#150 王都観光!?
冒険者組合での用事も済ませ、次に俺達はこれからお世話になる宿を探すことにした。
「リーネはもう宿を確保してるんだっけ?」
「えぇ! 私はもう随分前からこの王都を拠点に活動してるのよ……って、ままままさか! アンタ私と同じ宿に泊まりたいなんて言うんじゃないでしょうね!?」
フンス! と胸を張り威張って見せたかと思えば、頬を赤らめて慌て出す。相変わらず忙しい奴。
「まさか。私達は私達で宿を探すわ。あなたと同じ宿にはならないから安心して、リーネさん」
「え、いやルエル、別に同じ宿でも」
「シファは黙っていなさいな」
せっかく再会したんだし、同じ宿でもいいじゃん。勿論、部屋は別にするけども。
なんて言おうと思ったけど、俺の言葉を遮るようにしてズイッと体を割り込ませて来たルエルのおかげで、最後まで話すことが出来ない。
「あっそ。ふん! いいことシファ、次にアンタと勝負する時は絶対に私が勝つんだからね!」
「望むところだ」
ビシッと俺に指を向けてそんな捨て台詞を残しながら、リーネは背中を向けて歩き出す。大通りの向こう。王都の中心部辺りの方向だな。
俺達も宿を探すなら、リーネと同じように街の中心部辺りに向かった方が良さそうだ。
暫くお世話になる宿を見つけてから、街を見て回ってみても良いかも知れない。
俺とルエルはそう決めてから、大通りを歩き出した。
◇◇◇
王都と言うだけあって、宿の数も多い。
だと言うのに、その宿の殆どが既に空き部屋の無い状態だった。考えてみれば、昇格試験を受けるために大陸の各地から初級冒険者がこの街に集まっている訳で、宿が埋まってしまうのも納得だ。
もう少し余裕を持って到着すれば良かったなと後悔した。
「では、一週間の滞在で49万セルズとなります」
「……」
ドサリと、決して少なくない……いや大金を机の上に置いた。
「確かに。それでは、ごゆるりとお過ごし下さいませ」
受付のお姉さんが丁寧に腰を降りながら、俺達を見送ってくれる。
結局、なんとか俺達が見つけることが出来た空きのある宿。
『松』と言う名の高級旅館だった。
大通りから少しだけ離れた立地と値段からか、まだ空きがあるということなのでココに決めたが、まさかの値段に言葉を失ってしまったところだ。
まさかこんな形で姉からの仕送りを吐き出してしまう羽目になるとは……。
「ま、まぁ、ココは知る人ぞ知る有名な旅館よ。きっと値段に見合った一週間を過ごせると思うわ」
旅館の玄関で履き替えた履物が擦れる音が、木造の廊下に僅かに響く。そして上品な木の香りが時々鼻を掠めた。
「そうだな。せっかく王都に来たんだし、たまには贅沢したって良い筈だ」
「そうよ。それに中級冒険者になればもっと報酬の良い依頼を受けれるようになるのだから、これくらいの旅館にはいつでも泊まれるようになるわ。勿論、貴方にばかり支払いを任せるなんてことはしないわ」
街の喧騒も遠くなり、落ち着いた雰囲気の廊下を暫く進み部屋へと案内される。
流石の高級旅館。部屋は広く、お洒落な調度品がそれとなく置かれていて、過ごしやすそうだ。
三度の食事が付き、そして何より……大浴場なる風呂と露天風呂がこの旅館の目玉だそうだ。
「露天風呂は混浴となっておりますので、気が済むまで御堪能くださいね。うふふふふふふ♡」
ここまで案内してくれたお姉さんは、嬉しそうな笑顔をでそう言いながら丁寧に部屋の扉を閉めた。
「ほう。露天風呂……」
目玉と言ってるくらいだから、さぞかし自信があるのだろう。
果たしてどれ程の風呂なのか、興味が湧いてしまうな。
「ま、まぁ……シファがどうしてもと言うのなら、一緒に入ってあげなくもないけれど……」
「いや、時間はたっぷりあるんだ。俺は後からゆっくり入らせてもらうさ。そんなことより、街を見て回ろう!」
「…………」
ジットリとしたルエルの視線が突き刺さる。
何か気に障るようなことでも言ってしまったか?
