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#111 イナリでの依頼

 

 玉藻前を無事にイナリ社へと送り届けたことで、姉からの指名依頼はこれで完了だ。

 玉藻前が依頼報酬を選ぶまでのあいだ、俺達はイナリの街を観光することにした。正直に言えば、せっかくイナリまでやってきたのだから依頼を終えてすぐにカルディアまで帰るのは勿体無いと思っていたところだ。


「あの様子じゃ玉藻前の奴、俺達への報酬を選ぶのにそれなりに時間かかりそうだな」


「そうね。あまり気にしなくても良いのに……義理深いのかしらね」


 昨日の玉藻前の様子を思い出してルエルと笑い合いながら、イナリの冒険者組合へと足を踏み入れる。


 組合の中の様子は昨日と少しだけ違っていた。


「あれ? なんか人が増えてるな」


 昨日よりも明らかな賑わいを見せている。


 どうしてなのかと視線を少しばかり彷徨わせると、理由はすぐに判明した。


「へー、依頼書が発行されてるんだな」


 組合の隅に並べられた大きな掲示板。昨日はスッカスカだった筈なのに、今はぎっしりと依頼書が貼り付けられている。しかも、現在進行系で依頼書の数は少しずつ増えているようだ。たった今も、組合員が新たな依頼書を貼り付けている姿が目に止まる。


「玉藻前のことを報告するついでに、良さそうな依頼があれば受けていこうか」


 たくさんの依頼書が貼られた掲示板を横目に、ルエルと並んで組合受付へと足を運ぶ。


「おはようございます。シファ様、ルエル様」


 受付に立っていたのは音無さんだった。

 深々と丁寧なお辞儀で迎えられる。


「おはようございます。あの、昨日の件について一応報告しておこうと思いまして」


「はい。それでは二階の支部長室で対応させていただきます」


 周りに多くの冒険者がいる状況で、『玉藻前を無事に社まで送り届けたよ』とは流石に言えない。あんな玉藻前だが、一応危険指定レベル18の妖獣だ。いらぬ騒ぎを起こしてしまうかも知れない。

 音無さんもそう思っているからだろう。俺達を二階へと案内してくれた。


 ◇◇◇


 玉藻前を昨晩のうちにイナリ社へと送り届けたと、イナリ支部の支部長紅葉様に報告した。

 相変わらずダラけた態度で『はいよー、御苦労さんやったなぁ』とあっさりした対応には少しだけ拍子抜けだった。


 とは言え、これでイナリでやらなければいけないことは全て済んだ訳だ。


「よし! それじゃイナリを観光しながら、冒険者として依頼をこなして行く。ってことでいいな?」


「えぇ構わないわ。って昨日も話したでしょ」


「一応確認しただけだ。俺達は編成(パーティー)を組んでるんだからな」


「……」


 そしてやって来たのは依頼掲示板の前だ。

 非常に多くの依頼書が貼られている。この数なら、何かやり甲斐のある依頼が見つかるんじゃないだろうか……なんて思っていたのだが。


「店の開店準備手伝いに、店の接客応援。庭の手入れ……?」


 初級冒険者の俺達でも受けられる依頼ばかりだが……。


「やっぱり、立ち入り制限が解除されたばかりのイナリだと雑務系統の依頼が多くなるのは仕方のないことよね。でも、困っている人、もしくは手伝いが欲しいと思っている人達がこの依頼を出しているのは事実よ。どうするの?」


「んー、確かになぁ」


 雑務系か、難易度は初級で俺達(初級冒険者)にはピッタリとも思える依頼だが、そういうのはカルディアで充分にこなして来たんだよな。カルディアでも、そろそろ中級難易度の依頼をこなしていこうと思っていたところだったのに。


「うーん……」


 非常に悩ましい。しかし、今ある依頼の全てが雑務系統の依頼。仕方ない……か。


『店前の街道清掃』と記された依頼書へと手を伸ばす。


「ちょいちょい、そこのお二人さん!」


「「え?」」


 ピタリと、依頼書へと伸ばした手が止まる。


 すぐ横からかけられた声に振り向くと、立っていたのは一人の女性だった。


「あ、ごめんね? 急に声かけて、びっくりさせちゃったかな?」


 短めに切り揃えられた茶色い髪を指先でクルクルと弄びながら、ニッコリと笑っている。瞳はパチリと大きく、非常に可愛いらしい雰囲気だ。


「なんか随分悩んでたみたいだけど、その依頼受けるのかな?」


 俺が手を伸ばした先にある依頼書へ視線を向ける女性。

 もしかして、この人もこの依頼を受けたかったのかな。だとしたら全然譲るが……。


「そうだけど。それが何か?」


「お、おいルエル」


 ズイッと俺と茶髪の女性の間に割って入ったルエル。


「冒険者が受ける依頼は基本的には早い物勝ちよ。この依頼は私達が受けることにしたけど、その上で私達に何か用でも?」


 言ってることは正しいんだが、ちょっと言い方がキツい。


「あ、ごめんごめん! そういう訳じゃないんだよ。もしかして、もっと他にやり甲斐のある依頼を探してるんじゃないかと思ってさ」


「どういうこと?」


「ごめんねぇ。あまりやりたい依頼が無いように見えたからさ、それなら私の依頼を手伝ってもらおうかなって思ったんだけど」


 彼女の言葉を聞いて振り返ったルエルと目が合う。

 それならと、軽く頷いて見せた。


「とりあえず、話だけは聞くわ」


「ほんと!? 良かった、じゃぁちょっと場所変えよっか。立ち話もなんだしね」


 パァッと表情を明るくさせて、鼻歌混じりに歩いていく。組合内に設けられている休憩スペースで話をしようということらしい。


「なんだか怪しいと思うけど」


「まぁ、話を聞いてから決めれば良いだろ。コレと言ってやりたい依頼がある訳でもなかったのは事実だしな」


 俺とルエルは、彼女の後についていった。


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