第11話:リリス教の子どもたち
リリス教は実は良い団体組織なのではないか?
ここ数日、ロサは教会で過ごしていてそう思うようになった。
子どもたちが楽しそうに生活しているのだ。
周辺の農作物と寄付によって生計を成り立てているらしいのだが、それらの仕事は大人がやっていて、子どもは労働者として雑に扱われるのではなく、学問を施されている。
教育なんて貴族だけが受けられるものだと思っていたロサにとっては衝撃だった。
教会で過ごす子どもたちは孤児だ。親なんてものはいない。死んだか、いたとしても捨てたとか、ろくでもないやつばかりだ。だから、孤児というのはまともに人として扱ってもらえないことがほとんどだ。
仮に誰かや教会に拾われたりしたとしても体のいい労働力か、それ以外の用途として道具のように使われてしまう。
ロサやネズミたちは子どもたちだけで身を寄せ合ってなんとか生きてきたが、中には拾われ、最後は道具としてこときれるかつての仲間たちを何度も見てきた。
だから、だ。そんな孤児たちが子どもとして扱われ、しかも平民でさえ受けるのが難しい教育を受けているのが信じられず夢まぼろしを見ているようだった。
当たり前のように教育を受けていたライラックは何も思っていないようだが、ロサにとっては違う。
「ねぇねぇ、ロサ! もう一回! もう一回やって!」
「ああ」
教会で過ごす子どもたちの何人かがロサを取り囲む。
彼らにお願いされてロサはジャグリングを始めた。ロサは盗人でもあるが、旅芸人としての顔を持つ。幼い頃は生き抜くためになんでもやった。その一つがこれである。
器用にもロサは食堂の皿を回転させて宙へと投げてはテンポ良く何皿も追加する。
実際のところ、『緋色の翼』を抜けてから旅芸人として生活を成り立たせていることもある。というより、盗みで顔がバレたらそれだけでリスクが高いのと、馬鹿正直に自身の職業を盗人と言うわけにもいかないのもある。
だからここでは修道女を目指す元旅芸人の女という設定にしている。
ちなみにライラックは何故だか品だけは良いロサの弟子という設定である。……うん、流石に無理がある気がする。だが、品の良さから他の大人たちからは訳ありの元貴族令嬢だと思われている。たしかに事実ではあるので、ロサはそのままにしている。神父にはレイヴン家の令嬢だとバレているが。
「すごいなぁ……ボクも旅芸人になってみたいなぁ」
「うーん。アタシはあんまおすすめできないな。というより、神父さんがいやがるんじゃねーのか?」
「神父様はやりたいって言ったことは応援してくれるよ」
言わされてるという様子もなく、本心からの笑顔で少年は言う。
孤児をここまでみてくれる場所はそうそうない。ましてや応援なんて。
本当にここの子どもたちは幸せそうだ。
だから、ロサはチクリと胸が痛んだ。
そんな場所を自分は潰すのだ。奪うのだ。
……そしたら、この子たちはどうなるのだろうか?
かつての自分たちの生活を思い出し、頭が痛くなった。
『リリス教をぶっ潰したあとのフォローは『緋色の翼』に任せてくださいっす』
ネズミの言葉を思い出し、ロサは自分に言い聞かせる。
迷うな。大丈夫。『緋色の翼』なら、あいつなら、この子たちを守ってくれる。
一緒にボロボロになりながら生きたかつての相棒を思い出し、ロサは冷静になる。
そうだ。これはあくまでもここ数日見ただけの印象。
まだ何か隠している。
長年、盗賊として騙し騙されを繰り返してきたロサの直感は言っている。
だから、だ。
「まずはどこかにいるリリス様ってのに会ってみないとな」
降神祭の日のみに現れると言われているリリスという現人神に会おうではないか。




