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#109 《夜道を塞ぐ鈴の音》

諸事情により、かなり間があいておりましたm(__)m

またお付き合いいただければ幸いですm(_ _)m

 

「すっかり遅くなっちまったな」


 蓮華亭を出てみれば外はすっかり暗くなっていた。

 あまり長居したつもりは無かったが、思っていたよりも時間は経過していたらしい。


「少し冷えますね……」


 夜のイナリは少し肌寒い。

 フィリスは、白く細い二の腕を擦りながら少しだけ体を震わせる。


「ま、一応収穫はあったな」


「冒険者の話ですか?」


「あぁ。もし本当なら、かなり動きやすい状況だろ。"初"級や"中"級の冒険者なんて屁みたいなもんだしな。実力のある"上"級冒険者もいないって話なら……万が一にも冒険者に邪魔されることはねーな」


「確かに……そうですね」


 兄の意見に、フィリスも同意である。

 自分達の実力なら、下手な"上"級冒険者よりかは上だ。

 今では"超"級に昇格したと言われている、あの『音剣』のような"上"級冒険者には勝てるかどうかは分からないが……さっきの話が本当なら、それほどの実力者は今のこのイナリには存在していないということだ。


「下位の冒険者しかいねーなら、奴の言うとおり……多少は無茶しても上手く立ち回りさえすれば、俺達が組合に目を付けられることも避けられるかも知れねーな」


「そうですね。バレなきゃ良いだけの話ですから」


 上位の冒険者がいたのなら、荒事は避けるべきだろう。

 どれだけ上手く立ち回り、冒険者達に顔を見られないように努めたところで、それを上回る実力で捕捉される可能性がある。"超"級冒険者とは……それほどまでの実力者であり、熟練者だ。

 "絶"級冒険者は――話に聞くだけで恐ろしい、考えるだけ無駄である。そもそも彼等の実力を正確に計れる者がそう多くはないだろう。


「とは言え、それは最終手段だ。冒険者組合はデケェ組織だからな」


「はい、勿論です。いつもどおり上手くやりましょう」


 二人は、確保してある宿へと向かって大通りを歩き出した。


 ◇◇◇


 イナリ山へと通じる大通りの奥、山の麓とも言える場所。夜も深くなりつつある時間に出歩く者の姿はまばらである。ましてや、敢えて暗い時間にイナリ山へと立ち入る者など存在しないだろう。

 そんな理由も相まって、大通りから抜け出るようにして脇道へと逸れる二つの人影にガレスとフィリスは気付く。


「あれは……」


 視界の端に捉えただけだが、影が消えていった道がイナリ山へと続く小道であること。そしてその影が見覚えのある物だったことが、二人の興味を引いた。


「あの道も、たしかイナリへと続いてましたよね……それにあの人たちって」


「あぁ。こないだの"初"級冒険者だな」


 あの二人もイナリを目指していたと言っていた。ならば、この街で彼等の姿を目にするのは何らおかしなことはない。単なる偶然だろう。

 だが、少し気になることがあった。


「もうイナリに着いてたのか……」


 彼等と遭遇した場所は東陸街道。騎士団による警備も無く、危険指定種が多く出現する街道だ。冒険者と言えども"初"級冒険者である彼等では、それなりに苦労する道のりである筈。

