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#152 試験の課題


中級昇格試験の日。俺達は冒険者組合へと足を運ぶ。

 中級試験を受ける冒険者は、今日の決まった時間までに組合へと顔を出し、受付で実技試験の課題をそれぞれ受け取るという流れになっている。

 かなり時間に余裕を持ってやって来たつもりだったけど、既に受付には冒険者の行列が出来上がっていた。


「しょうがない。とりあえず並ぶしかないな」


 幸いにも、冒険者の列はスムーズに進んでいるようだし、これならそう時間はかかりそうにない。


 俺とルエルは、最後尾へと並ぶ。


「おや?」

「あら?」


 列へと加わってみれば、ルエルと揃ってそんな声が飛び出る。

 前に並んでいる人の後ろ姿が、どこが見覚えがあったからだ。紫色の髪が肩辺りまで伸びた小柄な女性。

 少し髪が伸びたようだが、この雰囲気は間違いない。


「ミレリナさん!?」


 興奮して思わず大きな声を出してしまった。


「ふぇえ!?」


 ビクリと肩を震わせて慌ててこちらを振り向いた。


 大人しそうな表情変わっていないが、少しだけ大人びた雰囲気を醸し出している。訓練生の時とは若干変わっているけど、この人は間違いなくミレリナさんだ。


「わぁ! シファ君……に、ルエルちゃん!?」


「ひっさしぶりだなぁ!」


 俺とルエルの顔を確認すると、相変わらずの笑顔を浮かべてくれた。

 何よりルエルと再会出来たのが嬉しかったのか、思わず手を握り締めている。


 リーネとも再会したから、もしかしたらとは思っていたけど、まさかこんな形でミレリナさんとも出会うとは……嬉しい偶然だ。


「さっきリーネちゃんとも会ったよ。他の元訓練生の顔も見かけたし、皆この街に来てるみたい」

「そう。やっぱり皆、中級試験を受けるのね」


 そりゃそうだろうな。勿論、全員ではないだろうけど、わざわざ訓練所で一年間過ごしたんだ。殆どの訓練生は今日から行われる試験を受けるに違いない。


 それにしても――


「私ね! もうちゃんと詠唱魔法を扱えるようになったんだよ! 凄い大変だったけど、めちゃくちゃ練習したんだ」


 ミレリナさんは変わったな。

 訓練生の時は、こんな感じで自分から話すことの少ない子だったのに、今では自分の言いたいことをハッキリと口にするようになった。

 今もミレリナさんの『詠唱魔法』という発言で周囲の冒険者からちょっとした注目を集めてしまったけど、気にした様子はない。


「あ……えっと、その……とにかく頑張ったから、また見てみて欲しいな……」


 おっと。気にした様子はない、と言うのは間違いか。流石に少しだけ緊張してしまったようだ。


「あぁ。ミレリナさんの魔法……いったいどれだけ凄くなったのか楽しみだよ」


 訓練生の時からミレリナさんはその才能を見せていたけど、アレは才能のほんの一部だ。

 いったいどれぐらい凄くなったのか、本当に楽しみだな。この様子じゃ、もう暴走なんてさせてしまう心配も無さそうだし。


「お?」


 なんて話し込んでいる内に列は進む。

 そしてようやく、俺達の順番が回ってきたようだ。

 進んだ先の最前列は、組合の受付へと繋がっていた。受付には三つの窓口があり、それぞれ試験を受けに来た冒険者の対応を行なっている。先頭に来た冒険者は、ココからその空いた窓口へと案内されるようだ。


 そして――


「コチラへどうぞ」


 空きになった窓口へと俺は歩き出す。

 どこか聞いた覚えのあるような声と発音が少しだけ引っ掛かりながら、受付へとやって来た。


 って


「音無さんじゃん!」


 受付に立っていたのはイナリ支部の組合員、音無さんだった。

 そう言えば紅葉さん、音無さんは出張に行ったとかナントカ言っていたな。そういうことか。


「シファ様……イナリではお世話になりました」


 そう一言、軽いお辞儀をしてから姿勢を正す。


「冒険者証と中級試験登録用紙をお願いします」


 あくまで今は、試験を受けに来た冒険者と組合員。そう言わんばかりに、音無さんは淡々と組合員としての仕事を全うする。


「初級冒険者、シファ・アライオン様。コチラの山より一枚だけ、試験用紙を抜き取り下さい。山の一番上からでも、中からでも下からでも……ご自由な場所からで構いません」


 受付の脇に、用紙の山が置かれている。どうやらこの紙の山が全部、試験用紙らしい。

 音無さんに言われた通り、山の上の方から一枚だけ抜き取ってみた。


 紙は白紙――


「お?」


 しかし俺が手に取ってすぐに、何も書かれていなかった用紙にスラスラと文字が浮かび上がる。

 おそらく魔法だ。魔法で文字が出来上がっているのだろう。


 やがて完成された文字には、こう書かれている。


 ――"初"級冒険者 シファ・アライオン

 "中"級昇格試験 実技部門 課題


 実技部門最終日に以下の鉱石を冒険者組合グランゼリア支部へと提出すること。


『準等級(ハク)石』――


「鉱石……」


 なるほど、鉱石の提出か。こういう感じの実技試験なんだな。


「ソチラの書類は大切に保管下さい。実技試験最終日に、課題提出物と一緒に提出することが実技試験合格の条件となりますので」


 そして音無さんは最後にこう付け加える。


「課題の提出を受け付けるのは最終日である7日後に限りますので、御注意ください」


 その後、何か質問はあるかと聞かれたが特にはなく。実技試験のひと通りの説明が終わる。

 いよいよ、試験開始だ。

 音無さんに軽く挨拶をしてから、背を向ける。早速、鉱石がどこにあるのか調べて取りに行こうか? なんて考えながら歩き出すが――


「あの! シファ様!」


 何故か音無さんに呼び止められる。


 まだ何か説明しなければいけないことが残っていたのかな?

 再び俺は音無さんに向き直るが、どうも様子がおかしい。


「シファ様は、つい先日の……イナリ方面での黒竜騒ぎについて誰かからお聞きになりましたか?」


「え? 黒竜……?」


 なんだ? 黒竜? そう言えば、こないだ会った王国騎士の人も黒竜討伐がナントカと言っていたような……。


「いや……特には。それがどうかしましたか?」


 おそらく、俺達がイナリを発った後の話だろう。

 と言うか、我が姉がイナリに残っていた筈なんだから、どんな怪物が出ても大丈夫だと思うが……音無さんの様子がかなり変だ。


「音無さん……?」


「シファ様……もしお時間が許すのなら、この後組合の待合室でお待ち下さいますか? シファ様には聞いておいてもらいたいことがございます」


 ――出来れば、お一人でお待ち下さい。


 最後にそれだけ言うと、音無さんは次の冒険者の案内を始めた。


 音無さん、真剣な表情だった。

 聞かない訳にもいかないので、ルエルに事情を話してから、言われた通りに一人で待つことにした。


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