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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第4章
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第8話

「そう、手土産だ。イーリアスを俺のものにして、親父や頭の弱い兄たちを納得させる」

「戦争するってこと?」

「まぁ、少しは火の手が上がるだろうが、もうほとんど下準備は出来ている」

 私の言葉にレオンは余裕の笑みを浮かべた。

 どういうことだろう。


「わからないって顔してるな」

 私は素直にレオンの言葉に頷いた。


「俺はもう長い間、この時のために準備を進めてきた。まず、ライデント国から資金を持参し祖父の元に戻り商売を興した。祖父を動かして順調に業績を伸ばし、豪商と認められるようになるまで、たいして時間はかからなかったな。でも、それだけではこの国を支配できない。俺はライデント国の薬を使うことにした」

「依存性のあるやつ?」

「よく、知ってるじゃないか。言うことを聞かないとお前にも飲ませるぞ」

 レオンは、そういって微笑むと私の頬を撫でた。

「触り心地がいいな。おっと、」

 頬を撫でるレオンの手を噛もうとしたけど、すんでのところでかわされた。触られた頬の部分が気持ち悪くて仕方がない。全身の皮膚が粟立つ。

「自分の立場を理解しろよ。お前の命は俺の一存で決まる」

 顎を掴まれ、紫色の瞳がこれ以上なく細められ脅される。

 こっ、怖くなんかない。絶対、逃げてやる。サイアスさんのところに戻るんだ。




「レオン、待ちくたびれたぞ。そんな小娘にいつまで時間をかけているんだ。早々にライデントに送ったらいいだろう。小娘の犬が来てしまうぞ」

 室内に、杖の音と共にナタリア事件の時に王城の皇族席で見かけた若い男が現れた。その容姿はウィル皇子に似ている。男は私に顔を向けた。

「やぁ、サイアスじゃなくて残念だったな」

「誰?」

 私の言葉に、男は僅かに片眉を上げて不快を示した。


「イーガルだ。侍女のくせに皇位継承第2位の皇子の顔も覚えていないのか」

 男は杖を投げ出してソファに腰かけた。

 そういえば、アリシア皇女には2人の兄がいると聞いていた。彼はウィル皇子の弟なのかな? でも、私は会ったことがないし、アリシア皇女との会話の中にも登場しなかったと思う。なぜなんだろう。杖をついているし、顔色も決して健康的とは言えない白っぽい感じで線も細い。なにか持病があって、籠りがちだとか。それでも、話くらいは出るよね。


「情けないねぇ、イーガル」

「ふん、どうでもいい。それよりご希望の品だ」

 イーガル皇子はテーブルの上に一巻きの紙を投げ出した。

 レオンの使用人が、それを受け取り彼に手渡した。レオンはそれを満足気に受け取って広げる。

 レオンの膝に座らされ、抱えられている私に、その紙に書かれている内容は一目瞭然だった。


「こっ、これ!」

「わかるのか? あぁ、騎士団の手伝いもしているんだったな」

 レオンはニヤリと微笑む。

「イーガル皇子! どうしてこれをこんな奴に渡したりするんです! レオンはライデントの皇子なんですよ!」

 私の言葉にイーガル皇子はうるさそうに顔を顰めた。

「僕はレオンの協力者なんだよ」


 イーガル皇子がレオンに渡したものは、新年祭および王妃就任式の王城警備配置図だった。


「なんで!」

「さぁ、どうしてだろうね」

 イーガル皇子は薄く微笑んで、黙ってしまった。


「こいつも大変なんだろうよ。知ってるか? こいつは現国王の第1皇子だってこと」

 レオンが王城の警備配置図を丸め直して机の上に置いた。

「第1皇子? じゃあ皇太子なんじゃ・・・」

「本来はな。イーガルは小さい時から病弱だったらしくて、早々に皇位継承を望まれなくなったらしい。可哀想だよな。弟にその座を取られて。だから、俺が手伝ってやるのさ」

「手伝うって・・・・」

「俺がイーリアスを手に入れたら、イーガルを要職に就ける」

 レオンはイーガル皇子を見つめて、黒い笑みを浮かべた。


「レオン、話し過ぎだ。僕は要職になんて就かない。そんなのはどうでもいいんだ。ただ、イーリアス王国を失くして欲しい」

 イーガル皇子は、視線をこちらに向けずに遠くを見つめたまま呟くように話した。


「なっ、屈折してるだろ」

 レオンの乾いた笑い声か室内に響く。

 なんてこと。イーガル皇子はただただ国が亡くなることを望んでいる。


「まぁ、イーガルが協力してくれたから、貴族や軍の上層の一部を薬漬けにすることができた。こうして式典の警備配置図も手に入れたし、あとは当日精鋭を送り込んで皇族を皆殺しにするだけだ」

 レオンが舌なめずりをする。きらりと光る紫色の瞳に背筋が凍る。


 どうしよう。私は誰かに話した? ナタリア事件のあの時、中庭でレオンと杖をついていた男が会っていたことを、皇族席にその男がいたことを!

 団長に、サイアスさんに、ううん、レイラさんにでも・・・・あぁ、話しておけばよかった。絶望が全身を包む、目の前が暗くなる。




「レオン皇子、エクエル中将が来ました。それとラインシート伯爵と思われる者も一緒に・・・・」

 ノックの音と共に使用人が入ってきて、来客について告げる。


 サイアスさんが来てくれた! なんとかこの状況を伝えなきゃ!

 思いきり身体を屈めて伸び上がり、頭頂部をレオンの顎に当てた。

「ぐっ」

 レオンは頭突きを受けて態勢を崩し、私を床に転がした。

 僅かに足を結んでいた縄が緩む。両手を伸ばして縄を取り外しにかかるけど。だめだ、両手も縛られているから思うように指が動かない。気が焦って更に手の動きが悪くなる。


「本当に油断できないな。諦めも悪いし。どう考えても逃げ切れるわけがないだろう」

 レオンに髪を掴まれた。痛い。

「離せ!」

 なんとか逃れようと体当たりをかけるけど、レオンはびくともしない。


「はははっ、とんだじゃじゃ馬だ。サイアスもお前も変わった趣味しているな。じゃ、僕は身を隠すよ」

 イーガル皇子は吐き捨てるように言うと部屋から出て行った。


「本当にな。なんでこんなの王妃にしようとか考えてんだろうな」

 レオンはそう言いながら私の足を縛っている紐をきつく結び直した。

「暫く眠ってろ。目覚めたらライデントだ」

 レオンは使用人から布を受け取ると、私の鼻と口を塞いだ。苦しい。大きく息を吸い込むと刺激臭が鼻腔をついた。

 だめだ。ここで気を失っちゃ・・・・サイアスさんに会わなきゃ・・・・イーリアスが・・・・。


「船に運ぶ荷の中に紛れ込ませておけ」

「はい」


 遠くにレオンの声が聞こえる。船に乗せられたらおしまいだ。どうしよう。この国から、サイアスさんから離れたくない。ずっと、ずっと傍に居たい。身分がどうでも、サイアスさんが私を面倒な異世界人としか思ってなくても傍に居たい。


 私、サイアスさんが好きだ。


「さぁて、大事な恋人を盗られた男はどんな顔をしているかな」


 レオンの楽し気な声が聞こえて私の意識は遠のいた。




読んで頂きありがとうございました。

先週中頃にインフルエンザに罹患し大変な目にあいました。

乾燥も手伝い、猛威を振るっているようです。皆さまもご注意下さい。

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