閑話「『お父さん発言』を巡る人々の反応」
《団長とセイン》
「ひゃーはっはっ」
おかしくてたまらない。ハナの言動にはいつも笑わせられるが、今回のは最高だ! 笑いすぎて腹が痛くなってきた。
「ダフル団長、笑いすぎです」
セインが苦笑いしながら、止めるよう言ってくる。
「お父さんだぞ! お父さん! あんな眉目秀麗の青年にお父さんはないよなぁ。あぁ、おかしい」
「本当に、サイアス君が気の毒でなりません」
セインも同意を示す。セインはたしか、サイアスと同い年だったか。
「サイアスはハナのこと気にしているのにな」
おそらく惹かれているんだろう。皇子に対する抵抗だって、玩具をとられそうな子供みたいに必死で、おかしくて仕方なかった。
「しかし、サイアスが傍にいるのにときめかない女子もいるんだな」
「ハナちゃんにとって、この世界は仮住まいですよ。恋なんてする余裕あるわけないじゃないですか」
「そうか」
たしかに、よく知らない世界で生きていくには、順応していかなくちゃならないことが多い。精神的な余裕はないか。
「それより、今回は止めないんですか」
セインが眼光鋭く俺を見つめる。
「なんのことだ」
とぼけて返してみるが、
「僕は気付いてますよ。あなたがサイアス君の恋愛をことごとく潰してきたこと」
セインの言葉につい口元が歪む。やっぱり気付いてやがったか。こいつは医者のくせに変に鋭いところがあるんだよな。俺に気付かれずに、調べあげるなんて。やるじゃねぇか。
「へっ、本当にお前を医者にしとくのは惜しいよ」
「で、どうなんです。返答次第では、黙ってませんよ」
「止めねぇよ。今回は止めねぇ。大体な、あいつに言い寄って来るのはろくな女がいないんだ。大事な部下を、そんな女どもにくれてやるわけにはいかねぇだろ。だがな、ハナは違う。あいつがサイアスの地位に魅かれたり、それを利用することはないだろう。まぁ、サイアスの趣味は多少疑うがな。ハナは良いやつだ。サイアスの傍にいてほしいと思う」
「よかった。私もあなたと同意見です」
セインがきれいに微笑んだ。今回も潰すといったら、どんな手を取ってきたのか。おお、コワッ。
でもなぁ、セインよ。サイアスに言い寄ってくる女には、ろくな奴はいなかったけど、中にはまぁまぁいいんじゃないかってのもいたから、様子を見ていた件もあるんだぞ。まぁ、長続きはしなかったけどな。だから、俺はあいつの恋愛をすべて潰してきたわけじゃない。
「だが、肝心のハナがなぁ。サイアスにお父さん程度の意識では、先が思いやられるな」
「そうですね。まぁ、なんとかなるんじゃないですか」
セインは、そう言って微笑むと部屋から出て行った。
そうか、お前が動いてくれるなら心配はねぇな。俺は黙って見てりゃいいわけだ。
俺は引き出しに隠しておいた酒を取り出し、グラスに注いで一気飲みした。
あぁ、久しぶりに美味い酒だ。
《ウィルとアリシア》
「お兄様、サイアスは可哀想ね」
アリシアは、苦笑いしながらお茶を淹れて私の前に置いた。
「そうだね。あの年でお父さん呼ばわりとはね」
私もつられて苦笑する。
サイアスは、ハナのことを大切にしていて、侍女の話もなかなか受け入れなかった。彼女を大事に保護しているその状態が、ハナにとっては“お父さん”に見えるのだろう。彼女が今の環境に安心して身を置いていることがわかる。保護され、大切にされてぬるま湯の中にいるけれど、それを特別とは思っていない。サイアスの気持ちに気付くのはまだまだ先なんだろうな。
「でも、素直で元気な子ね。好感がもてるわ。ほかの侍女たちも受け入れてくれるといいんだけど」
アリシアはお茶を一口含むと溜め息をついた。
本当に。そうでなくては意味がない。侍女たちの意識改革をし、かつ警備強化を勧める。ハナに期待する役割は大きいが、彼女にならできると思う。そう思う私は甘いだろうか。
《ツイルとマリーネ》
「サイアス様をお父さん呼ばわりしたらしい」
「まぁ」
マリーネが、私の言葉に絶句している。王城に付き従ったガルトからの報告で、事の次第がわかった。ハナは本当にことごとくサイアス様の生活や心中をかき乱す。私は深く溜め息をついた。サイアス様の心中を思うとつらくなる。ハッキリとは自覚していないが、惹かれているであろう娘からのお父さん発言はつらいだろう。
「でも、お父さんのように安心感があるということよね。悪いことではないわ」
マリーネは、一人頷き言葉を発する。
「いや、悪いことだろう。恋愛にも発展していないのに“お父さん的安心感”なんて必要ない。もっとこうドキドキするような駆け引きが存在しなくては。私はこれからサイアス様とハナが良好な関係を築けるよう積極的に介入しようと思います」
私の言葉にマリーネが瞳を光らせた。
「私も協力させてもらうわ」
《サイアス》
お父さん・・・・。
ハナが、私に対して抱いてる思いと役割だ。
そんな役割はいらない。
ハナにとって、母親はマリーネだろう、お爺さんはカッセルだ。お姉さんたちというのは侍女や女性の使用人だろうし、お兄さんはツイルや男性の使用人だ。
せめてお兄さんのなかに入れてもらいたかった・・・・。
読んで頂きありがとうございます。
頑張れ、サイアス!
今日は、あと1話閑話を投稿いたします。




