ひろし、ハーイムへ行く
ー 翌朝 株式会社イグラア社長室 ー
社長は用意されていた資料をパソコンで確認すると、驚いて専務の大谷を呼んだ。
ガチャッ
「どういたしましたか社長」
「昨日、トラブルのどさくさに紛れて何者かがプレイヤーたちのクレジットカード情報を閲覧しようとしていたというのは本当か?」
「はい。私たちもトラブルの対処に人手を取られて手薄になっており、発見が遅れました」
社長は眉間にしわを寄せると静かに呟いた。
「これは、少し考えなければならないな……」
「しかし、ご安心ください。クレジットカード情報は社長権限のレベル3以上のアクセスでしか閲覧できません」
「そうだな。だが、トラブルは思いもよらぬ所から起こる。引き続き警戒しておいてくれ」
「はい」
すると、社長は表情を崩して専務に話し始めた。
「話は変わるが、イリエ貿易のお孫さんは超人的なステータスだな。まさか、スポンサーだからって……」
「いえいえ、不正はしてませんよ社長。社長だって不正できないじゃないですか。ははは」
「ああ、そうだったな、はっはっは」
「ところで社長、久しぶりにみんなで討伐行きませんか? たまには社長のカッチカチを見たいですよ」
「私の防御力は9000以上だからな。レアな大盾も、惹きつけスキルも凄いぞ!」
「9000以上ですか、また防御力が上がりましたね」
「いやいや、まだまだ。わたしは誰かを守ることが大好きなのだ。もちろん、この会社もな! まだまだ防御力上げるぞ!」
社長は嬉しそうに笑った。
ー バリードレの黒の屋敷 大広間 ー
「マリ様、この二人が新しい加入希望者です」
黒のメンバーにマリの前へ案内された男女2人は少し緊張した面持ちでマリに頭を下げた。
「宜しくお願いします」
「おねがいします」
「ようこそ。朝から悪かったわね。ところでお二人はどのくらい課金しているのかしら」
「ぼくは毎月限界の10万です」
「わたしは月4~5万くらいです」
「そう。じゃあ献身的な課金者に不公平な運営は許せないわよね」
「はい」
「はい」
「歓迎するわ。あなたたち、聞いているとは思うけど、黒に入るには入会金がいるの」
「あ、はい!」
「5000円ですよね」
「ええ。黒の結束のために使わせてもらっているわ。お2人はゲームにクレジットカードは登録しているわよね」
「はい」
「してます」
「じゃあ、ブラウザで黒のオフィシャルサイトにアクセスして『入会』ページから決済してくれるかしら」
「はい」
「はい」
2人は視界にブラウザを表示させると黒のオフィシャルサイトで決済を始めた。
2人はゲームに登録してあるクレジットカード番号が自動入力されると、手を動かして視界に表示されたテンキーを押し、セキュリティコード、そして暗証番号を入力した。
マリは送金された知らせが視界に表示されると、ウィンドウを開いて確認した。
「お2人からの送金を確認したわ。ようこそ黒へ。さぁ一緒に、この世界に革命を起こしましょう」
「はい!」
「はい!」
マリはアイテム欄から黒い飾り羽を出現させると、2人に手渡した。
そして、しばらく2人談笑すると、2人は嬉しそうに大広間から出ていった。
そして大広間から人が居なくなってマリ1人になると、どこからともなくヤマちゃんが現れた。
「マリさん。2人のセキュリティコードと暗証番号ゲットしたよ」
「ふっ、さすがヤマちゃん。手の動きでセキュリティコードと暗証番号読み取るのはお手の物ね」
マリはニヤリと笑った。
ー ピンデチ G区画の家 ー
アカネと黒ちゃんは今日も二階で稽古をしていて、めぐとおじいさんは一階でくつろいでいたがイリューシュはまだ来てなかった。
「ぴぴぴ」
「ふふ、可愛い」
めぐがテーブルの上の丸い鳥を撫でると、鳥は目を細めて喜んだ。
すると稽古を終えたアカネと黒ちゃんが二階から降りてきた。
「めぐ~、イリューシュさん来た?」
