第7話
いつも読んで頂きありがとうございます。
遅くてもなんとか更新でました。今後ともよろしくお願いします。
私たちは、ラング伯爵が護送されている後を、半日遅れで王都に向かっていた。
彼は馬車で護送されているので、馬で移動している身軽な私たちとは違い、どうしても移動に時間がかかる。私たちは、明日にでも彼らに追い付きそうな感じだった。
団長はそれを狙っていて、ラング伯爵は子どもの売買の重要証人だから、死なせるわけにはいかないって言っていた。
王都まであと5日。
ここに来るまで、ラング伯爵は刺客から2回狙われたけれど、国境警備隊の精鋭の兵士が護送しているから殺されることなく旅を続けている。
彼は、今何を考えているんだろう。王都についたら首謀者を吐くんだろうか。
北の国から子どもを二束三文で買って、イーリアス王国で高値で売る。その利益は誰が得ているんだろう。
団長は目星をつけているんだろうけど、教えてはくれない。
あー、早くみんなに会いたいなぁ。
メイは元気になったかな。彼女も誰かに利用されていた・・・・。その人が誰なのかを、その人の悪事を洗いざらい話したのかな? それとも黙秘しているのかな。証言することは怖いことなんだろうな。
この世界には科学捜査なんてない。あるのは状況と証言だけ。証言者がいなくなれば犯罪は闇の中、永遠に明かされることは無い。悪党は悪党のまま生き続け、被害者を増やすだけだ。メイには、勇気を出してほしい。
テリィはツイルさんの馬に同乗させてもらっている。こんな長旅初めてだろうに、文句も言わずにおとなしく馬に乗っているし、野宿の時は積極的にお手伝いしている。偉いよ。私が子どもの時とは大違いだ。
まぁ、育ってきた環境が大きいよね。そうしないと、生きてこられなかったんだろうし。
でも、よかった。テリィがラインシート家で働けるようになって。サイアスさんや使用人のみんなはとても優しいから、テリィを可愛がってくれると思う。
王都まであと3日。
今日は山越え。私たちは、ラング伯爵たちに追い付いて、馬車の前方を進んでいた。
それにしても、しつこいなぁ刺客。
彼らは、精鋭の兵士と団長、ツイルさんに阻まれてラング伯爵を始末できないようで、ずっと付かず離れずで追ってきている。王都が近くなってから、その数が少し増したように感じる。私たちに隙ができるのを待っているんだろうな。
「ハナ。ここから急峻な道が続きます」
「はい」
ツイルさんの緊張した表情につられて、若干緊張して返す。だって、ここから先の山道は、片側は迫る崖、片側は谷底の急流が見える道だから。道幅だって、馬車がやっと通れるような細いものだし、刺客が急襲してくるにはとっても都合の良い場所に思えた。
「テリィを頼みます」
ツイルさんが、私の馬にテリィを乗せると彼は緊張した面持ちで、唇をかみしめている。私は、テリィを後ろからギュッと抱きしめた。
「俺に何かあっても、待たずに王都を目指せ」
団長はそう言うと、兵士たちの元に行ってしまった。
「どういう意味?」
「ダフル様はどうあってもラング伯爵を守らなくてはなりません。この状況では、刺客と死闘になるでしょう。私たちもうかうかしていられません」
「団長が危機に陥っても、助けないってこと?」
「そうなります。まずは、自分のことを一番に考えて下さい」
ツイルさんの言葉に震える。怖い。刺客が狙っているのはラング伯爵だけど、私たちも巻き込まれる可能性が、ううん、目撃者として一掃される可能性があるんだ。
恐る恐る山道を進む。この険しい道の長さはどのくらいあるんだろう。はるか先は曲り道になって、森に入るようになっているけど、そこまでの距離が気持ち的には何百キロもあるような気がする。
「来たぞ!」
団長の声が崖に反響して大きく広がる。
