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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第3章
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第1話

読んで頂きありがとうございます。

1週空けてしまい、お待ち頂いた方々には申し訳けありませんでした。

お話は第3章に入ります。今後ともよろしくお願いいたします。

 王都を経って6日目。

 いい加減、嫌になってきた。

 山を越えたら草原、そしてまた山越えの繰り返しに、最初は物珍しさもあって楽しかった旅も今では苦痛の一言。寒い中、ずっと馬に乗って一日が終わる。おしりは痛くなるし手足は凍えるし、あぁ電車とかあればいいのに。


 そして最も苦痛なのが野宿! キャンプもろくにしたことないのにこれは最悪。5日間のうち3日は野宿だった。

 そして今日もどうやら川の傍で野宿するようです。ついついため息が漏れる。だって、寒いし、地面は硬くて寝ずらいんだもの。


「そう、嫌そうな顔するなって。仕方ねぇだろ、もう日暮れなんだからよ。夜に移動することは危険極まりないんだぞ」

 野宿する時、団長は喜々としてテントを張ったり、食事を作ったりする。野にいるのが好きなんだろうな。よく近衛の団長なんてやっているよ。


 それにしても寒い。前回の野宿の時に防寒策として石を焼いて布でくるんで、湯たんぽを作ってくれたけど、寒くて、寒くてなかなか寝付くことが出来なかった。それでも、眠らなきゃ体力の回復は望めないし、旅の疲れも手伝っていつの間か寝てしまったけどね。


 宿に泊まる時には、1人部屋をとってくれたから、とてもリラックスした時間を過ごすことができた。

 この国の宿は、狭くてちょっと古いビジネスホテルみたいな感じだけど、意外に清潔感のあるところが多い。団長が気を遣って、そういうところを選んでくれているのかな。

 でも、団長と一緒のツイルさんはいろいろと大変だろうな。勝手な想像だけど、団長ってすごいイビキをかきそうだし。   


 そうそう、宿に泊まった時、団長とツイルさんの部屋で翌日の予定について話し込んでいるうちに、うとうとと寝込んでしまって、ツイルさんが私を抱き上げて運んでくれたんだけど


「んっ、うわっ。ツイルさん」

 ゆらゆらと運ばれている気配に眼を開くと、ツイルさんが私を抱き上げていて、私の部屋のドアを開けたところだった。

「ああ、起きたんですね。では、自分で歩いて下さい」

 ツイルさんはそう言うと、ドサッって感じで私を乱雑に降ろした。


「・・・・」

「どうしたんです」

 黙り込んだ私に、ツイルさんは不審気に顔を顰めた。

「んーっ、なんかお屋敷で運ばれる感じとは違うなと思って」

 お屋敷の暖炉の前でも寝落ちしてよく運ばれてたけど、その時の感じとは違うんだよね。

「当たり前です」

 ツイルさんは呆れたように言った。そうなんだ。ツイルさんじゃなかったら、ガルト君が運んでくれてたのかな。

「ガルト君だった?」

「阿呆ですか。サイアス様に決まっているじゃないですか」

「へっ、サイアス様」

「ハナに関することは、すべてサイアス様が担っているんですよ」

「えーっ」

 驚いた。だって仕事で忙しいだろうに、私の事まで世話してくれてるなんて、大変じゃない。

「迷惑かけちゃったなぁ」

「今更ですよ。楽しんでやってるからいいんじゃないですか」

「楽しんで?」

「えぇ。あとは自分で考えて下さい」

 ツイルさんはそう言うとサッサと自分の部屋に戻って行った。


 私を運ぶのが楽しい? どういうこと? 寝顔が変だとか? 寝言で変なこと口走ってるとか・・・・どうしよう。

 でも、まぁいいか。サイアスさんの重荷になってなければいいや。私で楽しい時間(?)が過ごせるなら、何度でも寝落ちしましょう。いやいや、調子に乗っちゃダメだ。ちゃんと自分の足でベットに行かなくちゃ。甘やかされ続けたら、日本に帰った時困るもんね。



