#119 イナリ山惨劇《大斧を握る小さな手》
大通りの一等地に存在する『蓮華亭』から、二人の狩人が姿を現した。
多くの人が行き交う大通りで、ガレスは奥に聳えるイナリ山を睨みつける。
「兄さん、今日……ですよね? あの人が言っていたのは」
すぐ隣に立つフィリスは、探るように訊ねる。
「あぁ。あの女の話じゃ、今日イナリ山で騒動が起こる。奴の話によれば、玉藻前をあぶり出すっつー話だぜ」
「行くん……ですよね? 私達も」
「勿論だ。そのために俺達はイナリまでやって来たんだからな」
何の躊躇も不安もない表情で兄は答えるが、フィリスの胸の内は少し複雑だった。
狩人は、常に情報を集める努力を惜しまない。狩人同士の情報交換は盛んに行われているし、自分達も例外ではない。
ラキアという名の狩人と情報交換をする中で、玉藻前はやはりイナリ山に帰って来ているという事実と、彼女達が今日イナリ山で"ある行動"を起こすということを知った。
だが同じ狩人であっても、ラキアという人物はどこか信用出来ない所がある。更に、危険指定レベル18の妖獣玉藻前を敢えて誘い出すと言うのだから、正直まともな神経とは思えない。
「大丈夫だよ、心配すんな。玉藻前とはまともにやり合うつもりはねーし、いざとなりゃ逃げれば良いんだ。俺達は……混乱に乗じてイナリ社を見つけ出し、宝だけ奪ってトンズラだよ」
現状、イナリ社を見つける術は無い。最早存在しないとまで思えてしまうのは、やはり玉藻前が帰って来ていたからだ。
だが、イナリ山の状況が変わり玉藻前が姿を現せば、イナリ社が見つかる可能性は充分にある。
そして、ラキアが行動を起こすと言った以上、今日を逃せばイナリ社の宝を彼女に持っていかれてしまうのも明白だった。そんなことはフィリスにだって分かる。
「奴がどんな方法で玉藻前をおびき出すのかは知らねーが、俺達はただ、いつも通りやれば良いのさ」
いつも通り悪そうな笑顔を浮かべて見せる兄。
大好きな悪い笑顔だ。この笑顔を見ると、不思議と安心感に包まれてしまう。
「……分かりました。行きましょう兄さん」
フィリスは、兄と共にイナリ山へと足を踏み入れる。
◇◇◇
今日のイナリ山も、多くの冒険者と狩人が訪れていた。皆、この山に生息している魔物や魔獣を討伐しつつイナリ社を探しているように見える。ただ、その多くは既にイナリ社を探すことにそれほどに注力していないようだった。
どれだけ必死に探しても見つからないのだから、次第にやる気も失せてくるのだろう。しかし、イナリ山には多くの魔物や魔獣が生息し、薬草などの素材も豊富なために無駄足になることは決して無い。
「特に、まだ何かが起こったようには見えませんね」
「そうだな。俺達もいつも通り、魔物や魔獣の部位を集めつつ進むか。周囲の動きには注意しつつな」
「はい!」
特にこれといった変化は何も見られない。玉藻前をおびき出すという話が本当なら、それなりの騒ぎが起こることが予想出来る。
とは言え、玉藻前を見たこともないフィリスには、どれ程のことが起これば玉藻前が姿を現すのかも分からないのだが……。
(玉藻前……どんな化け物なんでしょうか)
危険指定レベル18というだけで、どれ程醜悪な化け物なのかと想像してしまう。
竜種の上位種よりも高レベルな妖獣。噂によると複数の尻尾を持つ狐の化け物という話だ。
(ひぇっ……)
あまりにも恐ろしくて、想像するのは止めた。
「止まれフィリス」
「――?」
するの、前を歩く兄が唐突に足を止める。
フィリスも、兄に促されるままに木陰へと見を潜めた。
兄がジッと見つめる先に視線を向けてみると、向こう側に人影があるのが見えた。
「ふざけんじゃねぇ! コイツは俺が仕留めたんだ! 討伐部位は俺がいただく!」
