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チート主人公は悪くない。  作者: さんご


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6/6

斬っただけですけど?

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

俺の名前はバスター。


職業、《剣聖》。


――らしい。


正直、最初はよく分からなかった。

だって転生直後、神がものすごく軽いノリで言ったからだ。


『君、近接戦闘好きそうだし剣聖で』


適当すぎた。

コンビニで「袋いりますか?」って聞くくらいの温度感だった。


だが。


世界にとっては、まったく笑えない話だったらしい。


***


剣聖。


伝説級職業。

千年に一人。

剣技の極致。

人類最強。


――と、後から知った。


当然、周囲の反応はすごかった。


「すごい!」

「速すぎる!」

「今のどうやった!?」


褒められまくる。


嬉しかった。

めちゃくちゃ嬉しかった。


前世じゃ目立たなかったし。

体育はそこそこ、勉強は普通、評価は「まあまあの人」。


だから、調子に乗った。


努力した。

修行した。

レベルを上げた。


もっと強くなりたかった。


その結果。


山が消えた。


***


「いや違うんだって!!」


俺は必死に弁解していた。


目の前には、さっきまで山脈だった場所。

今は、ない。


綺麗に。

本当に綺麗に。


スパァン、と。


断面だけ残して、まるごと消滅していた。


「木の枝を払おうとしただけなんだ!」


沈黙。


「どうして山が斬れるんですか?」


「知らねぇよ!!」


***


ここで問題が発覚する。


剣聖の力は、“物理”だった。


魔法じゃない。

魔力でもない。


ただの斬撃。


だから。


防げない。


***


盗賊団が襲ってきた日。


「へへへ、剣聖だろうが関係ねぇ!」


威勢がいい。


俺はため息をついて、軽く剣を振った。


ヒュン。


音だけ。


それだけだった。


次の瞬間。


森が、地平線まで割れた。


***


ズゴォォォォォ……!


遅れて、大地が口を開く。


巨大渓谷誕生。


盗賊団?

消滅。


ついでに後ろの山も消えた。

あと雲も割れてた。


「……今のは」


「はい」


「剣圧ですか?」


「たぶん」


「たぶんで国土削らないでください」


***


どんどん強くなっていった。


強敵を倒す。

経験値が入る。

もっと強敵が来る。

さらに強くなる。


完全な成長ループ。


しかも。


剣聖には、上限がない。


「お前、今レベルいくつだ?」


「知らん。表示欄が壊れてる」


「お前のせいで世界の常識も壊れてるよ」


***


海戦の日。


敵艦隊、一万。


水平線が黒く埋まる。

誰もが絶望していた。


俺も普通に焦った。


なので。


「うおおおおおおお!!」


全力で横に薙いだ。


***


海が消えた。


***


「…………は?」


誰かの声が、状況をうまく表していた。


斬撃による超真空。

海水が押し退けられ、海底が露出。


魚が、ビチビチしている。


敵艦隊は。

空中で、綺麗に解体されていた。


数秒後。


超巨大津波。


「逃げろォォォォォォ!!」


味方も壊滅しかけた。


「ごめん!!!!」


***


王国は本気で悩み始める。


「剣聖殿をどう扱えばいい……」


「敵国に向ければ最強です」


「国内で素振りされたら終わる」


完全にその通りだった。


俺はもう。


動くだけで災害だった。


***


さらに厄介なのは。


魔法じゃないこと。


結界。

防御魔法。

対魔障壁。


全部、無意味。


「なぜ通る!?」


「斬撃だからです」


「斬撃で城壁と空間裂けるのおかしいだろ!!」


正論だった。


でも事実だった。


***


そして。


魔王が現れた。


絶対悪。

世界最強。

空間魔法、時間停止、重力操作。


全部乗せ。


「愚かな人類よ――」


俺は剣を抜いた。


シュン。


納刀。


終わり。


***


「……え?」


魔王が固まる。


身体に、細い線。


次の瞬間。


世界が、割れた。


***


空間そのものが断裂した。


光が歪む。

雲が途切れる。

遠くの空が遅れて裂ける。


魔王は。


その現象の中で、静かに消えた。


***


誰も、俺を見なかった。


いや、見れなかった。


怖すぎて。


扱いに困る存在になっていた。


ほぼ核兵器。


ただし意思あり。


***


子供だけは無邪気だった。


「剣聖さまー!剣見せてー!」


「おう」


シュッ。


「キャー!!地面割れたぁ!!」


「ごめん」


***


一番おかしいのは。


本人の感覚が普通なことだ。


「軽く振る」

→ 山脈消滅


「集中する」

→ 空間断裂


「本気出す」

→ 天候変化


理解できるわけがない。


***


晩年。


俺は山奥に引きこもった。


理由はシンプルだ。


くしゃみで谷ができた。


「へっくしゅ!!」


ズバァァァァァン!!


新しい川、完成。


「……もうダメだろこれ」


***


人と関わらないようにした。


剣も封印した。


息をするのも気をつけた。


たぶん、強くなりすぎた。


いや。


“強い”という概念から外れていた。


***


それでも。


たまに、思う。


もし。


あの時。


神が適当に言わなければ。


少しだけ弱かったら。


世界を削らずに済んだのか、と。


***


そして後世。


世界地図には、奇妙な線が大量に残された。


真っ二つの山脈。

一直線の巨大渓谷。

割れた海底地形。


学者たちは議論を重ねた。


「古代文明の兵器では?」

「神話級の戦争跡か?」

「異世界災害の痕跡かもしれない」


どれも違う。


全部。


一人の剣士の――


“軽い素振り”だった。


***


そして民間伝承には、こう残っている。


「世界を斬った男は、最後に剣を置いた」

「だが、大地は今も覚えている」

「彼が振るった一振りを」


もしも、どこかで。


風もないのに、大地が震えたら。


それはきっと。


――あの男が、まだ生きている証だ。


 今回は「物理最強系」を極端化しました。


 魔法系チートはまだ“魔法対策”があります。


 ですが物理系は厄介。


 なぜなら、

「ただ斬ってるだけ」

だから。


 現実でも、

 極限まで加速した物体は核兵器並みになります。


 もし剣速が異常化したら、

 衝撃波、

 真空断裂、

 熱発生、

 地殻破壊、

 大気変動、

 全部起こり得る。


 しかも本人は剣術のつもり。


 このギャップが面白いところです。


 ある意味、

「努力し続けた結果、世界が努力に耐えられなくなった男」

の話かもしれません。

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