 旅をして思ったのは意外に安全だってこと。出発前は、いろいろ恐ろしいって聞いていたけど、今のところそんな思いはしたことがない。団長とツイルさんが守ってくれているからかもしれないけど、野生動物が襲ってくることはないし、夜盗にも会うことがない。通過する町や村の人たちに笑顔は多いし、町中の路上生活者みたいな人も少なかった。治安は王都レベルで、裏町とか悪いところは変わらないって感じ。


 イーリアス王国は自然に溢れていた。豊富な森、なだらかな山地、大きな河、広い湖など六日の間に様々な風景に出会うことができた。あまり旅行したことがないから、よくはわからないけど日本でいう北海道みたいだなと思った。そうそう、食べ物も美味しいし。でも、米には出会わないんだよね。あーあ、恋しいなぁ。米、しょうゆ、うどん、蕎麦、刺身・・・・つい、ため息が漏れる。


「なんだ、ハナ。ホームシックか」

 団長が串に刺した焼き魚を突き付けながらきいてくる。

「まぁ、そんなもんです。日本に帰れる手がかりが得られるといいんですけどね」

「そうだなぁ。ダニエルは世界中を巡っているから、なにか知ってるといいな」

 団長は焼き魚と乾パンを食べながら話す。容貌がワイルドなハリウッド俳優だから、焚き火と焼き魚がすごく似合う。なんだか、冒険活劇映画の世界にでも入り込んだようだ。

「エナ町まであと4日ですね」

 ツイルさんが眼をキラキラさせている。剣聖ダニエルに早く会いたいんだろうな。今からこんな風で、会えたらどうなっちゃうんだろう。


 国境の町まであと4日か。野宿はあと2回ってとこかな。


「おっ、ちらついて来やがった」

 団長の言葉に空を見上げると、雪がチラチラと舞い降りてきたところだった。

 この国で初めて雪に触れた。王都は冬でも雪が降ることはないらしい。

「驚かないのか」

 団長の言葉に頷く。

「私の住んでいた町にも年に何度かは降ってたし、ニホンでも雪が降る地方は結構あります。エナ町には雪が積もっているんですか」

「いや、そうでもねぇな。エナ町の背後には国境の山脈があるんだが、それを越してローランド国に入ると結構雪深いな。まぁ、そのせいでローランド国は貧しいんだけどな」

 団長はため息をついた。

「そうですね。北の国は通年気温が低くくて、晩秋から春先まで雪に覆われて収穫は低いし、目立った産業や自然産物もないですからね」

 ツイルさんが続ける。

 確かローランド国って、メイがすごく綺麗だって言っていた北の側妃の出身国だよね。


「ローランド国って北の側妃ナタリア様のお国ですよね」

「良く知ってるな」

「メイに聞きました。すごく綺麗で、次期王妃に相応しいって」

「次期王妃ねぇ」

 団長は私の言葉に顔を歪め、すごく嫌そうに言葉を発した。なんだろう、団長はナタリア妃にいい感情は抱いていないみたい。ツイルさんの顔もなんだか怖い。二人ともナタリア妃が王妃に相応しいとは考えていないんだな。


 場に深い沈黙が訪れ、焚き火の爆ぜる音だけが周囲に響く。


「さて、寝るか。ハナ、温かくして寝ろよ」

 団長は話題を変えて立ち上がった。

「はい。早くエナ町に着いて、温泉に入って温まってから寝たいもんです」

「ハナの国では湯の泉をオンセンと言うんですか」

 ツイルさんは薪を追加して火の番に備える。

「はい。ニホンは温泉大国なんですよ。みんな裸でお湯に浸かって・・・・」

「!」

「!」

 私の言葉に団長とツイルさんは動きを止め、これ以上なく目を見開いて私を見た。

 な、なに。今の言葉のどこにそんなに驚愕する部分があったの?

「お前、まさか・・・」

「裸で入るなんてことしませんよね・・・」

 団長とツイルさんは睨むように聞いてくる。

「へっ? 温泉だもん裸で・・・・」

「止めてくれ! 」

「サイアス様に叱られます!」

 団長とツイルさんが同時に叫んだ。


 その後、二人からこの国の温泉について懇々と説明され、温泉とは言っても屋外の温泉プールのようなものらしいってことがわかった。私だって、温泉プールには裸で入らないよ!


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