「何だとテメェ! 先に見つけたのは俺だろうが! ソレをお前が横から出てきて文字通り横取りしただけだろうが!」
二人の男が何やら口論している。
よく見ると、男達の間に魔獣の死体が転がっていた。毒毒しい体毛に覆われた巨大な鳥型の魔獣――コカトリスだ。しかも、普通の個体よりも大きいように見える。
二人の男は、あのコカトリスの討伐部位をどちらが持って帰るかで揉めているようだ。
「ありゃもう一人の方は狩人だな」
他人の獲物を奪うのは、狩人の常套手段でもある。
おそらく冒険者がコカトリスと戦っている途中、あの狩人が横から出てきたという構図だろう。
兄のガレスは、やれやれと悪い笑みを浮かべながら、収納から二本の長槍を取り出した。
馬鹿な二人だ。と、フィリスも呆れながら視線を二人へと戻す。
気付いていないのだ。魔物や魔獣が多く生息するイナリ山のど真ん中で、あれだけ大きな声で口論していては余計な物を呼び寄せてしまうことになると。
「テメェ狩人だろ! 他人の獲物ばっかり狙うハイエナ野郎が!」
「だったら何だ? お前こそ、俺が出てこなきゃ今頃おっ死んでたかも知れねえ癖になぁ?」
「なんだとぉ!」
尚も大きな声で口論を続ける二人。
特に気配を殺すこともなく二人のことを観察しているフィリス達に気付かないことから、周囲のことを全く警戒していないのだと分かる。
――ガサッ
二人の男のすぐ後ろの草が、大きく揺れた。
「あ?」
「ん?」
流石に違和感に気付き、二人の男が振り向いた。
しかし――遅かった。
「――――ォアアアッ!」
飛び出して来たのは、大きな熊のような魔獣。危険指定レベル5の、巨大熊だった。
鋭い牙と爪、そしてとてつもない顎の力は凶悪だが、冷静に対処すればそれほど危険な相手ではない。しかし、完全に油断していた二人にとっては、さぞかし恐ろしい怪物に見えただろう。
「ひっ――」
突如現れた巨大熊に、二人は身動きが取れない。
「伏せろっ!!」
そこに、兄のガレスが一喝する。
二人はその声になんとか反応したのか、それとも単に腰を抜かしただけなのか、糸が切れたようにその場にしゃがみ込んだ。
――ヒュンッと、二人の頭上を長槍が通り抜ける。そして、ズシャリと巨大熊の胸へと突き立った。
「――――アァ!!」
悶え苦しむ巨大熊。
すかさず、兄のガレスは巨大熊へと駆け、勢い良くもう片方の長槍を巨大熊の太い喉目掛けて突き出した。
すると巨大熊は、ビクンッと体を一瞬跳ねさせたかと思えば、そのまま力無く倒れ伏した。
「ハッ、雑魚が」
突き立ったままの長槍を引き抜き、ソコで座り込んだ二人の男へと視線を向けるガレス。
「チッ、何見てんだコラ。コレは俺がぶっ殺した獲物だ、お前らはお前らで勝手にやってろや」
口をパクパクさせながら、二人の男はブンブンと顔を縦に振っていた。
巨大熊の口から大きな牙と両手の鋭い爪。そして尻尾を回収し、ガレスは再びフィリスの所へと戻ってきた。
「行くぞフィリス」
「はい!」
再び、山の奥へと足を運ぶ。
◇◇◇
かなり山の奥までやって来たところで、異変は何の前触れもなくやって来た。
最初に気付いたのは兄のガレスだった。持ち前の感の鋭さで、僅かな違和感に気付いたのだ。
「ま、まてフィリス!」
「――?」
兄の言葉に、当然フィリスは従う。
また何かを見つけたのかとも思ったが、見を隠すことも動くこともなくその場で固まる兄を見て、まだ明確に何かを見つけた訳ではないと悟った。
耳を澄まし、眉間にしわを寄せて険しい表情を作っている。何かを探っている様子だった。
「――――」
「――?」
フィリスの耳に、何かが聴こえた。
次第に、兄の顔が青ざめていくのが分かった。
「おいおい、何の冗談だよコリャ」
「に、兄さん?」
ただ事では無さそうな兄の言葉だった。
