ひろし、まだ戦う
その頃、タマシリは魔術武闘家と一対一で対決していたが実力が拮抗していて戦いは硬直していた。
「仕方がない。黒のメンバーである以上は勝たなきゃならないからな」
魔術武闘家はそう呟くと、魔法で拳と足にに岩を纏わせ、恐ろしい速さで襲い掛かってきた。
ドガッ ドガガッ!
タマシリは攻撃力の増した攻撃に防戦一方となり、ふとした隙にミドルキックを食らって吹き飛んだ。
ズドッ!
ズザァァア
しかし、タマシリは受け身を取ると即座に立ち上がって、魔術武闘家に走り込んだ。
「ああぁぁあああい!」
タマシリはそのまま鋭い前蹴りを放つと、魔術武闘家のガード上から蹴り抜いた。
ドガッ!!
前蹴りの勢いは凄まじく、魔術武闘家はガードの上からダメージを受けて吹き飛んだ。
ズザァァァ……、ダッ。
魔術武闘家は吹き飛びながらも受け身をとって立ち上がると、ニヤリと笑ってタマシリに言った。
「お前強いなぁ、おれワクワクしてきたぞ」
「Dragon Ball? Huh」
二人は笑い合うと、お互いの拳を軽く当てて挨拶し、再びファイティングポーズをとって勝負を決めにかかった。
「やぁっ!」
「あぁぁああい!」
ドガッ!
ドゴッ!
二人は同時に捨て身のミドルキックを放つと、お互いにそのまま食らった。
「くっ!」
「Haha!」
二人とも一気にHPを減らすと、タマシリは次が最後の攻撃だと覚悟を決め、魔術武闘家のアゴをめがけて膝蹴りを繰り出した。
「あぁぁああい!」
しかしその瞬間、魔術武闘家も最後の力を振り絞ったローキックでタマシリの膝を狙った。
「でやぁっ!」
バキャ!
ゴキャ!
魔術武闘家はアゴを折られて後ろへ吹き飛び、タマシリは膝を折られてその場に崩れ落ちた。
「いやっ!」
タマシリの加勢に走ってきたイリューシュは、その光景を見て思わず声をあげた。
しかし、二人は笑っていた。
「あひゃひゃ、あごぐぁ。おめぇつええなぁ」
「Hahaha! ヒザ、オレタヨ」
そして二人は大笑いしながら消滅していった。
「男の子は、分からないわね……」
イリューシュがそう呟くと、向こうでアカネたち5人に囲まれた魔法騎士も力尽きて消滅していった。
パチ……、パチパチ……
パチパチパチパチパチパチ
すると黒のメンバーを倒したおじいさんたちに、客席のハイレベル・プレイヤーたちから拍手がおこった。
みんなはハイレベル・プレイヤーたちに頭を下げると少し照れくさそうに笑った。
ー ギーカブル社内 ー
「なんなの? 予定が狂ったわ。ハイレベル・プレイヤーのスカウトに失敗したじゃない」
真理は苛立ちながらメインサーバーへのアクセスを解除した。
そしてスマホを取るとゲームの運営会社、イグラァに電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。株式会社イグラア、ザ・フラウ運営本部、山本でございます」
『ギーカブルの大埼です。ごめんなさい不正アクセスを止めるのに必死で連絡できなくて』
「あ、よかったです! 今、その事で部長が大慌てで。あ、部長に代わりますね」
ガサ……ガサガサ
「もしもし、真理ちゃん?」
『あ、部長。なんとか不正アクセスを止められました。時間がかかってしまってすみません』
「良かった~。今回はやばかったね」
『ええ。ハッカーが黒のメンバーのアカウントを乗っ取って、黒がイベント会場で暴れたように見せかけたみたいで』
「黒のメンバーのアカウントを?」
『はい。黒のメンバーは強いプレイヤーばかり。きっと強いプレイヤーを利用したんですね』
「なるほどぉ、そういう事かぁ。その乗っ取られたアカウントって一時的に停止した方がいい?」
『部長。黒のメンバーは被害者ですし、もしカウントを停止したら課金にも影響がでるかもしれませんよ』
「え? 課金に?」
『ええ。黒のメンバーは重課金者の集まりです。仲間が不条理にアカウント停止されたら課金をボイコットされるかも』
「そうかぁ、それはまずいね……」
『部長。ちなみに、レベル3のアクセス権限があればハッカー追えるんですけど、難しいですよね』
