表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で侍女やってます  作者: らさ
第5章
81/84

第4話

読んで下さりありがとうございます。

このお話で「異世界で侍女やってます」は完結です。

あと、数話の小話を投稿予定です。お付き合い頂ければ幸いです。

 どっ、どういうこと!? 信じられない。

 私の思考能力は停止し、身体もこわばったまま動かなくなった。

 そんな私を前にサイアスさんは続ける。


「ハナを愛してる」

 サイアスさんの顔は真剣だ。

「いや、でも、私、異世界人だし、サイアスさんのお家は伯爵家だし、超イケメンだし・・・」

 ダメだ。思考がまとまらないから、言葉も支離滅裂だ。


「異世界人だろうが、なんだろうが、ハナが好きなんだ」

 サイアスさんは優しく微笑んだ。


「いや、でも、どうして? 私より綺麗な令嬢はたくさんいるじゃないですか」

 そうだよ。サイアスさんは、結婚相手に不自由しないでしょう。選び放題だよね。なんで私みたいな綺麗でもない、平凡な娘をわざわざ選ぶのか訳がわからない。


「ハナより可愛い娘なんていない」

 サイアスさんはきっぱりと言い切った。

 おかしい? サイアスさん、おかしいよ。セインさんに診てもらったほうがいいよ。

 うん、そうだ。連れて来よう。


「サイアスさん、どうもサイアスさんはおかしいです。医者に診てもらった方がいいと思います。セインさんを呼んできましょう」

 私が立ち上がりかけると、サイアスさんは溜め息をついて、その腕に私を抱きかかえた。

 サイアスさんはそのまま、椅子に座る。

 ナニコレ?


「返事は?」

 ちっ、近い。サイアスさんの澄んだ碧い瞳が、私の呆けている顔を映している。

「へっ返事?」

「そう、ハナ。私は君に求婚したんだ」

 サイアスさんは目を細めて、楽しそうに笑った。

 私にそんな余裕はないよ! 求婚って、求婚って! サイアスさんが私の事好きだったっていうのも今知ったのに、いきなり求婚って言われても。


「いきなりなんで、よくわからないです」

「じゃあ、考えてほしい。今、ここで」

 サイアスさんはそう言って、私を抱えたまま眼を閉じてしまった。

 えっ、ちょっとどういうこと。寝ちゃうの? なら、この隙に腕の中から降りてしまおう・・・。

 くっ! ダメだ。サイアスさんの腕は私を抱え込んでびくともしない。

「サイアスさん?」

「返事をくれるまで離さない」

 彼は眼を閉じたまま言葉を発した。


 考える・・・・。

 サイアスさんと結婚すること、考えてみよう。

 身分が違うから諦めていたけれど、サイアスさんが私のことを好きでいてくれて、結婚まで考えてくれているのなら答えは簡単な気がする。

 でも、結婚後の大変さとか考えると・・・私に出来るのかな。貴族の奥様とか務まるのかな。


 私はどうしたいの。

 ここで、サイアスさんとは違う未来を選んだらどうなるの? 違う未来? もう会えない?


 嫌だ! 


 サイアスさんと一緒にいたい。ずっとこの腕の中にいたい。私をすっぽりと優しく包んでくれるこの腕を誰にも渡したくない。


 私はそっとサイアスさんの背中に手をまわして、ギュッと力を込めた。

 その瞬間、サイアスさんがクスリと笑ったのがわかった。


「こっ、これが返事です」

 ちょっと震える声で答えを返す。

「ありがとうハナ。こんなに幸せなことはない」

 サイアスさんは、私を抱きしめる腕に力をこめて耳元で囁いた。くすぐったい。


「私もです。サイアスさんとこれからもずっと一緒にいられるなんて・・・」

 本当に嘘みたいだ。

 朝は自立への一歩を目指して街に出たのに、今は大好きな人の腕の中でこれからも一緒にいられる、居ていいんだってわかって、安心しているなんて。


「ハナ・・・」

 サイアスさんが、私の頬に手を添える。

 んっ、この展開は。やばっ! 私、広場で串焼き食べたんだった。スパイスたっぷり使った串焼きだよ。キッ、キスなんてできないよ。

 私は慌てて、近づいて来るサイアスさんの顔を止めると、隙だらけになっている彼の腕の中から抜け出た。

「ハナ?」

 サイアスさんは驚いて私を見つめている。そりゃ、そうだろう。逃げちゃったもん。

「あっ、あの広場で串焼き食べちゃって、しかもスパイス割増しでかけて貰っちゃったんで・・・その・・・今は・・・その」


 クッ、アハハ


 んっ、扉の向こうから笑い声が聞こえた。


 それを聞いたサイアスさんはため息をついて、扉に向かって歩いていく。

 彼が一気に扉を開くと、クイーブさんや、サイアスさんのご両親、ライル様やミリィ様、ツイルさん、マリーネさん、メイがよろよろと倒れ込むようにして室内になだれ込んできた。

「はしたないですよ」

 サイアスさんは皆の顔を睨むようにして言った。


「ごめんなさいね。つい気になってしまって」

 伯爵夫人が苦笑いする。

「残念だったな。サイアス」

 クイーブさんが大きな口を開けて笑った。

「ハナ、もう一度淑女の、いぇ、サイアス様の奥様になるべく教育し直しね」

 メイが力のこもった視線を向けて来る。


「えぇっ、最初からぁ」

 つい、落胆と同時に溜め息がもれる。

「ハナはそのままで十分だ」

 サイアスさんが私に声かけるけど、

「サイアス様は甘いです!」

 ツイルさん、メイ、マリーネさんが声を揃える。

 それと同時に周囲が笑いに包まれた。


 私、ここに居ていいんだ。みんなと一緒に笑っていられるんだ。

 日本に還れないことは辛いけれど、みんなが居てくれるから乗り越えられる。

 これからも幾度となく日本のことを思い出して悲しくなるだろうけれど、必ずサイアスさんが傍に居てくれる。彼は私の悲しみに優しく寄り添ってくれる。


 ありがとうサイアスさん。

 私はサイアスさんの隣に立つと、その手を握り彼の顔を見上げて微笑んだ。

 サイアスさんは、繋いだ手を持ち上げて私の手の甲にキスをして優しく微笑み返してくれる。

「愛してるよ。ハナ」

 こういうのをサラリとされると恥ずかしくて、ドキドキしてしまう。


 これからもずっとドキドキさせられるんだろうな。

 あぁ、心臓が持ちません。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