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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第4章
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第6話

遅くなってすみません。

読んで頂きありがとうございます。

「ハナ、出発の時間だ」

「うぎゃ」

 耳元に響く低音の美声に飛び起きる。あーっ、眠気が一斉に覚めた。


「サイアスさん! 耳元で囁くのやめてください」

「何度起こしても起きないから仕方ないだろう。ハナは寝起きが悪いな」

 サイアスさんはクスクスといたずらっ子のように笑っている。

 くーっ、疲れてるからなかなか起きられないんです!


 私が着替える間、サイアスさんは外で待っててくれる。

 窓から外を見ると、空にはまだ星が瞬いている。星はとても綺麗に煌めき、それが外気温の低さを物語っているようで思わず身震いする。

 今から、漁船に乗ってハルハタを釣りに行くって意気込んでいるけど、海の上はもっと寒いんだろうな。ベットに逆戻りしたくなる。

 いやいやハルハタのためだ頑張ろう。私はできるだけ寒さに負けないように防寒具を着込んだ。



「あんたかい。ハルハタを生で食べたいって嬢ちゃんは」

 漁港につくと出港準備をしている漁師さんに大声で話しかけられる。宿の女将さんのご主人だ。

「はい」

「俺はグール、この船の船長だ」

 私は差し出されたグールさんの手をとって握手した。

「東の果ての国にもハルハタがあるのか? みんな生で食ってんのか?」

 グールさんは、興味深げに聞いて来る。漁師としては気になるところなのかな。

「はい、そうです。私の国ではマグロといってとっても美味しいんですよ」

 私が微笑んで返すと、

「それにしても釣るところから見たいなんて、物好きだな」

 グールさんはニカッと笑った後に「出港だ」って大声を出した。


 そうだね。物好きだね。でも、海が見たかったんだ。


 船の動力は人間で、数人の漕ぎ手が船の後方に控えている。漁船はそう大きくはないけど、私とサイアスさんの居場所は確保されていた。案内された場所に座ると船が動き始める。

 救命具とか付けてないけど、そもそもそんな物ないんだろうけど大丈夫かな。一応泳げるけど、潮の流れとか早いのかな。

「ハナは泳げるのか? ツイルに珍しい泳法を教えたそうだが」

「一応は・・・でも海で泳いだことはないです。サイアスさんは?」

 そうだよ。サイアスさんは泳げるの? 海に落ちたら大変なんじゃないの。

「私も海で泳いだことはないな。河や湖でなら訓練で泳いだことはあるが」

 サイアスさんの答えにホッとする。河で泳いだことがあるなら、最悪海に落ちてもなんとかなるのかな?

 よくわからないけど、サイアスさんなら大丈夫のような気がする。

「まぁ、お互い落ちないように頑張ろう」

 サイアスさんは、私の考えを読んだように苦笑した。


 そんな私たちの会話が聞こえたかのように、船は漁港を出ると揺れ始めた。

「少し揺れるなぁ。嬢ちゃんは、兄ちゃんに掴まってな。なぁに、朝風が静まるまでだ」

 グールさんの大声が聞こえる。

 サイアスさんはクスッと笑って、私の腕をとって自分の腕に組ませた。恥ずかしいけど、船の揺れは結構なもので、サイアスさんの身体とくっついていないと甲板に転がりそうだから、仕方がない。


 ユラユラ揺られながら、沖を見ると仲間の船なのか、灯が見えた。

「へぇもう、あんなに船が出てるんですね」

 私は沖合を指してグールさんに聞いた。

「あぁ、あれはライデント国の軍船だ」

 グールさんから返された言葉に驚く。ライデントって、国交のない南の大国だよね。それがこんな近くにまで来ているなんて大丈夫なの? 領海侵犯とかじゃないの?

「こんなところまで来るんですか?」

「あぁ、最近よく見るな。別に今以上に近寄って来ることはないから、クリス中将には報告して様子を見ているんだがな。今後はどうなるかわからないな。漁に影響がなければいいが」

 グールさんはため息をついた。

「噂じゃ、カテガル領の港にあいつらの小舟が出入りしてるらしいぜ」

 漁師の誰かが吐き捨てるように言った。

 サイアスさんの顔を見ると、眉間に皺が寄っている。カテガルとライデントの不正について考えているのかな。


「来たぞ! ハルハタの魚群だ! みんな、配置につけ!」

 グールさんの声に漁師たちが動き出す。その動作はとても早くバタバタしていて、私は立ち尽くして見守るしかなかった。

「ほら、嬢ちゃんも釣ってみな」

 漁師の一人に釣り竿を渡された。サイアスさんを見ると、少し困った顔をしている。釣りが初めてなのかな。私も初めてだけど、釣り糸の先に疑似餌がついているから、餌になる虫とか触らないで済みそう。これらななんとかできるかな。

 漁師さんの見よう見まねで釣り糸を海に垂らすと、すぐに釣り竿が引かれる感覚があって身体が傾く。おっと、足を踏ん張り、体幹を立て直して、ぐいっと釣り竿を引くとその先にはテレビで観たことのある、カツオくらいの大きさの銀色に光る魚がぶら下がっていた。

