ひろし、長い一日を終える
おじいさんたちはG区画の家に帰ると、家の前でシンプルな布の服を着ている黒ちゃんが待っていた。
アカネは黒ちゃんを見つけると黒ちゃんに駆け寄った。
「黒ちゃん今日はカッコ良かったぜ! 庇ってくれてありがとうな!」
「お、おう」
「そういえばデータ戻るってよ! 最悪先月のデータだって」
「おお、そうか! 良かった!」
「……なんだよ。一緒にメインクエスト行ってやっても良かったんだぜ」
「え、あ、ああ。ははは」
黒ちゃんは照れくさそうにした。
ー 株式会社イグラア社内 ー
社長は社員の前で今回の件を労った。
「みんな、本当に今回は良くやってくれた。心から感謝する。今月はミニボーナスを進呈させてくれ!」
「「「おおおーー!!」」」
社員は盛り上がった。
「これからも、この会社を宜しく頼んだぞ!」
「「「はい!」」」
社長が話し終わるとエンジニアの1人がやってきて社長に報告した。
「社長、今回の騒動に加わった侵入者ですが、そのうちの半数ほどとボイスチャットが繋がりました」
「そうか、手間のかかる仕事をさせたな。どこへ行けばいい?」
「社長室にカメラとヘッドセットが用意してあります」
「わかった。では社長室へ急ごうか」
社長は急いでエレベーターに乗ると、最上階で降り、社長室に入った。
社長室には常務が待っていて、カメラの用意をしていた。
社長はカメラの前のソファに座ると、ヘッドセットをかけて話し始めた。
「わたしが社長だ。きみたちが侵入者のプレイヤーだな」
社長がそう言うと、数人が小さな声で返答した。
「君たちのリーダーは、君たちのクレジットカード情報を抜き出して不正利用するつもりだったようだ」
それを聞いた黒のメンバーのひとりが大声で言った。
「そんなわけない!」
「嘘ではない。すでに警察が身柄を確保済みとの事だ。明日にでもオンライニュースに載るだろう」
「……」
「わたしが君たちにオンラインで繋いでもらったのは他でもない。セーブデータをお返ししたいんだ」
それを聞いた黒のメンバーたちは一斉にどよめいた。
「わたしは君たちを警察に通報するつもりはない。むしろ話を聞かせてほしい」
すると黒の女性メンバーが冷静な口調で話し出した。
「社長さん。わたしたち黒のメンバーは運営に不満がありました。だからマリさんに付いて行ったんです」
「そうか。不満とは何か教えてくれないか」
「わたしたちは毎月課金をして強くしたり、レアな装備を揃えたりしてきました」
「それは大変感謝したい」
「ですが、毎月一回だけ中途半端なボスキャラが登場するだけで、わたしたちは退屈しています」
「そうか……」
「それに、沢山のレアな装飾品や装備も見せる機会さえありません」
「なるほど。君たちの意見は同じなのか?」
黒のメンバーたちは口々に肯定した。
「そうか。それは大変すまなかった。君たちが活躍できる場と強敵を必ず用意する。約束しよう」
「「おお」」
「わたしに面白い考えがる。強敵は3時間後には用意しよう。データもそれまでには出来る限り復旧させる」
「「おお!!」」
「社長として謝る。今まで申し訳なかった」
「「「おおおお!!」」」
社長がカメラ越しに頭を下げると黒のメンバーたちは一斉に盛り上がった。
すると、先ほど冷静に社長へ話した女性メンバーが涙声で話した。
「社長さん、ありがとうございます。わたしたちは声を聞いてもらいたかったんです」
「本当に、すまなかった。これからはもっと耳を傾ける約束をしよう」
こうして社長と黒のメンバーは和解した。
G区画の家では、みんなが和室でくつろぎながら、アカネの話を聞いていた。
「……でさぁ、急にあたしを投げ飛ばして、痺れナイフだぁ! 早く逃げろ! ってさ。あたしビックリしちゃって……」
するとめぐが言った。
「へぇ~、なんか大事にされてるねぇ~」
「そ、そうか?」
「自分を犠牲にしてアカネ助けるなんてさ」
それを聞いた黒ちゃんは恥ずかしそうにめぐに言った。
「いや、あの時は必死で……」
「へぇ~、必死でアカネを?」
「あ、いや、その」
するとその時、急にみんなの視界に「新着限定イベント(超高難易度)のお知らせ【読む】」という文字が現れた。
それを見たアカネが言った。
「何だコレ、限定の超高難易度ってヤバそうじゃん」
みんなは「読む」を押してみた。
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先着3名様に2階建て3LDKの家をお好きな区画にプレゼント!!
参加資格は★5武器またはS級武器を所持しているプレイヤーのペアのみ!
なんと相手は防御力合計9112の社長と、物理攻撃力6011、素早さ3004の専務だ!!
二人を倒して家をGETしよう!
チャレンジは1組1回のみ。本日から14日間限定です。
社長と専務がサービス残業であなたをお待ちしています!
【予約エントリーする】
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読み終わるとアカネが言った。
「うわ~、あの社長すごい事するなぁ」
すると今度は、「イベント再開のお知らせ【読む】」が表示された。
みんなは、また「読む」を押してみると嬉しい知らせが書いてあった。
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バンドフェスティバル・オーディション再開のお知らせ。
トラブルにより延期としておりましたバンドフェスティバル・オーディションは、オンライン審査に変更致します。
すでにエントリーして頂いていた皆様は演奏を録音したものを下記リンクより送信お願い致します。
また、何らかの理由で録音が困難な場合も下記リンクよりご連絡くださいませ。
皆様の音源をお待ちしております。
【音源を送信する】
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それを見ためぐは喜んで飛び上がった。
「やった! オーディション再開!」
するとイリューシュが笑顔で言った。
「では、さっそく録音しておいた音源を送信しておきましょう!」
「やったー!」
みんなはしばらくワイワイお喋りを楽しむと、また明日会う約束をしてログアウトしていった。
おじいさんがVRグラスを外すと、おばあさんが1人で夕飯を食べていた。
「あぁ、もうこんな時間か。すまんすまん」
「おじいさん、今日は唸ったり大汗かいたりして、ちょっと心配でしたよ」
「いやぁ、今日は大変なことがあってな」
おじいさんはテーブルにつくと、夕飯を食べながら今日のことをおばあさんに話し始めた。
そして2人は今日も夜遅くまでお喋りを楽しんだ。