 "初"級冒険者にしては、イナリへ到達するのが早すぎるようにガレスは思った。


「…………」


「――? どうしたのですか? 兄さん」


 "初"級冒険者でありながら、並外れた実力を秘めている可能性に思い至る。

 ――勿論、魔物や魔獣との戦闘を避けて東陸街道を駆け抜けたとも考えられるが、そうとも思えなかった。


 そんな二人がこんな時間に、恐らくはイナリ山へと向かっている。それも正面からではなく、あまり利用されることのない裏道と利用して。


「フィリス! 今の二人を追うぞ、気付かれないようにな」


「――っ! はい!」


 もしかしたら思わぬ収穫があるかも知れない。ガレスの勘が、そう訴えかけていた。


 気配を殺しながら、二人の消えていった脇道を覗き込んだ。

 グルリと、イナリ山を迂回する形で伸びる小道である。イナリ山に出ることは可能だが、出たとしても獣道である。イナリ山へ向かう為に強いて利用する者はいない。

 料亭や宿屋の関係者が、材料の仕入れ等で近道の為に利用するくらいだ。

 脇道ではあるがそれなりの道幅はある。

 遠目に、先程の二人が足早にイナリ山の方へと向かっていくのを確認出来た。一切の迷いなく、道を進んで行く後ろ姿だ。

 まるで、このイナリの街を熟知し、夜のイナリ山を全く恐れていないように見える。


「こりゃビンゴか?」


 ついつい頬が緩むガレス。


 冒険者と事を構えるのは避けたいが、上手く立ち回りさえすれば……美味しい所だけを奪うことは可能だ。


「行くぞフィリス。あの二人、やっぱりただの"初"級冒険者じゃねーかも知れねえ。少なくとも、イナリについてはかなり詳しいように見えるぜ」


「はい。私にもそう見えました」


 二人の後を追うべく、足を前に運ぶが――



 ――チリン。



 誰もいない夜道に、涼しげな音が響いた。

 ガレスとフィリスの足は、自然とその場で動きを止めた。いや、止められたと表現する方が正しい。


「誰だ? アンタ」


 今まさに進もうとしていた先に現れた、怪しげな人影を睨みつけた。


 ――チリン。


 一歩二歩と、怪しげな人影が前に進む度に、涼しげな音が鳴る。

 やがて、僅かな明かりに照らされて女性が姿を現した。


「こんばんは。私、冒険者組合イナリ支部の組合員をさせてもらっております。音無と申します」


 両手を前に組み、上品な仕草で一礼して見せる。夜の僅かな光と相まって、その着物姿がとても幻想的に映ってしまう。


「組合員? 冒険者組合の? 悪いが俺たちは冒険者じゃねぇ。邪魔だ、退け」


 狩人である彼等にとって、冒険者組合の組合員など全くもって関わりが無い。

 そんな組合員がどうしてこの場に現れたのかは疑問だが、今はそれ所でもない。二人を見失う訳にはいかない。


 無視だと言わんばかりに、再び足を動かした。


 しかし――


「現在の時間、イナリ山とその周囲一部の立ち入りを制限させてもらっております。申し訳ありませんが、冒険者ではない方をこの先に通す訳には参りません。時間を改めて下さい」


 音無と名乗った組合員が、ガレス達の行く手を遮るようにして前に出る。


「はぁ?」


 ガレスは、露骨に顔を歪めた。


「お引き取り下さい」


 さも当然かのような態度で、その場から動こうとしない。


「立ち入り制限だと? 危険指定区域でもねえのにか?」


「はい」


 聞いたことの無い話だった。

 危険指定区域なら、冒険者組合によって一部の冒険者以外の立ち入りが制限されているだろう。それは、この国での冒険者組合の権利でもある。しかし現在、イナリ山は危険指定区域に分別されていない。そのイナリ山を、時間指定で立ち入り制限するなど思ってもみないことだ。