後ろを振り返ると、真っ黒い馬が5頭、馬車めがけて走って来るところだった。兵士2人はそれを食い止めるべく、剣を構えて道の中央に立ちはだかっている。団長ともう1人の兵士は馬車を守るように立ち、剣を構えている。
「ハナ! 逃げますよ」
「うん!」
私はツイルさんの言葉にエリンの脇腹を蹴った。エリンは全速力で走り出す。私とテリィは振り落とされないようにしっかりとしがみついた。
「テリィ頑張って! しっかりつかまっててね」
「うん!」
後方では剣戟の音が聞こえる。
山道に立っていた兵士2人は、5人の刺客に対応できずに、馬車には3人の刺客が迫っている。
団長は、団長は、大丈夫かな。
「ツイルさん! 団長が!」
馬車の周囲で展開されている状況に目が釘付けになり、ついエリンの馬足を止めてしまった。
団長は強いけど、刺客の方が数が多い。1人の刺客が馬車を開けると、中からラング伯爵が飛び出して来て刺客に何かを喚いている。
あっ、伯爵が斬られる。そう思った時、団長がラング伯爵と刺客の間に割って入り刺客の剣をはじき返した。
ああっ、団長とラング伯爵が刺客たちに囲まれた。団長たちは谷底を背に、刺客たちに追い詰められている。
あぁ! ラング伯爵が足を滑らせて、団長につかまった。
団長が伯爵に引きずられるようにして谷底に落ちていく! この高さから! 死んじゃうよ!
2人は谷底に向かって山肌を転がっていく、時々突き出た岩に身体をぶつけてバウンドしている。
あっ、川に! 大きな水しぶきがあがって、団長と伯爵は濁流にのみこまれていった。刺客たちはそれを追うべく下流に向かって走り出した。
「上がらない。ツイルさん、団長たち顔を出さないよ!」
「ハナ! 今のうちに逃げますよ。刺客の意識はダフル様に向いています」
「ひどいよ、助けないと死んじゃうよ」
「ダフル様は『待つな』とおっしゃいました。彼との約束を守りましょう。私たちにも守るものがあります。私はあなたを、あなたはテリィを守らなくては。残念ですが、この高さから落ちたら、ダフル様は・・・・」
「でも、でも」
「ハナ」
ツイルさんの言っていることはわかる。わかるけど、身体が動かない。
動かない私にツイルさんはため息をついて、エリンのお尻を蹴った。私とテリィは、驚いて走り出したエリンにしがみついているしかなかった。
団長が、団長が死んじゃうなんて。無神経でがさつだけど、悪い人じゃない。近衛では好かれていたし、信頼もされていた。
私たちは、山の中を走りに走り続け、ふもとの町にたどり着き、やっと馬足を止めた。
刺客たちは、団長と伯爵を見つけることを最優先にしたのだろう、私たちを追ってくることはなかった。
私たちの身体は泥と埃、汗にまみれてべたべたしていたので、すぐに宿をとり湯で身体を清めることにした。テリィと私は同室だけど、着替える間は、ツイルさんの部屋に行ってくれた。
私の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。知ってる人が、目の前であんな風に死ぬのを見たのは初めてで、衝撃的で悲しくて心の中もぐちゃぐちゃで、気持ちの整理がつけられない。
更衣すると身体が重くなって、ベットに横になってしまった。
「ハナ、大丈夫ですか」
ノックの後に続いて、ツイルさんの声が聞えた。でもその声は、ひどく遠くに聞こえる。ダメだ、瞼が重くて目が開けられない。
「寝ちゃったよ」
代わりにテリィが答えてくれる。
「そうか」
「団長さんの事、すごくショックだったみたい」
「だろうな。ハナの世界には、この世界のような争いごとはほとんどないらしいからな」
「ふーん、羨ましいね」
テリィの声も遠くに聞こえる。意識が遠くなる、何も考えたくない。眠くなってきた。
眼が覚めたら、日本の私の部屋だったらいいのに。




