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君と心を奪われて 3



 次の日から翼の溺愛がすごかった。


 花菜は身支度を整えて家を出ると、翼が待ってくれていた。


「おはよう、花菜」


「おはよう、翼」


 花菜と翼は手を繋いで、他愛ない話をして学校へ歩いた。周りは好奇の目というより、尊敬の目を向けられる。


「もうキスとかしちゃダメ?」


 翼の発言に花菜は必死に首を横に振った。翼は頬を膨らませていた。いや、外でキスしたら恥ずかしいでしょ、と花菜は心の中で突っ込んだ。

 いつもの階段で別れて、それぞれの教室に入った。すると、たくさんの女子が駆け寄って来た。


「翼先輩のキスってどんな感じなの!」


「翼先輩っていつも花菜ちゃんにはどう接してるの!」


「翼先輩の私服とかどんな感じ!」


 翼の質問が台風のように花菜に吹き付ける。あんな告白の後だしなぁ。


「栞奈、お前はアイツに押し倒されてるだろ」


 陽太の言葉に栞奈は顔を真っ赤にする。恋愛女子は更に興奮する。


「栞奈ちゃんも誰かと付き合ってるの?」


「付き合ってないよ……してはいけない恋だから……」


「ええ!禁断の恋ってやつ!」


 恋してる女の子は割りと近くに居るんだなぁ。花菜はそう思った。


「清香、お前は鈍感過ぎて話にならん」


「えっ、鈍感って何?」



 花菜が理科室に向かう時だった。廊下で出会った。翼も理科室に向かっていたようだ。


「花菜、我慢出来ない。キスしていい?」


「ちょっと、止め……」


 唇が重なった。そのキスはとても熱く、舌を絡めてくる。翼には恥じらいというものは無いのか、花菜は呆れていても彼のキスを受け入れた。

 周りの歓声と教師達の怒号も彼らには聞こえない。彼らは愛し合っているのだ。

 二人は唇を離して、顔を見つめ合った。


「大好きだよ、花菜」


「翼……私もだから」


 翼に頭を撫でられ、花菜は顔を真っ赤にした。そして、手を繋いで理科室に歩き出した。ただの移動教室に時間を掛けてしまったようだ。

 またね、と言い合って、別々の教室に入った。


 花菜は教室に戻ろうとすると、翼が友達と話しているところを見つけた。


「もうちょっと抑えてあげたら?花菜ちゃんが可哀想だぜ?」


「嫌だ。俺は花菜が大好きだし、早く会いたい」


「どんだけ溺愛してんの?リア充は爆発しろ」


「俺の中では爆発してる」


「はっ?」


 翼は友達と話し終えたのか、こちらの方に歩いてきた。花菜は顔を真っ赤に染めていた。


「お待たせ、花菜。俺が送るよ」


「えっ、教室まで?」


「うん」


 花菜は嘆息を吐いた。そんなに翼に愛されているのは嬉しいが、ここまでされると恥ずかしくなる。

 顔をずっと反らしている花菜の頭を撫でた。花菜はそんな甘い翼に頬を赤らめた。


「恥ずかしい?」


 翼の言葉に花菜は頷いた。そのあからさまな対応に、翼は苦笑した。


「花菜。今日さ、秘密基地で遊ぼうよ」


「うん!」


 花菜は翼の提案に頷いた。そんな嬉しそうな花菜を抱き締めたい衝動に駆られる翼だが、ここは彼女のためにぐっと堪えた。

 花菜の教室前で二人は別れて、それぞれの教室に入った。


 ショートホームルームが終わり、花菜は教室を出ると、目を見開いた。そこには翼が居たのだ。やけに廊下が騒がしいと思えば、このことだったのだと知った。


「花菜、帰ろう」


「うん……」


 よく下級生の廊下で待って居られたな、と花菜は思って苦笑いをした。

 それぞれの玄関で靴を履き替えた後、二人は手を繋いで、花菜の家に向かった。荷物を取り替えて来るようだ。

 花菜は家に戻り、スマホを持ち出して、翼と一緒に歩き出した。他愛ない話が普通に楽しいのだ。

 秘密基地に入ってすぐに花菜はベッドに押し倒された。翼は顔を近付け、熱いキスをする。舌が絡み合う。唇が離れたと思えば、翼は花菜の首筋を舌でなぞった。


「ひっ……」


「ごめん、花菜」


 花菜の怯える声に気付き、翼は花菜の首筋を強く噛んだ。


「うっ……!」


「誰にも取られないようにキスマーク付けておいたよ」


 目の前にある翼の笑顔は妖艶なフェロモンを醸し出していて、花菜は見ていられず、目を反らした。翼はそんな花菜の頬に触れた。今にでも始まってしまいそうだ。

 突然、花菜のスマホが鳴り出した。翼は馬乗りになっていた体をずらし、花菜を解放した。花菜は電話に出た。電話の相手は自分の母親だった。


