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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第2章
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閑話「ナナ・グラシア」

読んで頂きありがとうございます。

今回は花さんと入れ違いになってしまったナナの視点でのお話です。

本日は、この話を含め閑話を3話投稿したいとおもいます。

 ハナ、ごめんなさい。

 私は、あなたのいた世界で、自由に過ごしているわ。


 イーリアス王国は、いえ、王城は私にとって辛い場所でしかなかった。

 身分差からの執拗ないじめ、毒見役、憐れまれることはあっても、助けはなかった。



 あの時、毒見の席についた時、強く、強く、どこかに消えてしまいたいと望んだ。

 その途端、身体が淡い光に包まれたことまでは覚えている。


 暫くして目覚めると、私は狭い部屋の一角に倒れていた。

 私を見つめる親子と目が合う。

「花は? 花はどこに行ったの! あなたがいた場所に花がいたのよ!」

 必死の形相で私の肩を掴み揺する母親、それを止めようとする娘、私は茫然とされるがままでいた。


 ここはどこ。

 見たこともない造りの部屋、低い天井、華やかなものが何一つない室内。

 周囲を見渡し、板のようなものに映る動く絵、流れる音、天井からの温かい風に驚かされる。魔法の国にでも紛れ込んでしまったのかと思った。


 ふと、テーブルを見るとスープのようなものが目に入いる。途端にお腹の音が鳴ってしまった。

 娘が苦笑いして「お腹減ったんだね」と言った。

 この時、初めて言葉がわかることに気付いた。母親の興奮した言葉も聞き取ることができていたのに、気が動転していたらしい。

 娘は小さなボウルに温めなおしたスープをよそい、私に着席するよう促した。

「とりあえず、食べて。口に合うかわからないけど」


 私はノロノロと身体を起こし、席に着くと湯気がたっているスープを見た。

「美味しそう」そう思ったら止まらなかった。はしたないけど、がつがつと音を立てて具を口にした。頬に伝うものがあり、自分が涙を流していることを知る。

 こんなに不安なく、食物を口にしたのは何時以来だろう。美味しい。

 私があまりにもガツガツと食べるため、娘は様々な皿を出してくれた。肉を炒めたもの、野菜をゆでたもの、白いもちもちした粒の塊などどれもが美味しかった。


「どうしよう。花はどこに行っちゃったの」

 母親は困惑した様子で溜め息をついた。

「この子と入れ替わってどこかに行っちゃった?」

 娘も困っている様子だった。


 その時、なにか違和感を感じて部屋の隅に視線を向けると、透明の壁を叩く少女と目が合った。かなり大声をあげて、壁を叩いているけれど、親子が気付く様子はない。私にしか見えていないんだ。

 この娘が花!? そうだ、きっとそう。本当に私と入れ替わってしまったんだ。

「ごめんなさい」

 私はそう呟くと少女を見ないようにして食事をし続けた。



 あれから1か月。

 私は留学生として草野家に滞在している。花の妹、美野里はスムーズに私を受け入れ両親を説得し、私がケイサツという場所に送られるのを防いでくれた。


「いいなぁ、おねぇちゃん。今頃、金髪銀髪のイケメンに囲まれているのかぁ」

 美野里は私にイーリアス王国のことをよく聞いてきた。彼女は両親が受け入れなかった異世界の話を受け入れた。さらに近衛の副団長ラインシート様や、宮廷医師のセイン様の話を聞くたびにうっとりとしている。


 この世界はとても便利で暮らしやすい。電気というものがあり、ほとんどの家事を人に代わり機械がやってくれる。電子レンジ、洗濯機、掃除機それらの物を見た時は本当に驚いた。

 食べ物も豊富でどれもが美味しい。私はこの世界に来て少し太ってしまった。


 ただ、この世界は恐ろしくもある。

 テレビから毎日のように流れる紛争や殺人事件、事故などのニュースを聞くと身体が震える。車というものも恐ろしい。先日、美野里と共に外出した際に轢かれそうになったことがあり怖くて仕方なかった。


 でも、これらの恐怖を感じていても私はイーリアス王国には帰りたくない。

 この国で私は自由だから。


 両親も美野里も花の帰宅を待っている。

 その姿をみるとお父様を思い出す。お父様も私を待ってくれているだろうか。

 私がまた強く、強く帰国を願えばイーリアス王国に帰れるの。やってみてはいないけど、確率は低い気がする。帰国をあれほど強く願うことができないと思うから。


 今しばらくはこの世界にいたい。


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