 これがハルハタなんだ! テンション上がる! よーし、いっぱい釣って帰るぞ! 私はぶら下がっているハルハタを針から外すと、間髪おかずに釣り糸を海に投げ込んだ。



「兄ちゃん、かなり釣ったな」

 グールさんの声にサイアスさんの方をみると、その足元には私より多い数のハルハタが積み上がっている。負けた・・・・。さすがですサイアスさん。

「嬢ちゃんもすごいがな」

 漁師さんたちが笑っている。だって、いっぱい食べたいもん。

「すごいな、ハナ。これだけあれば、当分ハルハタを食べに来なくても大丈夫だな」

 サイアスさんも笑っている。

「ははっ、そうですね。これなら加工して持ち帰ることもできるかもしれません」

「すげぇな、嬢ちゃん。加工法も知ってんのか。漁師のかみさんにならねぇか」

 グールさんが、私の背中をバンバン叩いて言う。痛いし、かみさんになんてならないよ。

 苦笑いしていると、サイアスさんは私を傍に引き寄せて、グールさんに「ダメです」ってすごい不機嫌な声で答えた。

「じっ、冗談だよ。そんなに怒んなって。さぁ、港に帰るぞ」

 グールさんは慌てて船首に戻って行った。

「まったく、油断も隙もないな。婚約者だと言っているのに」

 グールさんは冗談だって言ってたのに、サイアスさんはブツブツ言っている。

 でも、なんだか嬉しいな。お芝居とはいえ、あんな風に引き寄せて庇ってくれるのって。

「ハナ。どうしたニコニコして」

 サイアスさんが聞いて来るけど「内緒です」って答えておいた。



「さぁ、ハルハタの切り身だよ」

 女将さんが捌いてくれたハルハタの切り身を持ってきてくれた。

 食堂の中は、漁帰りの漁師たちでいっぱいだ。彼らは、私がハルハタを食べるところを見たいって食堂まで付いてきたのだった。


 ハルハタには塩が添えられている。やっぱり醤油はないか。残念だけど仕方がない。

 私は、宿の庭の木の枝で作った箸を使ってハルハタをつまんだ。サイアスさんも漁師さんも驚いて見ている。箸なんて見たことなかったんだろうね。

 あぁ、美味しそうなトロ! 塩をつけて口に運ぶ。

「うーん、美味しい!」

「そうだろう! 旨いだろう! 俺たちの海の魚は!」

 私の言葉に、漁師たちがワッと湧き上がって笑顔を浮かべた。中にはお酒を飲み始める人たちもいる。

 漁師たちは食堂それぞれのテーブルに戻って、ワイワイと盃をかわしはじめた。


「サイアスさんも食べてみますか」

 私の問いかけに、サイアスさんはちょっと困った顔をしたけど、ハルハタをフォークに刺した。

 眼を閉じてハルハタを口の中に入れる。

 あっ、眼を開けて驚いた顔をした。うん? 笑ったぞ。美味しいのかな?

「驚いた。生魚がこんなに美味しいとは知らなかった」

「そうでしょう! 嬉しいです。サイアスさんがそう言ってくれて」

 私は、目の前の刺身を次々と平らげていった。

 うーん、ご飯もほしいなぁ。



 ☆



「兄ちゃん、すまねぇ」

 グールが、店の奥でケラケラ笑っているハナを指さす。

 どうやら、私がちょっと眼を離した隙に酒を水と間違って飲んでしまったらしい。漁師たちと魚の話をしているからと油断してしまった。

 漁師たちが呑んでいる酒の度数はとても強い。酒に弱いハナが簡単に酔ってしまうのは仕方のないことだ。私は軽く溜め息をついて立ち上がった。


「ハナ、朝が早かったから眠いだろう。一旦、休もう」

「そうれふね。たしかに眠いれす」

 ハナが立ち上がろうとすると、その足元がふらついた。すかさず抱きあげると漁師たちから冷やかしの声が飛んだ。

「悪かったな。兄ちゃん」

 グールの声に手を挙げて応え、部屋に戻る。


 ハナの靴紐を解き靴を脱がせて、ベットに横たわらせる。

「ハルハタ、美味しかったれすねぇ・・・・。サイアスさん、ありがとう」

 ハナはニコニコと小声になり、暫くすると軽く寝息が聞かれ始めた。

「そうだな。美味しかったな」

 眠るハナの頭を撫でると、ふんわりと可愛い笑顔を浮かべた。


「水を用意しておくか」

 ハナが目覚めた時、すぐに水が飲めるように階下から水を貰って来ようと部屋を出る。


 階下では漁師たちがまだ騒いでいた。

「嬢ちゃんは眠ったのかい?」

「はい。かなり疲れたようです」

 グールの問いに答えると、彼は苦笑した。

「釣りを見たいなんて言った娘は初めてだよ」

「自分の国のことを思い出していたんでしょう。船に乗せてくれて助かりました」

「いや、たいしたことじゃない。それにしても遠くの国から来て、一人ってのも寂しいだろうな。兄ちゃんが大事にしてやらなきゃな」

 グールが、私の肩を軽く叩く。

「そうですね」

 言われるまでもない。ハナのことは大切にするつもりだ。

 私は女将から水を受け取ると部屋に戻った。



 部屋に着くと、ハナがいなかった。


「ハナ・・・・」

 窓が開いている。

 なぜだ、窓は閉まっていたはずだ。窓辺に駆け寄り、外を見る。

 街の屋根が並んで見えるだけで、そこに人影はない。


 ハナが何者かに攫われた・・・。

 目の前が暗くなる。心音が早くなる。息が苦しくなる。

 どこだ、どこに行った。


 私は軍の駐屯所を目指して走り出した。





申し訳ありませんが、今年の投稿は本日で終了させて頂きたいと思います。

年末年始と色々と用事があり、1/13から投稿再開させて頂きたいと思います。

本年は大変お世話になりました。

皆さまが良い年を迎えることができますようにお祈り致しております。

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