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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
3.広がる世界
106/106

変化、揺らぎ

  

 side:???



 「陛下! ご報告が!」


 

 慌ただしく音を立て、扉を開ける宰相。

 彼がここまで冷静さを欠くのは珍しい、と " メタン王国現国王 " のクリフス・ザン・ファルスタンは思った。


 彼が居るのは王室。

 普段通りの仕事をしていた。


 

 「ノックも無しとは随分焦っているのだな」



 クリフスは宰相を宥めるように言った。

 眺めていた書類を机の上に置き、宰相の顔を見る。


 宰相の顔は一目で分かるほどの焦燥に駆られているようだった。

 汗が滲み、瞳には力が宿っている。



 「あ、神の遺物(アーティファクト)が暴走し出したのです!」

 


 「何?」



 宰相の報告を聞き、クリフスの顔色も変わる。

 次の瞬間には彼も宰相と同じ顔になっていた。



 「暴走とは? 完全に制御下に置いていたではないか!」


 

 メタン王国、いや世界中の国で利用されていた神の遺物(アーティファクト)

 それは離れた場所と場所を一瞬で繋ぐ転移門のことだった。


 彼らがそれを使い始めたのはいつなのか。それを知る者は最早いない。

 それ程長い間、姿を変えることなく世界の発展に貢献してきた。


 

 「それが魔術師たちがどう頑張っても起動させることもできず、何故起動しないのかも分からない状態です!」



 「くッ……すぐに魔法国と聖国に使いを出せ!」



 世界の物流の中心として最も商業的に発展しているメタン王国だからこそ、単純な移動や物の輸送まで多くの部分で転移門を頼っていた。


 それが使えないとなると、簡単に予想できる損害だけでも目を覆いたくなるほど。


 クリフスの命令で慌てて部屋を出た宰相を見ながら、クリフスは起こりうる問題に頭を悩ませていた。



 「何故だ……? 神の遺物(アーティファクト)が使えなくなるなど、長い歴史の中でも聞いたことがない」


 

 クリフスの知る限り、転移門が機能を止めたことは無かった。

 そして、それは正しい。



 「早く。早く何とかせねば」



 独り言を呟きながら、クリフスは思考を続けていた。





 ☆☆☆☆☆




 side:???


 煌びやかな装飾が施された天井に、豪華な宝石で飾られた杖を握りながら、ふかふかの椅子に座る女性。


 彼女の眼の前には跪く男性がいた。



 「女王陛下。ご報告が御座います」



 「何じゃ」


  

 落ち着いた声色で告げる男性に、女王は興味も無さそうに無機質に応じる。

 その視線は男性でなく自らの杖に向けられており、飾られた宝石の輝きを楽しんでいるようだ。


 

 「神の遺物(アーティファクト)に不具合が生じております」



 「不具合とな?」



 そう聞き返すが、やはり興味は無さそうに見える。



 「メタン王国、ウェルダン国への移動が出来ぬようです。原因は至急解明中ですが、何分、遥か昔の技術ですので時間が掛かるかと思われます」



 女王は杖を動かした。

 持ち方を変え、またも宝石を眺めている。



 「ふむ。ルワンはどうしておるんじゃ」



 「賢者殿は帝国で勇者殿とお会いしているようです。数日後には聖女殿も合流する予定ですが、如何されますか」



 女王からの返答はない。

 そして数秒の沈黙の末、女王は初めて男性へ視線を向けた。

 

 

 「メタン王国に行けないのは面倒じゃからの。ルワンを呼び戻せ。帝国のヤツに何か言われても構わん」



 「かしこまりました」



 男性はそう返事をして退室した。

 女王は既に男性から視線を外し、手に持つ杖の宝石を眺めていた。




 ☆☆☆☆☆




 side:???


 

 とある僻地。世界の端、人類もその他の殆どの種族も存在すら知らない孤島。

 氷に閉ざされた大地には生物の影すら見えない。


 そんな吹雪が吹き荒れる中、険しい山の中腹には一つの巨大な洞窟があった。 

 およそ人工的ではなく天然のものであろう洞窟の奥、吹雪が届かない場所。


 そこに横たわる生物が居た。


 蒼く透き通るような鱗に蛇のように長い身体。

 それでいて、尋常ならざる存在感を放つソレは微塵も動く様子はない。


 比喩ではなく、まるで氷の彫像のようだった。

 

 


 ☆☆☆☆☆




 side:リディア


 あの日――イベントが終了した日。

 私はとある場所に呼び出されていた。


 私の記憶が正しければ、そこは上司からこの仕事を与えられた時に訪れた場所だった。

 

 呼び出したのは上司である男。 

 この男から連絡が来たのはこれで三度目だった。

 

 一度目は運営に関してのこと、二度目はサクヤに関してのこと、そして三度目がついさっきのことだ。

 

 呼び出した要件について具体的なことは知らされていない。だが、どう考えても私が行ったことに関する罰だろう。


 私は緊張しながら、目の前のドアをノックする。


 