「はっ! んなこと聞いたことがねぇよ! 秘境への立ち入りを制限出来るのは危険指定区域になった時か、"絶"級冒険者の絶級特権だけだろーが!」


 どう考えてもデタラメ。ハッタリとしか思えない。

 ガレスは、付き合いきれないとばかりに足を前に出すが――


 ――チリン。


「聞いたことがなくても事実です」


 音無は、いつの間にか取り出した長刀を腰に構え、腰を落としていた。


「嘘か本当か、冒険者でも無い貴方がたに知る術があるのでしょうか?」


 殺気を存分に含んだ声。まるで、この道を通ろうとするなら容赦はしない。そう言われているようだった。


「通りたければ通っても構いません。ですが私は、冒険者組合の権限によって実力を行使させてもらいます」


「――ッ! てめぇ!」


「兄さん……」


 苛立ちながらも、音無が塞ぐ道を観察してみる。


 腰を落とし、刀を構えている姿は見事な物で一切の隙がない。しかし自分たちなら、振るわれた長刀を躱して一気に走り去ることも可能に思える。


「…………」


 ――どうするか。


 音無と名乗る組合員の今の話が本当か嘘か、つまりはそれだけの問題だ。


 嘘なら何も問題はない。自分達には何の非も有りはしない。たとえゆっくりと前に進んだとしても、彼女が実際に攻撃してくることは無いのだろう。

 更には何故嘘をついてまで自分達を進ませまいとするのか、まるで……先の二人の冒険者を庇っているように思えて仕方がない。


 しかし本当だとしたら、ソコに大きな理由はなく……彼女は迷わず刀を振るい自分達を襲ってくる。仮にその攻撃を躱し逃げおおせたとしても、冒険者組合を敵に回してしまうことになる。組合から目を付けられ、晴れて「要注意狩人」なるものに指定される可能性すらありそうだった。


 冒険者ではなく狩人の自分達が訊ねたとしても、答えてくれる訳がない。彼女の言う通り、本当に確認する術など有りはしない。


「チッ」


 ガレスは足を前に出す代わりに、あからさま悪態をついて見せる。


「ムカつく女だな。帰るぞフィリス」


「え、良いのですか?」


「あぁ。どっちにしても、もうあの二人を見失っちまったしな……冒険者組合と揉めるのも御免だ」


「……わかりました」


 二人は、来た道を引き返す事を選んだ。

 最後にもう一度振り返り、音無に視線を向ける。


「御協力、感謝します」


 音無は、再び優雅に一礼している所だった。その手にはもう何も握られていない。

 何も言葉を返すことなく、二人は歩き出していた。


「兄さん、今の方の言葉を信じるのですか?」


「んな訳ねぇよ。まぁ嘘だろ、さっきの女の言葉は」


「だったらどうして……」


「まぁ、万が一あの女の言葉が本当だとしたら厄介なことになるからな。あの二人を見失っちまった以上、もうアソコを通る理由もねぇよ」


 大通りへと戻ってきた二人は、自分達の宿屋を目指して歩く。

 夜も深まった時間。出歩く人の姿はほとんど無い。


「それに、やっぱりあの二人は何かあるぜ。冒険者組合がわざわざ庇う程なんだからな」


 その事実だけでも確認出来たことが、何よりの収穫とも言えた。


「この情報は、同じ狩人同士で共有しねぇとな」


 良い情報を手に入れたと、ガレスは笑って見せた。


 ♢♢♢


「はぁ――」


 夜道で一人、音無は大きなため息を吐いた。


「疲れた……」


 狩人の二人が大通りの方へと消えていくのを確認すると、途端に力が抜けてしまった。

 後ろを振り向けば、イナリ裏側へと続く道が奥まで延びているのが見えるが、夜闇のせいでどうなっているのかは分からない。ただ一つ言えるのは、玉藻前を連れたシファ達が通ったということ。


(ホンマあぶなかったわ)


 偶然だった。

 玉藻前を監視するためにシファ達の後を尾行していたら、狩人らしき二人もシファ達の後をつけていることに気が付いた。

 シファ達の行く先はイナリ社で間違いない。いったいどうして、狩人がシファ達の後をつけているのかは分からないが、理由はどうあれ好ましくない状況であることは明白だった。


「嘘も、バレへんかったら嘘ちゃうしね」


 狩人を追い払う為についた嘘。あまり嘘はつきたくない音無だが、シファと玉藻前のためについた嘘は別だった。

 そして音無は――クルリと体を翻し、イナリ山へと進んで行く。


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[一言] どっぷり浸かってます。 早めに更新お願いします。
[良い点] もう来ないかと思ってました( ´•̥ ̫ •̥` )‬ 久々に読めて良かったです、設定全部忘れてましたけど。 更新してくれるならまた読みかえてきます すぐに最新話に追いつけるように頑張りま…
[一言] 久々の更新ありがとうございます。 ずっと楽しみに待っていました!
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