【海上保安庁、巡視船はてるま。伊江島沖北東50㎞(Japan Coast Guard patrol vessel *Hateruma*. 50 km northeast of Ie Island.)】
「東シナ海上、第11護衛隊[やまぎり]薪一佐より入電!複数隻の小型船が那覇方向に移動中につき対応せよとのことです!」
「進路は!?」
「北西、距離15で真直ぐこちらに向かっています!」
「30mm単装機銃射撃準備! 手の空いている隊員は機銃を装備し甲板上で待機!総員見張りを厳にせよ!」
監視員だけでなく自動小銃や機関銃を持って甲板に上がった隊員たちもみな双眼鏡でこちらに向かっているはずの小型船を探し、その向こうに広がる果てしなく広がる空は澄むように青く、沖縄の海はエメラルド色に輝いていて、その美しさはまるではるか向こうからニライカナイがこっちを見ているようだった。
※ニライカナイ:沖縄県や鹿児島県奄美群島の各地に伝わる他界概念のひとつで、天国のような場所。または理想郷。
「2時方向に白のクルーザー!」
「クルーザーの後ろに、近海用の高速船もいます!」
「その後方に小型の漁船多数!」
「距離は!?」
「3500!」
「目標2時方向、全速!」
「面舵一杯!機関全速!」
船は全速で目標に突き進む。
「舵、戻―せ」
速度の乗った船は舵もすぐに効き、小型船の集団を真正面に捕らえ、ぐんぐんと距離を詰めて行く。
「小型船舶先頭との距離2000!」
「船籍確認!」
「クルーザーの船籍番号897‐752321 上海市!」
「高速船船籍番号291‐31388 杭州市!」
「照合!」
「照合確認しました。間違いありません!」
「退去勧告始め!」
「退去勧告始めます!」
隊員の一人がマイクのスイッチを入れて退去勧告を呼び掛ける。
「这里是日本海上保安厅巡逻舰“波照间”号。这里是日本领海。立即离开。我再说一遍,这里是日本领海。立即离开!(こちら日本政府海上保安庁巡視船はてるま。ここは日本国の領海内です。速やかに退去しなさい。繰り返す、ここは日本国の領海内である。速やかに退去しなさい!)」
繰り返し放送するが、相手側からのリアクションはない。
「最後通告!」
「最後通告始めます!」
「最后警告!如果你们继续无视警告,不改变航向,我们将开火!(最後通告!これ以降も通告を無視して進路を戻さない場合は発砲します!)」
「先頭のクルーザー、更に速度を上げました!」
「突破するつもりです!」
「最後通告を続けろ!」
「了解!」
「先頭との距離500!」
「30mm機銃撃ち方よ~い」
「従いません!!」
「30mm機銃撃ち方はじめ」
ドンドンドンと船全体が振動するような音が響き、500m先を高速航行するクルーザーの周囲に幾つもの水柱が上がり、それをさけようと急に舵をきったクルーザーはひときわ大きな波を巻き上げて転覆した。
「クルーザー転覆しました!」
「復活するかも知れん、監視を続けろ!」
「了解!」
30mm機銃は次に高速艇を狙い撃ち、高速艇は燃料に引火したらしく激しく炎をあげたかと思う間もなく、あっと言う間に波間にその姿を消した。
あとは次々に巡視船「はてるま」の前後左右を抜けて沖縄に向おうとする小型船を、30mm機銃をはじめ機関銃や自動小銃を使い、次々と撃破して行く。
中には必死で航行する船舶から子供を連れた母親が手を合わせて撃たないで欲しいと願っている光景も目にし、隊員たちも戸惑ったが泣く泣く命令通り射撃を行った。
そして最後の一隻を撃破したあと、生存者の確認をおこなうことになる。
「全員防毒マスク着用! これより生存者の処理を行う」
全員がガスマスクを着用して、海に浮かんでいる生存者を探す。
海面には相当な人数の中国の一般の人たちが浮いていて、中には「はてるま」に向かって泳いで向かってくるものもいた。
パーン。
パーン。
潤いのある潮風の中に、乾いた銃撃の音が響く。
そのたびに澄みきったエメラルドの海が赤黒く濁る。
「请帮我!请帮我!!(助けて!助けてください!)」
赤ん坊を抱いた夫人が泣きながら懇願する。
パーンと乾いた銃声が響き、また海が濁った。
「生存者確認!」
「生存者は居ません!」
「献花準備!」
はてるまの拡声器から中国の国家が流れ、用意された花が次々に海に投げられ、はてるまの隊員たちの涙が甲板を濡らしていた。




