第14話
遅くなってしまい、お待ち頂いていた方には大変申し訳ありませんでした。
今週はなんとか更新することができました。
サイアスとハナ視点で少々読みづらいかもしれません。ごめんなさい。
部屋の扉がノックもなしに開いた。
「サイアス、そろそろ支度した方がいい」
クリスが大きな包みを身体で隠すようにして部屋に入ってきた。
私とハナは死んだことになっているから、入室の際にノックなどされないのは当然なのだが、こんな時は少し慌てる。
「うわっ、何やってんだ」
クリスは私の行動をみて驚きの声を挙げた。まずいところを見られたものだ。
「なにって、ハナを見てるんだよ。可愛くて、見飽きることがない」
クリスが来室する少し前に目が覚めてから、ハナの傍に座って彼女を見ていた。よほど疲れているのだろう彼女は寝息をたててぐっすり眠っており、私が頭を撫でても身じろぎもしない。
「阿保か」
クリスは呆れたように、大きな布に包んでいた旅の道具を床に置き、溜め息をつきながら傍に近づいてきた。
「はーっ、若い娘が寝相が悪すぎるだろう。それにポッカリ大口も開けている。どこがいいんだ」
「すべてだ」
寝相や大口を開けていることなど些末なことだ。
ハナは小さな身体で私を救おうと頑張ってくれた。自分の心は私のものだと言ってくれた。
あぁ、爪の先から、髪の先まで彼女のすべてが愛おしい。
「お前がそんな風になるとはな。しかし、お前の想いがハナに伝わってないところが残念だな」
クリスは苦笑いしている。
「そうだな。こんなにわかりやすく接しているのに」
「自分が異世界人だから、お前が良くしてくれているって言っていたぞ」
「まぁ、いい。ハナの想いは軍船のなかでしっかり聞いたからな」
私は立ち上がり、クリスの持ってきた旅装に着替え始めた。右腕を動かすと背中に痛みが走るが我慢できないことはない。傷が思ったより浅くて助かった。
「ハナは異世界に帰ってしまうのか?」
「わからない・・・・。しかし、それがハッキリしないと互いに前には進めないな」
つい声音が弱くなる。ハナの想いは確認したが、ニホンのことやナナ・グラシアの問題が片付かなければ・・・すべてが中途半端なままだ。
「まぁ、頑張れ」
クリスは私の心中を察したのが、ため息をついて肩を軽く叩いた。
「さぁ、ハナを起こそう」
ハナをいつものように起こすべく彼女の耳に囁きかけた。
「うぎゃ」
ハナが変な声をあげて飛び起きる。
「サイアスさん。お願いですから、普通に起こして下さい」
そういって口を尖らすハナが可愛いものだから、なかなかこの起こし方を止めることができない。
クリスはため息をついて首を振りながら私たちを見ている。
「とりあえず、俺の旧知の旅芸人一座にカテガル領を出るまでの同行を頼んだ。カテガル領を出てすぐの町に軍馬を用意しておいたから、それに乗って王都を目指してくれ。最短で王都につけるように、町ごとに軍馬を手配してあるから、次々と乗り換えてくれよ。グレールとエリンは俺が王都に上がる際に連れて行こう。くれぐれも注意してくれ。自分を過信するなよ。サイアス」
「あぁ、分かっている。お前もうまく葬儀を取り仕切ってくれ」
部屋に運びこまれた2人分の棺をみて答える。棺の中が空なのはクリスが信頼する部下数名しか知らない。
「本当に大丈夫でしょうか」
ハナが着替え終えて、部屋を仕切っている衝立から顔を出した。
彼女は町娘の恰好をして、頭には金髪のカツラを被ることで変装している。黒い瞳は仕方ないとしても、黒髪は目立ちすぎるので隠すことは必須だ。
「はーん。うまく化けることができたなハナ。後はフードをしっかり被っておけばイーリアスの町娘で通じるだろう」
クリスはハナの周りをグルグルと回っている。
「そうかな・・・・」
ハナは不安気だ。
「カテガルの手の者に気付かれずに、領地を抜けられれば問題はないだろう」
ハナの不安気な顔に笑顔を向けて答える。彼女は私の言葉に僅かに安堵したようで、口角を少し上げて頷いた。
夜陰に紛れて、軍の支所から町外れで野営している旅芸人の一座に合流した。
今のところ、後をつけられている気配はない。
出発まで数時間、与えられたテントで仮眠をとる。ハナと一緒では眠れる気がしないが、できるだけ努力しよう。
☆
「どうして、今この時に・・・・」
私は恐ろしい夢から覚醒し呟いた。
ナナが、ナナが・・・・この世界に帰るつもりがまったくないような行動をとっている。
私は震える身体を押さえ、隣で寝ているサイアスさんを起こさないようにそっとテントを出た。
久し振りに見たナナの夢は、私にとって残酷なものだった。
なんで、今なんだろう。イーリアスの一大事で、急いで王都に戻ってやらなくちゃならないことがたくさんあるのに・・・・これではサイアスさんに話すこともできない。
深い溜め息をつくと、両眼からポロリと涙がこぼれた。
「可哀想ね。あなた」
不意に背後から声をかけられたことに驚いて振り向くと、この世のものとは思えないくらい綺麗な少女が立っていた。
銀の髪に金色の瞳、頬や唇はピンクのバラのようだ。少女の顔をしっかりとらえていると、彼女と目が合った。
はっ、黒眼をみられた。
どうしよう、敵なの? つい、空手の型をとり身構える。
「あぁ、あなたに害を与えるつもりはないわ。ただ、あなたの魂がこの世界のものではないってことがわかったから、珍しくて声をかけたの。勿論、他言するつもりもないわよ」
少女は銀の髪をかき上げると、ニコリと微笑んだ。
「魂がこの世界のものじゃない・・・・?」
私は空手の型を解き、少女に向き合った。
「そうよ。あなたは異世界から来たのね。それも、この世界の娘と入れ違いに」
少女は、焚き火の傍にある椅子替わりの切り株に腰をかけた。
「少し話さない?」
彼女は自分の隣の切り株を示して、座るよう促したので私は黙ってそれに従った。
「私はこの一座で占いをしているイリス。占い師だけど人の過去を見ることができるの。本当は過去より未来をハッキリ見る能力が欲しいんだけどね」
イリスはため息をついて膝に肘をのせ頬杖をついた。
「そうなんだ。過去が・・・・だから異世界人ってわかったんだね」
「うん、あなたが帰る手がかりを求めて剣聖ダニエルに会ったところも見えたわ」
「すごいね。いろいろ見えるんだ」
私の世界にもいろいろ見える人はいるみたいだけど、テレビや雑誌でしか見たことがなかった。実際にそういう能力を持った人間と会ったのはイリスが初めてだった。
「私、帰れると思う?」
未来が少しでも見られるなら、ぜひ見てほしい。私はイリスに疑問をぶつけてみた。
「あなた、本当は分かってるんでしょ」
イリスはため息とともに言葉を吐き出す。
「えっ?」
「あなたの世界に飛ばされた娘が、着々とあなたの世界で生きる準備をしていること」
イリスの言葉に身体が、心が凍り付く。
そう、私はナナが私の世界で生きていくために準備しているのを知っていた。
読んで頂きありがとうごさいました。
隔週での更新目指して頑張りますのでよろしくお願い致します。