「もしもし?」


『花菜、帰って来なさい。翼くんだって受験生でしょ?』


「それがね、あっち方からすごいんだよ。キスとかね」


『うわぁ、そんなに愛し合ってるなんて、お母さんは感動だわ。それより、翼くんのお母さんから電話が来たわ』


「えっ?翼のお母さんから?」


 花菜の言葉に翼は眉間にシワを寄せる。翼は嫌な予感しかしていなかった。だが、言われたのは対照的なことだった。


『翼くんを預けてほしいだって。だから、翼くんを連れて来てほしいんだ』


「えっ!翼を預かる?」


 花菜の言葉に翼は訳が分からず、首を傾げて見ているだけだった。


『だから、早く帰って来なさい』


「はっ、はーい……」


 電話を終えて、花菜は翼を見た。翼は何のことか分かっていない様子だった。


「翼、一緒に帰ろう。翼ん家忙しいからウチのお母さんが預かってくれるって」


「えっ、花菜ん家に泊まるってこと?」


「うん」


「やったー!花菜と居れる!」


 翼は嬉しそうに笑っていた。花菜はそんな翼を見て苦笑いをした。

 二人は手を繋いで、再び花菜の家に向かった。こうやって一緒に居れるのが幸せだ。


「ただいま!」


「おかえり。花菜、翼くん。ご飯出来てるから手洗ってきて」


「はい、お邪魔します……」


 二人で洗面所に行って手を洗い、リビングに行った。ダイニングテーブルには、たくさんのご馳走が並べられていた。


「ただいま……って、えっ!」


 驚いて玄関から来たのは、花菜の父親であった。


「えっと、花菜の彼氏さん?」


「はい……」


「噂通りカッコいいね!名前は?」


「加藤翼です」


「翼くんかぁ、よろしくね!」


 父の言葉に翼は元気よく頷いていたが、どこか辛そうに見えたのは気のせいだろうか。

 楽しい食事をした後、花菜の部屋に入った。女の子らしい可愛い部屋で、翼は目を丸くしていた。そして、ボソッと呟く。


「いいな、羨ましい……」


「えっ?」


 翼が吐いた言葉に花菜を首を傾げた。翼はポロポロと本音を漏らす。


「昔からお父さんは俺を嫌ってた。いつもいつも俺を見ると嫌そうにして、殴ったりすることもあるんだ……俺はお父さんと居るのが嫌だから、いつも秘密基地に逃げるんだ……俺、花菜の家族が羨ましかったんだ……」


 翼は涙を流しながら本音を吐いていた。花菜はそんな翼を翼を抱き締めた。


「そっか、辛かったよね。私からじゃ何も言えないけど、少しでも翼の心を癒したいの。何かあったら、いつでも相談して。私は翼が大切なんだから」


「花菜……」


「翼、泣いていいんだよ」


 花菜の部屋から男の泣き声が聞こえた。花菜の父は妻のところに向かった。


「翼くん、泣いてるんだけど……」


「えっ?こんな家庭を見て苦しませたかしら?」


「えっ、どういうこと?」


 花菜の母は以前連絡を交換した時に翼の母親が言っていた。彼の家庭環境が悪いことを。


「いつもお父さんは翼くんを避けるの。だけど、それにはちゃんとした理由があるの」


「えっ……」


「彼は人間じゃない。だから……」


 翼は泣き疲れて寝てしまったようだ。花菜は翼の頭を撫でて、お風呂に向かっていた。両親が何か話しているように聞こえたが、よく分からなかった。


 次の日の朝。花菜は目を覚まして驚いた。目の前に翼が寝ていたのだ。必死に昨日のことを思い出した。


「辛かったよね。私は助けてあげられるかな……翼、大好き」


 花菜は小さく呟きながら翼の頭を撫でていた。すると、翼は目を覚ました。髪が跳ねているのが可愛い。


「花菜、寝よ……」


「学校だから。もう、ご飯用意してくるね」


 花菜は適当に朝食を作り、二人で一緒に食べていた。そんな二人に両親は目を見開いていた。新婚夫婦みたいだった。


「行って来ます!」


「行ってらっしゃい」




 今日の部活も大変だったなぁ、そんなことを思いながら花菜は靴を履き替えた。

 翼は大丈夫だろうか。花菜は生徒玄関を出ると、翼が友達と話していた。翼は振り返り、花菜を捉えた。


「花菜、帰ろうか」


「うん!」



君に出会えて良かった。


君に心を奪われたあの日を思い出す。


君の笑顔は希望の光だ。



何度でも思うよ。君に出会えて良かったって。



君が大好きだって、ずっと思うよ。





まだこのストーリーは続きます。

次はかなりシリアスになります。

新キャラ登場です。

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