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#135 王都への旅路

 窓から顔を覗かせ、見えていたイナリの正門が少しずつ小さくなり、やがて完全に見えなくなってしまった。

 俺とルエル、そして姿を潜ませた玉藻前は定期馬車に乗り込み、王都グランゼリアを目指す。

 急がず遅れず、この定期馬車の速度で順調に進めばだいたい六日程で到着する予定だ。

 大街道沿いに存在する街や宿場町を経由しながらの進行になる。

 俺達が乗り込んだこの馬車には、他にも数人の利用客が存在している。チラッと話が耳に入ってきた限りでは、同乗している彼等も目的地は王都のようだ。


「馬車に乗るのは久しぶりだわ」


 遠くの景色を見ながら、ルエルがボソリと呟いた。

 イナリの正門を出て暫くして、辺りは見渡しの良い景色へと移り変わっている。

 視線を動かしてみると、二人一組で大街道沿いを歩く人の姿がある。

 格好から察するに王国騎士団の人達だろう。

 彼等がああして巡回と警備を行っているから、定期馬車は安全に大街道を進むことが出来ると言う訳だな。


「やはり、巡回している騎士団の数が以前に比べて増しているな……」

「ええ、街道沿いは比較的安全な筈なのに……やっぱり何かあったのかしら」


 と、呑気に馬車の外を眺めていたらそんな話声が耳に入ってきた。

 話しているのはこの馬車に同乗している男女の二人組だ。どうやら二人とも冒険者のようだ。

 たしかに、街道を警備している騎士の数に若干の違和感がある。街道周辺にも勿論魔物や魔獣は存在しているだろうし、日頃から巡回が必要なのは分かるが……日常レベルの警備にしては少し過剰な数に思えた。馬車が少し進めば、また別の騎士が二人一組で街道を警備している姿が見えてくる。

 街道周辺は、高レベル帯の魔物は生息していないという話だが、何か他の事情があるのだろうか?


「……」


 チラリとルエルに視線を送ってみるが、少し首を傾げるだけだ。特に何か知っている訳でもないらしい。


 ◇◇◇


「……っ! うおっ!」


 それから暫く街道を順調に進んでいた定期馬車だが、唐突に急停止してしまった。

 何やら、外が騒がしくなっている気配が伝わってくる。


「皆さんは、そのまま中でお待ち下さい」


 そう声を上げるのは、この定期馬車の御者さんだ。


「どうやら、この先の街道で大型の魔獣が暴れているそうです。今、騎士団の方々が対処にあたっているとのことです」


 話から察するに、この定期馬車の進行を止めたのは街道の警備にあたっている騎士のようだ。

 窓から外を覗いてみると、騎士が集まっているのが分かる。そして先の街道に目を向けると、僅かに土煙が立ち上っているのも。万が一にも、この定期馬車に被害が無いように護ってくれているということだろうか。


「ん? ……あれは」


 そんな中、数人の騎士に忙しそうに指示を飛ばす一人の女性騎士の姿が目についた。

 綺麗な女の人。以前に会ったことがある。たしかカルディア生誕祭で俺を騎士団に勧誘してきた……レイナっていう名前の人だ。

 馬車の窓を開けているので、彼女達の話し声が聞こえてくる。


「あなた達はこの付近の警備と、馬車の護衛を続けなさい。戦闘の気配に釣られて、他の竜種が近付いてくる可能性もあるわ」

「承知しました! ですが、街道の封鎖は必要無いのですか?」

「封鎖? 必要ないわね。そのために私達がいるのよ」

「はっ!」

「加勢には私が向かうから、コッチはよろしくね……そうね、15分もすれば片付くでしょうから、時間になったら馬車を通して構わないわ」


 そう言ってから、レイナという騎士が収納魔法陣を出現させた。そして出てきたのは、槍とも斧とも見える物々しい武器。


「なんだアレ……」


「アレは、ハルバードね」


 俺と並ぶように騎士のやりとりを盗み見ていたルエルがそう教えてくれた。


 ハルバードか……うーむ、たしか姉も似たような武器を持っていたようななかったような。

 なんて昔の記憶を思い出そうとしていたら、重そうなハルバードを担ぎ、レイナという騎士は未だ土煙の上がる街道の先へと向かって行った。


「あの人、模擬戦の後にあなたを騎士団に勧誘していた女よね?」

「あ、あぁ」


 どうやら、ルエルも覚えていたようだ。


「騎士団第一だったかしら? 流石、かなりの使い手みたいね」


 窓の外に興味を失ったのか、そう言いながら椅子に座り直す。

 街道でのことは騎士団に任せておけば良いようだ。

 とは言え、『竜種』という言葉が聞こえてきたのが少し気になる。街道を警備している騎士の数が多いのと無関係じゃ無さそうだし。


 それから暫く経って、馬車は再び動き始めた。


 戦闘があったと思われる場所では、街道の脇に巨大な竜種の死体が転がっていた。翼竜……ではなさそうだ。

 騎士達は……多少の怪我人はいるものの、大事に至っている様子でもなく、レイナという騎士は無傷で、身に纏う装備には汚れ一つ付いていないように見えた。


 そんな彼等を横目に、俺達の乗る馬車は街道を進んで行く。

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