アカネがそう言うと、めぐは鳥を撫でながら答えた。
「まだなんだよね。忙しいのかなぁ。今日みんなでメインクエスト行こうってメッセージ来てたよね?」
「まぁ、イリューシュさん現実世界でモテそうだし、色々あるのかもよ」
「あ、それあるね」
「そういえば、めぐって顔とかスキャン?」
「え、そうだよ。ゲームで撮った画像とか自分の顔でSNSに投稿したいし。ちょっと美肌にしたけど」
「だよな、あたしもスキャン。じいちゃんは……、そりゃスキャンか」
「「はははは」」
するとアカネは黒ちゃんを見て言った。
「黒ちゃんは?」
「はっはっは。もし顔作るなら、もっとイケメンにするさ」
「だよな! でも、その顔も固そうでカッコイイぜ!」
「お、おう」
黒ちゃんは、褒められてるのかディスられてるのか一瞬戸惑ったが、アカネが嬉しそうにしてるので良しとした。
すると、めぐが上を向きながら呟いた。
「そういえば、イリューシュさんも顔と声の感じが合ってるし表情も自然だからスキャンなんじゃないかなぁ」
「だな。エルフだけど耳以外は自然だもんな」
アカネがそう言うと、みんなウンウンと頷いた。
バタン
「こんにちは。今日は遅くなってしまって……」
噂をしていると、イリューシュが現れた。
「あ、イリューシュさん、こんにちは」
めぐが挨拶すると、みんなもイリューシュに挨拶した。
すると丸い鳥がテーブルから飛び降りて、イリューシュの所へ走っていった。
「あらあら、ピピちゃん。ふふふ」
イリューシュはピピを抱き上げると、みんなに言った。
「お待たせしました、ではメインクエストへ行きましょう」
「「はーい!」」
みんなは準備を済ませると、ワイワイお喋りしながら家を出た。
◆
みんなで村の外へ向かっていると、アカネはメインクエストが気になってイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、メインクエストの第2章って何するんすか?」
「今回は海賊の討伐です。そして船を手に入れるんです」
「おお! なんか楽しそうっすね!」
「船を手に入れたら、タマシリさんの住んでいるシャームへも行けますよ」
「あ、あの笑顔の!」
「ええ。ふふふ」
おじいさんたちは村の外に出ると、イリューシュが軽トラのモービルを出現させた。
そして荷台にアカネとめぐと黒ちゃんが乗り込み、助手席にはイリューシュが乗り込んだ。
イリューシュは軽トラに乗ると手で何か操作して、運転席に座ったおじいさんに言った。
「ひろしさん、今このモービルの権限をひろしさんに移しましたので、車はご自由に使ってくださいね」
「えぇ! よろしいのでしょうか」
「ええ。どちらにしろ、わたし運転できませんので。わたしが居ない時にも使って頂けると嬉しいです」
「すみません、いつもありがとうございます」
おじいさんはイリューシュに頭を下げると、窓から顔を出してみんなに言った。
「では、みなさん、出発しますね」
おじいさんはそう言うと、ゆっくりと軽トラを走らせた。
ブゥゥウウウン
軽トラが走り出すと、荷台でアカネが黒ちゃんに話しかけた。
「黒ちゃん、昨日から柔道の練習に付き合わせちゃって悪いね」
「いやいや、問題ない。柔道に打ち込んでいた学生の頃を思い出して楽しいのだ」
「黒ちゃん、もう柔道やってないの?」
「やる機会はあるのだが、仕事が忙しくてな」
「なんか大人って大変そうだよな」
「そうだな。ところでアカネ、次の大会はいつなんだ?」
「あたし? 年明けに予選会があって、決勝は3月なんだけど、本格的なリハビリ始められるのが10月なんだ」
「春の武道館だな、なつかしい。ぜったい応援しに行くぞ。アカネならリハビリも上手くいくさ!」
「おう、ありがとな!」
荷台で柔道の話で盛り上がっていると、程なくして軽トラはハーイムの港町に到着した。




