきた。
「やった! オーディション通ったって!」
それを聞いたアカネも笑顔になってめぐに駆け寄った。
「やったな! やっぱ歌が良かったんだよ!」
「ありがとう、アカネ!」
黒ちゃんは嬉しそうに、ウンウンと頷いた。
すると、今度はイリューシュが嬉しそうに家に入ってきて言った。
「オーディションやりましたね! あ、ひろしさん。今日は早いですね! おはおようございます」
めぐも和室に居るおじいさんに気付いて笑顔で手を振った。
「おじいちゃん、おはよう! オーディション通ったよ!」
「おはようございます。それは良かったです!」
みんなは、おじいさんの居る和室にわらわらと入ってくると一緒に喜び合った。