「フィリス、イナリ社は諦める。今すぐ山から降りるぞ」
「――え? は、はい!」
走り出す兄に、フィリスは慌ててついていく。
「兄さんいったい何が……」
未だ山には変化がない。
だが、フィリスにも聴こえた先程の妙な声。
何かが起ころうとしているのは間違いない。となれば、ラキアという狩人が玉藻前を誘い出すために、何か行動を起こしたということだ。
フィリス達はもともと、ソレを利用してイナリ社の宝を狙っていた筈だ、なのにどうして逃げるのか。
訊ねずにはいられなかった。
「竜種だ」
「――え?」
「とんでもねぇ数の竜種がイナリ山に近付いてる。流石に無理だ」
「そ、そんな。ラキアさんが竜種を連れて来たってことですか?」
「どんな手を使ったかは知らねーが、そういうことだろ。クソッ! あの女、限度ってもんがあるだろーが!」
二人は走る。
竜種の最低レベルの翼竜ですら危険指定レベルは7だ。一体だけなら何の苦にもなりはしないが、一度に複数を相手にするのは危険だ。
ガレスが察知した竜種の数は、とても数え切れる程の物ではなかった。迷うことなく、イナリ社を諦めるという選択に至った。
「とにかく今ならまだギリギリ間に合う筈だ。さっさとイナリから――」
瞬間、自分達の頭上を何かが通り過ぎた気がした。
そして、僅かな地響きと共に、行く手を遮るようにして勢いよく降り立った何か。
「――」
小さな威嚇の咆哮が聞こえた。
竜種にしては小柄。しかし竜種。灰色の表皮と、複数の鋭い翼は空を縦横無尽に駆け回るための物。
危険指定レベル13、音速竜だ。
「ふざけんじゃねぇぞこんな所で! フィリス! 速攻で片付けんぞ!」
「はい!」
二人は即座に、収納から武器を取り出した。
◇◇◇
「はぁぁぁ!!」
――ズドンと、フィリスが両手で振り下ろした巨大な斧が音速竜の命を断った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「っ大丈夫かフィリス」
「っ……はい、これくらい何ともありません」
音速竜の動きはとても素早い。空を飛行するときの最高速度は音の速さにも迫ると言われている。
並大抵の反射神経では音速竜の動きについて行くことは難しいが、兄が音速竜の動きを牽制することのみに集中し、妹のフィリスが一撃必殺を叩き込むことで、何とか討伐することに成功した。
「思ったより時間くっちまったな、急ぐぞ」
既に何体かの竜種が山に入って来ている。
これ以上数が増えてしまうと、山を降りることですら命懸けになってしまう。
「ガレスにフィリスちゃーん。そんな寂しいこと言わないでよー」
再び足を動かそうとしたとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「ラキア……てめぇ」
「兄さん……」
狩人のラキアだった。
互いに情報を交換し合った仲。だと言うのに、兄の表情は怒りに満ちた物だ。
「てめぇ、こりゃ一体どういうつもりだ? いくらなんでもやり過ぎだろうがぁ!!」
可愛らしい表情を浮かべるラキアに詰め寄る兄。相手が女性であることなどお構い無しに胸ぐらを掴み上げた。
「あはっ! そんな怒ること? 二人も私が起こした騒ぎを利用しようとしてたんでしょ? すればいいじゃん。イナリ社の宝は譲ってあげるからさっ」
「限度ってもんがあんだろーが! すぐソコには街もあんだろ!」
勢いよくまくしたてる兄だが、ラキアには何一つ応えた様子がない。変わらず、妙な可愛らしい笑みを浮かべているだけだ。
「大丈夫だよ。イナリ山に人が残ってる限りは竜種が街に行くことは無いと思うよ? あーでも、何匹かは街の方へ間違えていっちゃう可能性もあるかも知れないね」
フィリスには、ラキアの言っていることが何一つ理解出来ない。