「あー、さすがにレベル3以上は社長の許可が必要だからなぁ」
『ですよね』
「あ、ごめん真理ちゃん。さっきの件で緊急会議の連絡来ちゃった。行かないと」
『あ、はーい。また、連絡しますね、失礼しまーす』
真理は電話を切ると呟いた。
「ふっ。部長は簡単に騙せて助かるわ。さて、黒のメンバー達を労いに行かないとね」
真理はVRグラスをかけるとマリのアカウントでログインし、黒の屋敷へ転移した。
◆
マリが屋敷に入るとリスポーンしていた3人と、逃げた召喚魔道士が待っていた。
逃げた召喚魔道士は黒のメンバーに捕まって拘束されていた。
するとイリューシュに倒された大弓使いがマリに話し始めた。
「マリさん、ほんとすみません。あいつらおかしいっす。オロチの大弓持ってるとか意味不明っす」
「あら、そんなにおかしな武器なの?」
「はい。おれも戦ったことが無いんすけど、ゲーム初期に討伐率わずか0.6%のクソモンスターがいて、その素材で作る伝説の武器っす」
「でも、そんな武器相手に良く頑張ってくれたわね。ほんとうに誇りに思うわ」
それを聞いていた魔法騎士も頭を下げながら言った。
「奴ら、ピンデチ付近にいるような輩たちでは無かった。強すぎる」
魔術武闘家も口を挟んだ。
「ほんと。俺と戦った武闘家、俺と互角だったよ。最後アゴ割られたし。はっはっは」
「あなたが他の武闘家にやられるなんて信じられないわ」
「いやぁ、でもワクワクしたよ。また戦いたいなぁ」
逃げた召喚魔道士は下を向いたまま黙っていると、拘束している黒のメンバーがマリに言った。
「マリさん。こいつは1人だけ逃げました」
それを聞いたマリは厳しい眼差しで召喚魔道士に言った。
「あなた、仲間を置いて逃げたの?」
「……す、すみません! MPが無くて、もう強いの召喚できなくて……、ピンデチ舐めてて魔法回復薬持ってなくて……」
「ふうん……。そんなの言い訳にならないけど、今回だけは許すわ。次は死ぬ気で戦うのよ。また逃げたら追放よ」
「つ、つつ、追放だけは勘弁してください! 黒の飾り羽だけがおれの誇りなんです! 次は必ず!」
「そう。分かったならいいわ。じゃあ、倒された3人にあなたのプクナを全部分けなさい」
「は、はい! す、すぐに送ります!」
召喚魔道士は慌てて自分のプクナを全て3人に分けた。
マリは召喚魔道士が送金の操作をした事を確認するとメンバーたちを連れて大広間へ入った。
マリは大広間の奥の席へ行くと待っていたメンバーたちに話し始めた。
「みんな、今回は失敗したわ。ごめんなさい、わたしのミスよ」
メンバーはそれを聞いてザワつくと、マリはテーブルに両手をついて話を続けた。
「でも今回のハッキングで、戦闘禁止のはずのイベント会場でプレイヤーが消滅した事に驚いているはずだわ」
マリはゆっくりと椅子に座ると続けた。
「今回は失敗したけど、音楽イベントなんかに群がる低レベル・プレイヤーを脅かすことには成功したはず」
「「「おぉぉ」」」
「これからも、このゲームをつまらなくしている低レベル・プレイヤーたちを脅かして排除するわよ!」
「「「おおーー!!」」」
黒のメンバーたちは強く結束した。
ー 株式会社イグラア社長室 ー
「社長、トラブルは収まったようです」
「そうか。会場で暴れたプレイヤーたちはハッカーではないのか?」
「外部のセキュリティー会社からは、アカウントが乗っ取られたプレイヤーだと報告が入っています」
「そうか」
「社長、それとSNS上では、女の声でアナウンスがあり、暴れるように指示したと……」
「組織的犯行か……。ピンデチに送り込んでいるエージェントから連絡は?」
「はい。実は今回のトラブルをエージェントと仲間たちが解決しまして、もう少しで連絡が来るはずです」
「そうか、なかなか優秀だな」
「大口スポンサー、イリエ貿易の会長のお孫さんです」
「イリエさんのところにはお世話になるな……」
「社長、明日の朝までにはデータをまとめて報告致しますので、それまでお待ちください」
「そうか。頼んだぞ」
社長は腕を組んで立ち上がると、社長室の窓から外を眺めた。