風呂に入るのは夜の話だし、今は街を見ておくことの方が大切だろ。何も間違ったことは言っていない筈なんだが。
「シファよ。『そんなこと』などと言ってはあんまりなのじゃよ。お主はルエルの裸に興味が無いのか? ほれほれ」
ソコに、どろんと青い炎の中から姿を現した玉藻前。執拗に俺の頬を人指部でつついてくる。
「い、いや別に興味が無いって訳じゃ――」
「ほほーう。興味が無い訳では無いと申すのだな。この助兵衛め。ほれほれ」
頬に穴が開きそうな勢いだ。
「だそうじゃよ。ルエルよ、暫くは三人で混浴風呂じゃな!」
「あなたは駄目よ玉藻前」
「な、何故!?」
「お客は私達以外にもいるのだから、まだ不用意に姿を現すべきじゃないわ」
さっきまで元気に揺れていた玉藻前の尻尾がヘナヘナとヘタれていく。
身体は成長した玉藻前だが、感情が正直に尻尾が伝わってしまうのは変わっていないらしい。
「ま、まぁまぁ。そんなこと――いや今はとにかく街を見てみよう。もしかしたらリーネだけじゃなく、他のカルディアの元訓練生にも会えるかも知れないんだからさ!」
このままこの話を続けていたら良くない気がして、なんとか話を逸らすことにする。
「まぁいいわ。私も王都は久しぶりだし、色々と見ておきたい場所があるしね」
「我は不服じゃぞ!」
頬を膨らませて抗議する玉藻前をなんとか宥めつつ、俺達は街を見て回ることにした。
◇◇◇
王都は、奥の小高い丘にドッシリと構える王城を中心に栄えているようだ。街の入り口からでも見えた城が、ココからだと更に近く非常に見応えがある。
そして王城の横に並ぶ大聖堂と、城下町の一等地で大きな存在感を放つ大図書館がまず目に付いてしまう。
武具を取り扱う店や道具屋も、カルディアやイナリとは比べ物にならない程の数が存在しているようだ。
大聖堂と大図書館は初めて見るだけに、絶対に押さえておきたい場所だな。
武器屋も、姉のようにもっと多くの武器を扱うためにも是非見ておきたいところだ。玉藻前から妖刀を譲り受けてはいるけど、自分で選んだ武器を持っていたいというのも本音だしな。
「うぉお、時間がいくらあっても足りない!」
初めての大都会。
「つい興奮が押さえられなくなりそうだ!」
「いや興奮しすぎよ。心の声が出てるわよ」
「流石、来たことがある人は冷静ですね」
俺は心の声が出てしまうくらい興奮していると言うのに、ルエルは相変わらずの涼しい表情だ。
どうやら、この興奮を分かち合うのは難しいらしい。
「そう言わないで。少しは街を案内してあげられるかも知れないわよ? さ、行きましょうか」
そう言いながら、ルエルが俺の手を取る。
いつもの涼しそうな笑顔に一瞬、俺の心臓がドクンと跳ねるような気がした。
そして手を引かれるように、俺達は大通りへと出ていく。
まずは武器屋にでも行ってみようか。なんて軽い言葉を交わしながら歩いていくと、大通りに人が集まっていることに気付く。行き交う人々が足を止めて、何かに注目している。
「?」
何かの催しだろうか? もしそうなら、見逃すという選択肢なんてある訳ない。
ルエルと一緒に近寄ってみると――
「総団長クレア様ー!!」
「王国の守護神! 今日も麗しい!」
「ロザリー御姉様!! その白い足で踏んで下さいぃ!!」
「シオリちゃーん!! こっち向いてぇ!!」
などと、男女問わず黄色い声援が飛び交っている。中には奇妙な発言をしている人もいるみたいだが……。
皆の注目のその先には、大通りを悠々と歩く三人の王国騎士の姿があった。
「え……あの人って」
「……」
特に俺の目を引いたのは先頭を歩く女性。
似てる……なんて物じゃない。まるで俺の横に立つルエルが成長した姿をそのまま映したかのような美しい女性だ。
そして半歩後ろで付き従うように歩く二人の女性。
ルエルにそっくりな女性の制服だけ豪華な装飾が施されている所を見ると、さっき誰かが叫んでいた……彼女が『総団長クレア』なのかな。
「お、おいルエル」
なんて考えていたらいつの間にかルエルがスタスタと歩き出していた。
慌てて俺も後をついていく。
ちょっとした騒ぎとも勘違いしそうな人だかりの中を掻き分けて、ルエルが大通りへと出る。心なしか、少し息を切らしているように見える。
「クレア様の魔法なら、イナリからこの王都までもあっという間でしたね」
「でも皆こっち見てます……クレア団長と歩くといっつもコレだから私嫌……」
三人の会話が聞こえてくる程の距離まで来てしまった。
「ね、姉さん!! クレア姉さん!!」
少し慌てた様子で、先頭を歩く女性の背中に呼びかける。
やっぱり、あの人がルエルのお姉さんだ。俺の姉ともよく知った仲という話だけど……。
「あら?」
振り向いたのは、後ろを歩いていた女性だ。
長い茶髪がひらりと揺れて、大人の雰囲気を醸し出している。一見すると、凄く落ち着きのある優しそうな人。今まで見てきた女性の王国騎士とは全く違う印象を受ける。
「君達は……」
「ロザリー? どうした……」
続いて足を止めたのはもう一人の王国騎士……だよな?