現在、イナリ山には多くの冒険者や狩人が入っている。ラキアはその人達のことも、更には街の住人の命さえも何とも思っていないようにも取れる言動だ。
「だいたい、そんなことして本当に玉藻前が出てくんのか!」
「知らないよ。確実に玉藻前を誘い出すには、その前にもう一人おびき出さないと駄目なんだよね」
そして、ラキアは視線を上へと移した。
「それより良いの? 私なんかと楽しくお喋りしててさ。逃げようとしてたんでしょ?」
「てめぇ……」
「兄さん!!」
異常な気配を察知して、フィリスが叫ぶ。
今にも手を出しそうな兄を咎めようとしたのではない。巨大な影が空から複数近付いていたからだ。
そしてまた、その影は大きな地響きと共に降り立った。
数体の翼竜と、その中に交ざる上位の竜種。
いつの間にか三人は竜種に取り囲まれていた。
「ほらほら、私に構ってばっかりいると食べられちゃうんじゃない?」
しかし何故か、竜種が敵意剥き出しの瞳を向けてくるのはガレスとフィリスの二人だけだ。
「ごめんねぇ。私達のギルドには、魔獣を魔力で多少操れる仲間がいるんだよねー。しかも狂暴化してるから、かなり操り易いらしいよ。あっはは! 超サイコーでしょ?」
「てめぇ、マジで後でぶっ殺してやるからな」
「怖っ、それじゃぁ頑張ってね。生きてたらまたギルドに誘ってあげるからさっ! じゃーね、フィリスちゃんっ」
そう言って、ラキアは何処かに消えた。
フィリスも、本当は頬を引っ叩いてやりたい気分だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
竜種に囲まれてしまった。とにかく、この場を何とかして脱出することだけを考えるべきだ。
ギュッと、大斧を握る両手に力を込める。
この幻竜王の大斧なら、攻撃を当てることさえ出来れば、目の前の竜種も倒すことが出来る筈。
大丈夫。これまでだって、どんな危険な状況だろうが兄と一緒に乗り越えてきた。きっと今回だって、いつも通りやれば大丈夫に違いない。倒しきるのは無理でも、逃げるくらいどうってことない。
何故なら、頼りになる大好きな兄が隣にいるのだから。
「フィリス」
「はい!」
いつも通り、兄からの指示がくる。
きっと、『俺が竜種共の動きを止める。お前は隙を見逃さず、その斧をぶちこめ!』などと言ったような指示に違いないと、フィリスは耳を傾ける。
「お前は逃げろ」
「――はい?」
しかし、耳に飛び込んで来た指示は、これまで聞いたことのない物だった。
「この数は無理だ」
「な、何でですか!? 兄さんと私なら、逃げるくらいは――」
続きを話すことは出来なかった。
二人の会話のを待つことなど全く考えない翼竜が、フィリス目掛けて突進して来たからだ。
「クッ――」
即座に兄がフィリスの腕を掴みその場から退避するも、咄嗟の行動だったためか体勢が乱れてしまう。
そんな二人に、追い打ちをかけるように別の翼竜が咆哮を放つ。
「兄さん!」
慌ててフィリスが前に出る。
迫りくる咆哮目掛けて、大斧を振るった。
「――――ォアアッ!!」
すると、フィリスの振るった大斧は咆哮を切り裂くだけに留まらず、翼竜にまで大きな斬撃を浴びせていた。
猛烈な激痛が翼竜を襲っているのがその悲鳴から読み取れるが、討伐にまでは至っていない。
「くそっ!」
すかさず、兄のガレスは持っていた長槍の一本を翼竜に向かって投擲した。
喉元へと深く突き刺さり、ようやく翼竜の一体が倒れ伏す。
だが、すぐに別の翼竜がフィリスへと襲いかかるべく迫る。咆哮ではなく、大きな口腔を晒しながらの突進だった。大斧を振るった反動で動きの鈍くなってしまったフィリスを捕食しようとしている。
「フィリス!!」
堪らず、兄が体を投げ出した。