 「入っていいよ」



 聞こえた声は想像していたより柔らかかった。

 いや、普段と変わらない。私は逆に怖くなった。


 出来るだけその緊張を悟られないよう、落ち着き払ってドアを開ける。

 中を見ると、男が座っていた。


 若い。スーツではなくラフな格好に身を包んだ男は、スマホ片手にスナック菓子を摘んでいた。

 デスクの上にはコーヒーが置いてあり、コップからは湯気が見える。


 あの時と一緒だ。

 私は数ヶ月前のことを思い出しながら、そう思った。


 

 「失礼します」



 部屋に入り、椅子に座る。 

 男は視線を私に向けた。目が合う。



 「さて、何か言い訳はあるかな?」



 男は開口一番にそう言う。

 言い訳。私が規則を破ったことへの言及だ。


 本来、私たちGM側がプレイヤーに干渉することはGMコールや余程悪質な行為がない限り禁じられている。


 もしくは運営本部と呼ばれるこの男達からの命令以外では、私たちがすることは無いと言ってもいい。

 


 「サクヤの抑止を命じたのはあなただと思います」



 「私が命じたのはイベント内でのことだよ? 勝手にエデンでユニットを出したのは誰かな? おかげで詫び石をあげなきゃいけないし、抑止どころか手助けじゃないか」


 

 「……すいません」



 当然ながら、男は怒っているようだった。

 確かに勝手をしたのは自分だし、その結果どうなるかも分かっているつもりだ。


 

 「まあ、そういう性格の君を選んだのは私だし、そうなると私にも責任は少しあるわけで。そこまで怒ってないよ」



 「……すいません」


 

 怒ってない、と言っているがそうでは無いと私にはわかる。

 だからこそ、ここではとにかく謝罪するしかない。


 

 「でもさ、()()()()()をさせてあげてるんだし、もう少し上手くやれないかな? 伊坂君を見習ってさ」


 

 「……アイツをですか」



 伊坂は、私と同格であるGMの一人だ。

 何人かいるGMの中でも特に性格が捻くれており、好きになれない……いや、嫌いと言える男だった。


 上司である男もその事は知っている。

 知っていてわざと言っている。嫌がらせ、ここでは罰と言えるだろうか。



 「そうそう。今回のイベントは君に任せてたけど、あの子は隠れて色々やってたみたいだよ? 君は気付いてなかったみたいだけど」



 「なっ!? そんなことが許されるの!?」



 今回のイベントは私たちに一任されていた。それは前々から決まっていたことだし、他のGMが開催するイベントもそれぞれ決まっていた。


 だからこそ公平だし、互いに手出し厳禁という暗黙の了解が成り立っていた。

 


 「ダメでは無いからね。バレたら面倒ってだけで」



 飄々と男は言う。

 その姿を見るだけでイライラするし、何でこんなやつが上司なんだと文句を言いたくなる。


 

 「抗議するわ」



 「したら良いんじゃない? 証拠ないけどね」



 あははは、と男は笑っている。

 本当にムカつく。


 

 「あ、そうだ」



 すると、男は急に真顔に戻った。

 何かを思い出したようだった。



 「サクヤだけどもう放置でいいよ。ちょっとやそっとでどうにかなる感じじゃなくなったみたいだし」



 「放置でいいのね?」



 あれだけ何とかしろと言ってたのが急にどうしたんだ、と思うがそれが命令なら仕方ない。

 私が干渉しすぎた影響もあるかもしれない。



 「うんそれでいい。あと、イベント報酬はどうするつもり?」



 「クラン創設券とお金、ポーションとかをメインにしてるわ」



 イベント報酬。特別な物は用意せず、消耗品をメインにしていた。

 装備のランクも足りているし、エデンが解放されたことで扱える素材も桁違いに増える。


 下手に強力な装備を報酬にするのは良くないと判断していた。



 「いいね。でも……うーん」



 「他にも何か?」



 男は何かを考えているようだ。

 この上司がこうやって悩んでいるのを見るのは初めてだった。


 私は新鮮な光景を見れて少し良い気分になった。

 


 「まあいいや。ルールを守れば好きにやって良いよ」


 

 「……わかったわ」



 何を考えていたのか気になるが、無理に聞き出そうとは思わなかった。

 上司からこれ以上言う事はないようで、出ていっていいと視線で促してくる。


 私は席を立ち、ドアへと向かう。

 ドアに手を掛け力を入れた瞬間、後ろから声がした。



 「やっぱりアドバイスするけど、君下手くそすぎるよ。過度な干渉が禁じられてるだけで、干渉自体はやっても平気だからね」



 「分かってるわ」



 私は上司からの言葉に短く答えると、ドアを開けて部屋から出ていった。

 


 「いや分かってないよね絶対」



 と、上司はそう溢していたが私の耳に届くことは無かった。



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