遠目だと気が付かなかったが、近くで見るとかなり……
「え、子供……?」
「なっ!?」
背丈も歳も俺と変わらないどころか歳下に見える。
長い黒髪で大人びた雰囲気を演出してはいるが、かなり幼い……ように見える。
「なにこのコ達……凄く失礼」
俺の言葉に一瞬顔を赤くして驚いたような表情を見せたがソレは一瞬。すぐにスッと涼し気な顔に戻しコチラに近寄って来た。
「こう見えて私は今年で16」
ぱっちりとした黒目と長いまつ毛に、肌はツルリと白い。まるでお人形さんみたいな人だ。
「あまり馬鹿にした発言をするとブッ殺す……」
「え……」
どうやら可愛らしいのは見た目だけのようだ。
ジロリと睨みつける視線が怖い。
「まぁシオリは王国騎士団最年少の天才だからねぇ」
「その通り……次期総団長は私」
ロザリーと呼ばれた女性が、黒髪の女性の頭をポンと手で撫でる。
シオリと言う名の女性は、気持ち良さそうに目を細めている。こうして見るも小動物のように見えなくもないが、ともあれ怒りを収めてくれたようで何よりだ。
「二人共、あまり人目につく所でそういう話をする物じゃないわよ。特にシオリ」
そしてようやく、先頭に立っていた女性がコチラへやって来た。
「ルエル……久しぶりね。王都へ来ていたのね」
ルエルに優しい笑みを向ける女性。
ルエルの姉。クレア・イクシードか。
「はい。冒険者の中級昇格試験を受けるためです」
ピクリと、ルエルのお姉さんの眉が反応したように見えた。
そしてその冷たい瞳は俺へと向けられる。
「君がシファくんね。ロゼの自慢の弟」
冷たい瞳ではあるが、向けられる笑顔はとても暖かくて、ルエルと同じ顔立ちなのもあって妙に照れてしまう。
「は、はい。いつも姉がお世話になっています……か?」
王国騎士のルエルのお姉さんと冒険者の姉がどれくらい関わりがあるのかは分からず、変な挨拶になってしまう。
少なくとも、この人が姉と凄く仲が良いと言うのは……さっき姉のことを『ロゼ』と呼んだことからも分かる。
と言うか、俺とルエルを許嫁にした張本人のひとりなのだ。
「ふふ……そうね、どちらかと言えば迷惑をかけられることの方が多いわね」
「それはまた、面倒な姉ですみません」
一応謝っておく。
この人の表情に、とても苦労していると出ているような気がしたからだ。とは言え、姉のことを好いてくれているようで良かった。
「ほう。この少年があの『戦乙女』の弟……なるほど、どうりで私を馬鹿にした発言が出来る訳……イタっ!」
「こらシオリ、やめなさい!」
今度はポコリと頭を小突かれている。
後ろでそんなやり取りがされている中、ルエルのお姉さんは気にすることなく話を続ける。
俺との会話はそこそこに、姉の前だと言うのになんともよそよそしいルエルへとその視線は再び向けられていた。
「ルエル……やっぱりあなたは王国騎士団に入るつもりは無いのね」
「…………」
「私としては、あなたには王国騎士としてソコの彼と結ばれて、王国騎士団と冒険者の間にある蟠りを解消する一助になって欲しいと思っているのだけれど?」
「それは……」
急にとんでもない発言が飛び出していた。
ルエルの姉と我が姉で決められた俺達の許嫁。その目的がまさかこんな所で聞かされるとは。
姉の口からは以前、一方的に我が姉の方からお願いしたと聞いていたが、どうやらルエルのお姉さんにも理由があったようだ。
「クレア様の妹……私は大歓迎。私の妹分として面倒見てあげないこともな――イタっ!?」
「やめなさいっての」
「まぁ好きにしなさい。あなたの思うようにすれば良いわ」
そう言いながら、俺達に背を向けた……かと思えば、コチラ――と言うよりかは俺に振り向いた。
「シファくん、あなたのお姉さ……いや、なんでもないわ。また会いましょう。ルエルのこと、よろしくね」
「え? はい。それは勿論」
何かを言いかけて、今度こそ歩き出した。
「ふんっ、次に会うときがあれば生意気な口を聞かないように気を付けろ」
「ごめんなさいね。シオリはこう言う子なの。実力は騎士団の中でもトップクラスなのよ」
「は、はぁ」
「イナリ近郊に出現した新種の竜種討伐に連れて行ってもらえなくてスネちゃってるみたいなの。悪気はないの、気を悪くしないで」
「え? イナリで? あちょっと――」
二人の後を追うように、ロザリーと言う名の王国騎士も足早に去って行ってしまった。
最後の気になる発言を聞いたとき、胸がドクンと跳ねたような気がした。




