ひろし、試合を受ける
ー ピンデチのお店 ー
ブーーン……
美咲は転移魔法でお店に戻ってくると二階へ上がった。
「ただいま」
「「おかえりー」」
「はい、1万プクナ」
美咲は1万プクナの電子チケットを出現させるとマユに差し出した。
「ええ!? 急に?」
「うん。イベントで賞金もらったから」
「え、貰えないよ。賞金なんだよね?」
「うん。でも、このお店に大きくなってほしいから。受け取って」
「え、ええ?」
すると洋子が言った。
「美咲さんのお気持ちですし、受け取ってお店のお金にさせて頂いたら?」
「う、うん。そうする。ありがとう美咲ちゃん!」
「うん」
美咲は笑顔になると、みんなは美咲にお礼をした。
ー 再び、予選の塔 ー
おじいさんたちは暫く他の予選を観戦して、軽トラに乗ってG区画の家へ帰ろうとすると、受付の方から大きな声が聞こえてきた。
良く見ると5人のパーティーが受付で抗議をしているようだった。
「納得できるわけないだろ! 中を見せろよ。絶対、同じ内容じゃないだろ、汚ねぇぞ!」
「いえいえ、全部の地区で同じコンディションで予選をしています」
「はぁ? じゃあなんでウチらレググリの団体1位が3分台で、初心者だらけのピンデチが1分12秒なんだよ」
「さぁ。でもイークラト地区の団体チームは59秒ですよ」
「あたりまえだろ! あそこは別格じゃねぇか!」
それを聞いた黒ちゃんが荷台で呟いた。
「レググリのやつらはピンデチは初心者しか居ないと思っているんだな……」
すると抗議しているメンバーの1人、女性の武闘家が軽トラに走って来た。
「すみません。みなさん、あの1分12秒のタイムを出したチームの方ですよね」
それを聞いた荷台のアカネが答えた。
「そうだよ。黒ちゃんがやったんだけどね」
「あの、本当に申し訳ないのですが、リーダーが……、どうしも納得しないみたいで」
「そうみたいだね」
「もし宜しければ、トレーニングルームで模擬戦をして頂けないかと……、もちろんタダとは言いません!」
すると女性の武闘家は「コーシャタ共通商品券5万プクナ分」を差し出した。
「あっ! コーシャタの店ならどこでも使える商品券!!」
アカネとめぐと黒ちゃんの頭の中には、すでにスイーツ・パラライズがキラキラしながら描かれていた。
アカネは荷台から降りてイリューシュに言った。
「イリューシュさん、模擬戦申し込まれてるんっすけど……」
「あら、アカネさん。目がケーキになっていますよ。ふふふ。時間もありますし、どうですか、ひろしさん」
おじいさんは、みんながやるなら、と思って頷いた。
アカネはそれを見て嬉しそうに女性武闘家に言った。
「おっけーです!」
「あ、ありがとうございます! ピンデチのトレーニングルームでいいですか」
「じゃあ、そこで!」
「じゃあ、伝えてきますね。では後ほどトレーニングルームで! すぐ行きますね!」
女性武闘家は商品券をアカネに手渡すと急いでメンバーの元へ走って行った。
アカネは荷台に戻ると、めぐと黒ちゃんに言った。
「やった! トレーニングルームなら倒されても痛くないし、5万プクナあれば何回ケーキ食べられるか!」
めぐと黒ちゃんも笑顔で何度も頷いた。
おじいさんはアカネが荷台に乗った事を確認すると、軽トラをゆっくりと走らせてピンデチへと出発した。
その頃、レググリの女性武闘家はメンバーのリーダーに報告していた。
「模擬戦、してくれるって」
「まじか、よくやった! 配信の告知して! 証拠を配信してやるんだ」
すると他のメンバーが手で何か操作を始めた。
しかし女性の武闘家が心配そうに言った。
「ナオルくん、あの人たち強いかも……。この間のバトロワイベントの優勝者と3位の人がいた」