フィリスの体を押し出し、自らの体を翼竜の前へと割り込ませる。
「に、兄さん!?」
鋭い牙が、兄の左半身へと突き立った。
「ぐっ! あぁぁ!!」
聞いたこともない兄の悲鳴がフィリスの鼓膜を震わせた。
頭の中が真っ白になる感覚に襲われる。しかし、無理矢理に体を動かした。
絶対に失ってはならない物が今、目の前で奪われようとしている。許せる訳がなく、大斧を振るった反動で硬直してしまっている腕を力任せに振り上げる。
「に、兄さんから離れて!!」
そして、三度目となる大斧を翼竜の首へと振り下ろした。
◇◇◇
二体の翼竜を討伐したものの、未だ一体の翼竜と、その背後には竜種の上位種が控えている。
残った翼竜がすぐに襲いかかってこないのは、先の翼竜二体が討伐されたことで警戒しているのか、はたまた傷ついた二人の状況を見ていつでも捕食出来ると考えているのか……それとも、後ろの上位種がそうさせているのか、今のフィリスには分からない。
ただ、最悪の状況になってしまったということだけは分かった。
「に、兄さん! 大丈夫ですか?」
止血のための魔法薬を飲まることは出来たが、兄の傷は深い。
手持ちの魔法薬では、傷を完全に癒すことは不可能だ。街の治療院に行き、直接癒しの魔法を行使してもらうしか、助かる方法はない。
そのためにはやはり、一刻も早く山を降りなければならない。兄の体力がいつまで持つかも分からない。
「……フィリス、お前だけで逃げろ。俺はもう無理だ……俺がいれば、あの竜種はお前を追いはしねぇ」
振り絞るように何とかそう話す兄。
「嫌です! 兄さんを置いていくなんて、私に出来る訳ありません!」
そんな選択肢など、初めから無い。
いつも、危険な時は兄が護ってくれた。なら今度は自分が護る番なのだと、フィリスはその場に置かれていた斧に手を伸ばす。
しかし――
「痛っ!」
腕に激痛が走る。
大斧を三度目も振るったことにより、既にフィリスの魔力は限界に近い。大斧が要求してくる魔力に応えることが出来ず、触れることすら叶わない。
「頼むフィリス、逃げろ……俺のためにも逃げてくれ!」
「嫌です! 絶対に嫌!」
フィリスはその場で立ち上がる。握る武器は無い。
大斧なんて物は必要ない。しかし自分には兄が必要だと、兄を庇うように竜種と対峙した。
そんなフィリスを見てか、奥にいた竜種が前へ出た。
全身が赤黒い表皮で覆われた、火炎竜だ。
「……逃げろっつってんだ! 俺の妹なら言うこと聞けよ!」
「私は兄さんの妹です! だから嫌です!」
火炎竜が小さく唸りながら見を屈めている。
一気に突進し、自分達を捕食しようとしているのだと分かった。
「絶対に逃げるなんて嫌! 私は、兄さんがいないと生きていけません! 兄さんだって! 私がいないと生きていけない癖にっ!」
そう叫んだ所で、火炎竜が大きな口を開けて突進してきた。
たとえ食べられても、絶対にこの場から動かない。そう心に誓いながら、ギュッと目を瞑った。
すると
――ズガァァン!!
という衝撃音と地響きが目の前から伝わって来た。
「――――?」
フィリスはまだ立っている。
何が起こったのかと、恐る恐る目を開けると――
「『兄さんがいないと生きていけない』か、何か……分かる気がするよ、その気持ち」
見ると、フィリスの前にとても大きな大剣を掲げる青年が立っていた。火炎竜の突進を、大剣で受け止めていたのだ。
「シファ、この人……かなり悪いわ。早く手を打たないと手遅れになるわよ」
「え――」
背後の声に視線を向けると、どこかで見たことのある美女が兄の状態を調べているところだった。
「とにかく、コイツを何とかしよう」
そう言って、青年は体を巧みに回転させて、大剣を火炎竜へとぶつけていたのだった。




