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異世界アイテム通販生活  作者: 遊座
第二章 回復薬
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第26話 たとえあなたが応えてくれなくても



「ふう……さっぱりした ! 」


 シャワー室から、身にバスローブを纏い、頭にタオルを巻いた(れい)が出て来た。


「悪いがドライヤーは我慢してくれ。いざとなれば発電機もあるが……なるべく節約しておきたいからな」


 酉井(とりい)はストロング系缶酎ハイを呷り、横目で零を見て言った。


 部屋の隅に置かれた大型の蓄電池に繋がれたコードの束は、配線隠しのカバーの下を通り、各部屋へと伸びていた。


「さすがに異世界のアイテムでも電気まではどうにもならないよね……」


「ひひ、まあこれでも努力はしましたから。 LP ガスのボンベを持ち込んでお湯を使えるようにもしましたしねぇ」


 一足先にシャワーを浴びた「不審者」は上半身裸のまま、入念に化粧水を身体に染み込ませていた。


「……あんたって乾燥肌だったの ? どちらかというと『人間油田』とか異名を付けられそうなタイプだと思ってたけど……」


 零は怪訝な顔で「不審者」を見やる。


「ひひ、そんな石油メジャーがバックについてそうな『人間山脈』的な異名をつけられるほど油が出るなら、私は汗をかく(たび)に大儲けですよぉ。そうではなくて、これはこの異世界への対応策ですよぉ」


 「不審者」は三分の一ほど減った化粧水のボトルのキャップを閉めながら言った。


「対応策 ? 」


 零は首をひねる。


「ええ、山城の屋内は昼でも薄暗かったでしょう ? 」


「ああ、照明器具がまだ未発達でロウソクを使っているような世界だからね」


「そこですよぉ ! 日本のモテ武将の代表格である浅井長政の肖像画は、とてもそうは思えないほどポッチャリしていました ! それがなぜモテたのか !? きっと暗い屋内では外見なんかよりも、触れ合う肌の質感が大事だったんですよぉ ! だからふくよかでもちもち肌の浅井長政がモテまくったんです ! それを見習って、私もこの照明器具の発達していない異世界でモテまくるためにもちもち肌になるんですよぉ ! 」


 急にテンションマックスとなった「不審者」はいつもよりも潤った顎をぷるんぷるんと震わせて笑う。


「あんたがこの世界の信長的な奴の妹に手を出して、やがて討ち滅ぼされることを(せつ)に願うよ」


 つけ睫毛(まつげ)を取り、いつもより目元が寂しくなった零は溜息をついて、「不審者」がせっかく閉めたボトルを再び開ける。


「ちょっともらうね」


 了承の返事も待たず、彼女は手をパフのように使って化粧水を顔に塗っていく。


 芳醇な薔薇の香りが彼女の鼻をくすぐった。


「……これ、相当高い奴だね」


 おそらくは全身から薔薇の香りを放っているであろう目の前のふくよかな男に、零は言った。


「必要経費ですよぉ」


「……絶対に外部の会計監査が認めない種類のね。費用対効果がまるで見込めねえんだからな」


 ふと零は視線を感じた。


 酉井だ。


「……どうかした ? 」


「……つけ睫毛をしてない時のお前の顔を初めて見たからな」


 そう言って彼は缶を傾ける。


「そういやそうだね。すっぴんでも綺麗でびっくりした ? 」


 零はおどけたように言った。


「まあ……その判断は横に置いてだな」


「それって否定してるのをはっきり言いたくねえだけだろ ! 」


 零は激昂した。


「いや……当たり前だが、ママに似てるな」


「……そうかな ? 」


「ああ……ママの若い頃は…………多分今のお前みたいだったんだろうな」


 プシュ、と音がして甘酸っぱい香りが室内に漂う。


 酉井が新しい缶のプルタブを開けたのだ。


 零が何かを言おうとした時、扉が開いた。


 そして漂ってくる石鹸の匂い。


「……つい長湯をしてしまいました。湯舟につかるなど……数年ぶりでしたから……」


 いろんな理由で頬を上気させたマルガリータだ。


 それほど広くない浴室だが、使い方を教えるために零と一緒に入浴していた彼女は、零が上がった後も湯舟につかっていたのだった。


「マルガリータ ! これ使ってみなよ ! 」


 零は高級化粧水のボトルを手に取る。


「これは…… ? 」


「肌にいいから ! 」


 不思議そうな顔のマルガリータ。


 彼女の手に「不審者」から解放されてようやく本来想定された使用法通りに使われる高級化粧水が注がれた。




────


「……食前の祈りを捧げないの ? 」


「……女神なんて存在しないんだ。だから存在しないものに捧げる祈りなんて必要ない」


 小首をかしげたボナに、ルカはぶっきらぼうに答えた。


 宿屋など存在しない小さな村で、旅人が泊まれるのは女神を祀る教会だけ。


 そんな教会の一室を無料で借りているにもかかわらずの不遜さであった。


「そんなわけない ! ニルダ様は天上にいらっしゃるわ ! ……さっきだって魔物に襲われている私を救うためにあなたを遣わしてくれたわ ! 」


 まだ幼さの残る少女は、短いブラウンの髪を震わせ、頬を真っ赤にしてルカに反論する。


「……単なる偶然だ。それに……もし女神が存在するなら……どうしてこの世界は……こんなにも理不尽で……悲しみと苦しみに満ちてるんだ ? どうして女神は祈っても願いを聞いてくれないんだ ? 」


 ルカの大人でも怯むような視線を受けても、少女は尻込みしない。


「……あなたは祈りに対価を求めるの !? じゃあ悪魔にでも祈ればいいじゃない ! きっとどんな願いでも叶えてくれるわ ! 魂と引き換えにね ! 」


 そう言い捨てて、ボナは部屋を出て行った。


「……なんだよ。命を救ってやったのに…… ! 」


 吐き捨てるように言うルカ。


 すぐ前に乱暴に閉められた扉が静かに開いた。


「……大人げないとは思わんかね ? 」


 常駐する神父のいな村の教会の管理をしている村長の静かな声。


 ルカは思わず俯いた。


「……お主も何かつらいことがあったのじゃろう。ニルダ様への信仰が揺らぐほどのな。じゃが……あの子も同じじゃ……。両親は早くに病でこの世を去り、頼りにしていた兄も此度(こたび)の戦争で徴兵されていってしもうた……。それでもボナの大地を司る女神ニルダ様への信仰は揺らがなかったのじゃ……」


「そんな目にあって……どうして…… ? 」


「不思議に思うなら、明日ボナの畑に行ってみるといい……。それから冷める前にそのスープを飲みなさい。せっかくあの子が作ってくれたんじゃからな」


 それだけ言うと村長は再び静かに扉を閉めた。


 ルカは無言で、テーブルの上のスープにスプーンを伸ばす。


 トマトベースの赤いスープに、大きな野菜がごろごろと入ったものだ。


「……うまいな」


 ルカは(ひと)()ちて、夢中でスープを飲み干した。





ここまで読んでいただいてありがとうございます !


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