閑話「ラインシート家の安寧のために」
読んで頂きありがとうございます。
視点がツイルからハナへと変化します。読みにくかったらごめんなさい。
朝食が済み、穏やかなお茶の時間が流れている中、ハナが爆弾を落とした。
「サイアスさん、今日のお昼は街でニールと食べますね」
ハナの言葉に、サイアス様のお茶を飲む手が止まった。
嵐の予感がする。まったく、あのバカ娘にはことごとく生活をかき乱される。
「ニールと二人で?」
サイアス様の声音は若干低くなっている。
「はい。以前から約束してたんです。新しいお店を探してくれたみたいで楽しみなんです」
バカ娘は、サイアス様の変化にも気付かずあほ面に笑顔を浮かべている。
ニホンという国が、どれだけ男女の付き合いに開放的でもここはイーリアス王国だ。マリーネから、男女の注意点については十分に説明されているだろうに。
ついつい、ため息がもれた。隣に立っているマリーネも不安げな表情を浮かべて二人を見守っている。
あっ、室温が下がったような気がする。サイアス様の機嫌が悪くなったか。
「そうか、行ってくるといい」
サイアス様は笑顔で応えているが、目が笑ってなんかいない。
ハナもそれに気付いたのか、戸惑う様子がみられたが、暫く考え込んだ後、能天気にも吹っ切れたようで「ありがとうございます」と笑顔でお茶のカップを手にした。
「ツイル。どうしましょう」
マリーネは、二人がそれぞれの部屋に戻った後に困り顔で話しかけてきた。
「決まっているではないですか。妨害ですよ」
私はニヤリと微笑む。
「妨害?」
「えぇ、おそらくアロー様はハナに交際を申しこむつもりです」
「まぁ!」
マリーネは両手で口元を押さえた。
「ハナがそれを受けるわけはないのですが。面倒です。私たちのためにも阻止しましょう」
「えぇ、そうね。あんな不機嫌で、落ち込んだようなサイアス様のお顔はみたくないものね」
「そこで、作戦会議です。他の使用人たちにも声をかけてください。人選は・・・・」
「わかったわ。彼らを連れてくる」
マリーネは小走りで部屋から出て行った。
☆
「あれ、早くない?」
私が馬房に馬を預けて店に着くと、ニールが既に店の入り口で待っていた。
「あぁ、ちょっと緊張して早く着いちゃったよ」
ニールが苦笑いを浮かべる。
「へぇーっ、ニールが緊張するなんて珍しいね」
「まぁな」
寒いのに外で待たせたからか、ニールの顔が赤くなっている。
新しいお店は、東国の料理を出す店だった。
次期王妃が東国タリジェのフロンシーヌ様に決定したから、王都は今ちょっとした東国ブームになっている。
東国料理ってどんなのだろ、あぁ、楽しみ。
「へぇ、東国ってこんな感じなんだね」
お店に入ると、王都の多くの店とは違った佇まいや珍しいインテリアにキョロキョロする。
なんだろうこの感じ。私の世界でいうと、そうだ東欧、ブルガリアとかクロアチアっぽいっ感じがする。
「ニールはタリジェに行ったことがあるの」
メニューを開きながら聞く。
「いや、ないよ。でも、東方の砦まで行ったことはあるな。東方はね・・・・」
「あーっ、ハナ! どうしてここにいるの?」
ニールの言葉を遮ったのはテリィだった。
テリィはカッセル爺さんと、店員さんに席を案内されるところだった。
「テリィこそどうしたの?」
「僕が、お店の中でご飯を食べたことが無いって言ったら、カッセルさんがここに連れてきてくれたんだ」
テリィはニコニコしている。カッセル爺さんも、いつもの作業着じゃなくて仕立てのいいジャケットと品のいいパンツを着て、テリィの手を取り笑顔だ。
「じゃハナまたね。カッセルさん、僕、東国料理なんて食べたことないから、楽しみで仕方ないよ」
テリィはカッセル爺さんの手をぐいぐい引っ張っている。爺さんの目尻はこれ以上なく下がっていた。
「誰?」
ニールが聞いて来る。
「庭師のカッセルさんと、この間北方のエナ町に行った時に保護したローランド国の男の子。テリィって言うの。ラインシート家が雇ってくれたんだ」
「へーっ、綺麗な子だね。さすがローランド国の・・・・」
「あら、ハナさん。ここに来ていたのね」
声の方を向くと、マリーネさんとラインシート家の3人の女性使用人がいた。
「えっ、どうして?」
朝は何も言っていなかったのに、仕事は大丈夫なんだろうか。
「あら、言ってなかったかしら。今日は午後からお休みを頂いたので、久しぶりに街で買い物しようってことになったんですよ」
「買い物のついでに食事をしようってことになってここに来たの」
「やっぱり、流行の東国はおさえとかないとね」
マリーネさんと使用人たちは、にっこり微笑むとニールの方を向いてお辞儀をして席に向かった。
「誰?」
ニールの声は少し疲れている。
「ラインシート家の侍女頭のマリーネさんと使用人のお姉さんたち。朝は、お休みの事なんて一言もいってたかったんだけどな」
私が首を傾げると「なんてことだ」ってニールが溜め息をついた。
「おや、ハナ。出かけると言っていましたが、ここだったんですか」
声に振り向くと、なにやら冷たい空気を纏わせているツイルさんが立っていた。
「あれっ、ツイルさんまで。みんなどうしたの」
「みんな? なんのことです。あぁ、本当だ。店中ラインシートの者だらけですね。知りませんでした。みんな東国料理に興味があったんですね。私は今度、東方からいらっしゃるお客様を接待するのに、いい店はないか調査中です。なかなかいいですね。ここ」
ツイルさんは店をぐるりと見渡した。
「おや、アロー様。ハナをお誘い下さいましてありがとうございます」
ツイルさんはニールに気付くと会釈をした。
「アロー様。サイアス様がハナのことを心配なさっていたので、早めにハナを返して下さいね。くれぐれも早めにですよ。でないと、わたくし共の気も休まりませんので」
ツイルさんは、なんだか切羽詰まったようにニールに話している。なんで、私が早く帰らないと、ツイルさんたちの気が休まらないんだろう。まぁ、そんなに遅くなるつもりはないけどね。
「はっ、はい・・・・」
ニールは返事した後、疲れたようでテーブルに突っ伏してしまった。
「ハナ、みんなから愛されているね。完全にアウェーだ」
ニールはぐったりと呟いた。




