ひろし、次鋒になる
ー 横浜 ー
カワセミは祖父母の住む介護付きマンションに到着すると、受付を済ませて祖父母の住む部屋へと向った。
すると祖母がドアを開けて迎えてくれた。
「美咲ちゃん、いらっしゃい」
「突然ごめんね、おばあちゃん」
「ううん。さっき、お姉ちゃんから連絡があったわ。お姉ちゃん怒っちゃったみたいね……」
「うん…… 」
「でも美咲ちゃんと住めるなら嬉しいわ」
「ありがとう。おじいちゃんに挨拶してくる」
「ええ、きっと喜ぶわよ」
美咲は居間の窓際で寝たきりの祖父の所へ行き、祖父に話しかけた。
「おじいちゃん、美咲だよ。また一緒に住むんだ。よろしくね」
「ぁ……」
祖父の喉には器具が取り付けられていて喋れなかったが、かすかな声で答えた。
それを聞いて美咲は笑顔になった。
美咲はカバンから出したVR-GigBoxを充電すると、VRグラスを取り出しながら、ふと思いついた。
「もしかして……。おじいちゃんにVRグラスかけたら……、脳波で動けるかも……」
美咲は居ても立っても居られなくなり、台所の祖母に声をかけた。
「おばあちゃん。ごめん、3万円貸してくれない?」
「え? ええ、お金ならテーブルの引き出しにあるわよ」
「ごめんね! ちょっと買い物に行ってくる!」
「あら、どうしたの?」
「おじいちゃんと話せるかも!」
美咲はそう言ってお金を持って玄関を飛び出すと、マンションのエレベーターへ走った。
そして、マンションの向かいにある家電量販店へ行くと、VR-GigBoxのザ・フラウ、プリインストール版を購入した。
美咲は急いで戻ってきてVR-GigBoxを開封すると、電源を入れて準備をした。
そしてVRグラスを祖父にかけると、祖父の手を握りながら言った。
「おじいちゃん、わたしそっちの世界に居るの。絶対来てね! またお話しがしたいの! 待ってるから!」
すると祖父は美咲の手を握り返した。
「ぁ……ぁ」
美咲は笑顔になって頷くと、キッチンにいる祖母に言った。
「おばあちゃん。わたし、おじいちゃんに会ってくる」
「え、哲夫さんに?」
「うん!」
美咲はそう言うと居間のソファに座ってVRグラスをかけた。
美咲はレググリに出現したが、すぐに転移魔法でピンデチの時計台の前へ転移した。
そして自分の拠点をピンデチに変更すると、祈るように祖父を待った。
「おじいちゃん……」
美咲は小さく呟くとその場にしゃがみ込み、すれ違わないようにサーバーを切り替えながら祖父を待った。
ー 1時間後 ー
残念ながら1時間待っても祖父はやって来なかった。
美咲はボロボロと涙を流しながら静かに呟いた。
「やっぱり、脳波だけじゃ動かせなかったんだ……」
美咲はあきらめて立ち上がると後ろから声がした。
「美咲ちゃん」
美咲が振り向くと、そこには大好きな祖父の哲夫が立っていた。
「おじいちゃん!!」
美咲は走っていって哲夫に抱きついた。
「おじいちゃん、来てくれたんだね」
「美咲ちゃん、夢のようだよ。何年も美咲ちゃんと話したかった」
「わたしも」
「ありがとう、美咲ちゃん」
「う、うぅ……。おじいちゃん」
美咲は涙が止まらなくなった。
哲夫は優しく美咲を抱きしめると、ゆっくりと頭を撫でた。
ー 現実世界 ー
その頃、おじいさんは現実世界で街に買い出しに来たついでに家電量販店に寄っていた。
最近、おじいさんは街へ来ると家電量販店でザ・フラウのコーナーに行くのがお決まりのコースで、ゲームの情報収集をするのが楽しみになっていた。
「今日のデジタルニュースは何だろうか」
家電量販店のザ・フラウのコーナーには大画面が設置されていて、ゲームの速報やニュースが表示されていた。
「おや?」
おじいさんが大画面を見ると『緊急発表!!』の文字が点滅していた。
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ついに! ザ・フラウ頂上決戦開催!!
ハイレベル・プレイヤーの皆様、お待たせしました。
最強のプレイヤーを決定するべく、頂上決戦を開催いたします。
賞金はなんと優勝1000万プクナ!!
2位も500万、3位も300万プクナを進呈!
そして、特別なバッジをご用意いたします。
1)団体部門
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人1組で戦います。
2)個人部門
個人でご参加頂けます。(ただし、団体部門とは重複不可)
まずは地区大会をタイムアタック方式で開催いたします。
本日より各地区の中央に5日間「予選の塔」が設置されていますので奮ってご参加ください。
なんと予選タイム5分を切った方には1万プクナ進呈!
本選はメンバーが決まり次第、追ってご連絡いたします。
ザ・フラウ運営部
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「そうかぁ、わたしには関係なさそうだなぁ」
おじいさんは、毎回ひそかに書道展覧会を期待していた。
おじいさんは店内の自動販売機でジュースを購入すると、家電量販店を後にした。
◆
おじいさんは買い物を済ませて家へ戻ると、一旦ゲームから戻ったおばあさんが本を読んでいた。
「ただいま」
「あら、おかえりなさい」
「何か調べものかい?」
「いえね、薬草の仕入れを増やさないといけないんですけど……。まずは、お昼ご飯ですね」
「ははは、そうしようか」
二人は一緒に昼食の準備をすると、楽しくお喋りしながら昼食をとった。
そして、食べ終わって食器を片付けると、2人は一緒にゲームにログインした。
おじいさんはいつものようにG区画の家にやってきて扉を開けると、すでにみんな集まっていて何かを話していた。
「じゃあ、大将はイリューシュさんとして、だれが副将?」
「黒ちゃんさんは?」
「あ、そっか黒ちゃんは……」
「アカネ、わたしは何番目でもいいぞ」
「まじで!? じゃあ先鋒な」
「おう、任せておけ」
「ちょっとアカネ、黒ちゃんさんが最初って変だよ」
「いや、弱いから最初って訳じゃなくて……、あれ、じいちゃん!」
アカネがおじいさんに気が付くと、みんなは笑顔で手を振った。
おじいさんは頭を下げて挨拶をするとみんなに尋ねた。
「みなさん、何をなさっているんですか?」
するとアカネが笑顔で答えた。
「頂上決戦の団体部門に参加するんだよ! もちろん、じいちゃんも!」
「ええ!? わたしもですか?」
結局、色々悩んだものの、最終的に出場する順番が決まった。
先鋒、黒ちゃん
次鋒、ひろし
中堅、めぐ
副将、アカネ
大将、イリューシュ
めぐはまだ釈然としないまま呟いた。
「黒ちゃんさんが最初なのがなぁ」
それを聞いたイリューシュは笑顔でめぐに説明した。
「先鋒が強いと相手の人数を減らせますから、こちらのペースに持ち込みやすいかもしれませんよ」
「あ、そっか。そう考えると良い順番なのかも」
めぐはイリューシュの一言で納得した。
するとアカネが大きい声でみんなに言った。
「おっし、じゃあ予選の塔に行こうぜ! 5分切って、1万プクナもらって、コーシャタで美味しいもの食べよう!」
「あ、それいい!」
めぐが喜ぶと、みんなも笑顔で頷いた。
みんなはワイワイお喋りしながら村の外へ出ると、軽トラに乗ってピンデチ地区の中央にできた予選の塔へと向かった。