「な、なんだって!? なんでそんな奴らがピンデチを居るんだよ!」
「拠点を変更して1週間経てば住人になるし、 もしかしたら移住してたのかも……」
「くっ……。 まさが、ウチらヤバいやつらにケンカ売っちまったのか……」
すると他のメンバーが言った。
「リーダー、もう模擬戦を配信するって告知しちゃったんだけど、撤回する?」
「く……。いや、手はある。ピンデチのトレーニングルームの、クラブルームは空いてるか?」
女性武闘家が手で何か操作をすると小さく頷いて言った。
「うん、空いてる。予約する?」
「ああ、頼む。急いで転移するぞ。準備する」
「準備?」
「いいから行くぞ!」
「うん」
レググリのメンバーはピンデチのトレーニングルームへ転移していった。
◆
レググリのメンバーはトレーニングルームにやってくると急いでクラブルームに入っていった。
クラブルームは重低音の大音響が鳴り響く暗い部屋で、派手な照明が自慢の模擬戦部屋だった。
すると、なんとリーダーは部屋の奥から床に痺れ粉を撒き始めた。
「ちょっと、ナオルくん! なにしてるの!」
「うるせえ! おれの防具は対麻痺防具だ! 相手には少しずつ痺れてもらう!」
「でも!」
「暗いこの部屋ならバレない! それに、この大音響で敵の声は配信されない!」
「……」
全員リーダーの行動に驚きながらも止められないでいると、女性武闘家の肩をアカネが叩いた。
「きたよ! さぁ、試合しようよ!」
すると、リーダーは何事もなかったかのように部屋の外へ出てきた。
そして部屋の外にある画面を操作しながら、おじいさんたちに説明を始めた。
「試合は5対5の団体戦。先に大将が倒されたほうが負けだ。この画面でメンバー登録してくれ」
おじいさんたちは画面に「チームひろし」と登録すると、予選の順番で登録した。
レググリのメンバーは、対麻痺の防具を装備した両手剣の騎士、リーダーのナオルを先鋒に登録した。
ナオルはニヤリと笑いながら、おじいさんたちに言った。
「じゃあ、試合開始で。中に入ったら青い席についてくれ。おれたちは赤い席だ」
リーダーはそう言ってクラブルームの扉を開けると、さっきよりも大音量で音楽が流れていた。
アカネは耳を押さえながら言った。
「凄い音だな!」
めぐは手でジェスチャーして、設定からメイン音量を下げるように言った。
「あ、そっか!」
アカネは設定から音量調整をした。
おじいさんは、イリューシュが密閉型のヘッドホンをかけてくれたお陰で音を遮ることができた。
すると、部屋の横にある大画面にメンバーが表示された。
そして「初戦の準備をしてください」と表示されると、黒ちゃんとリーダーのナオルが前に出た。
黒ちゃんは視界に「麻痺(蓄積中)」の表示が出たので、後ろを向いて、おじいさんたちに言った。
「麻痺の表示が出ているんだが!」
しかし黒ちゃんの言葉は大音量の音楽でかき消され、おじいさんたちは「?」と見守っていた。
その時、画面が「試合開始」となった。
「試合開始」の表示に気付かなかった黒ちゃんにナオルは両手剣で斬りかかった。
おじいさんたちが慌てて手でジェスチャーしたが、すでにナオルの剣が黒ちゃんを突き刺していた。
ドスッ!
「くっ!」
黒ちゃんは冷静に前回り受け身で距離を取ると、剣に炎をまとわせて呟いた。
「なるほど、ハメられたか。しかし暗くて気付かなかったのは、わたしのミスだ」
すると黒ちゃんは少し笑ってナオルへ突っ込んでいった。
しかし蓄積されていた麻痺のせいで、スピードが遅かった。
それを見たナオルは笑いながら言い放った。
「はっ! おれがバトロワ3位の両手剣の騎士を倒せばバズるぜ!」
ナオルはスピードの遅い黒ちゃんに向かって突進していった。




