斬っただけですけど?
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
俺の名前はバスター。
職業、《剣聖》。
――らしい。
正直、最初はよく分からなかった。
だって転生直後、神がものすごく軽いノリで言ったからだ。
『君、近接戦闘好きそうだし剣聖で』
適当すぎた。
コンビニで「袋いりますか?」って聞くくらいの温度感だった。
だが。
世界にとっては、まったく笑えない話だったらしい。
***
剣聖。
伝説級職業。
千年に一人。
剣技の極致。
人類最強。
――と、後から知った。
当然、周囲の反応はすごかった。
「すごい!」
「速すぎる!」
「今のどうやった!?」
褒められまくる。
嬉しかった。
めちゃくちゃ嬉しかった。
前世じゃ目立たなかったし。
体育はそこそこ、勉強は普通、評価は「まあまあの人」。
だから、調子に乗った。
努力した。
修行した。
レベルを上げた。
もっと強くなりたかった。
その結果。
山が消えた。
***
「いや違うんだって!!」
俺は必死に弁解していた。
目の前には、さっきまで山脈だった場所。
今は、ない。
綺麗に。
本当に綺麗に。
スパァン、と。
断面だけ残して、まるごと消滅していた。
「木の枝を払おうとしただけなんだ!」
沈黙。
「どうして山が斬れるんですか?」
「知らねぇよ!!」
***
ここで問題が発覚する。
剣聖の力は、“物理”だった。
魔法じゃない。
魔力でもない。
ただの斬撃。
だから。
防げない。
***
盗賊団が襲ってきた日。
「へへへ、剣聖だろうが関係ねぇ!」
威勢がいい。
俺はため息をついて、軽く剣を振った。
ヒュン。
音だけ。
それだけだった。
次の瞬間。
森が、地平線まで割れた。
***
ズゴォォォォォ……!
遅れて、大地が口を開く。
巨大渓谷誕生。
盗賊団?
消滅。
ついでに後ろの山も消えた。
あと雲も割れてた。
「……今のは」
「はい」
「剣圧ですか?」
「たぶん」
「たぶんで国土削らないでください」
***
どんどん強くなっていった。
強敵を倒す。
経験値が入る。
もっと強敵が来る。
さらに強くなる。
完全な成長ループ。
しかも。
剣聖には、上限がない。
「お前、今レベルいくつだ?」
「知らん。表示欄が壊れてる」
「お前のせいで世界の常識も壊れてるよ」
***
海戦の日。
敵艦隊、一万。
水平線が黒く埋まる。
誰もが絶望していた。
俺も普通に焦った。
なので。
「うおおおおおおお!!」
全力で横に薙いだ。
***
海が消えた。
***
「…………は?」
誰かの声が、状況をうまく表していた。
斬撃による超真空。
海水が押し退けられ、海底が露出。
魚が、ビチビチしている。
敵艦隊は。
空中で、綺麗に解体されていた。
数秒後。
超巨大津波。
「逃げろォォォォォォ!!」
味方も壊滅しかけた。
「ごめん!!!!」
***
王国は本気で悩み始める。
「剣聖殿をどう扱えばいい……」
「敵国に向ければ最強です」
「国内で素振りされたら終わる」
完全にその通りだった。
俺はもう。
動くだけで災害だった。
***
さらに厄介なのは。
魔法じゃないこと。
結界。
防御魔法。
対魔障壁。
全部、無意味。
「なぜ通る!?」
「斬撃だからです」
「斬撃で城壁と空間裂けるのおかしいだろ!!」
正論だった。
でも事実だった。
***
そして。
魔王が現れた。
絶対悪。
世界最強。
空間魔法、時間停止、重力操作。
全部乗せ。
「愚かな人類よ――」
俺は剣を抜いた。
シュン。
納刀。
終わり。
***
「……え?」
魔王が固まる。
身体に、細い線。
次の瞬間。
世界が、割れた。
***
空間そのものが断裂した。
光が歪む。
雲が途切れる。
遠くの空が遅れて裂ける。
魔王は。
その現象の中で、静かに消えた。
***
誰も、俺を見なかった。
いや、見れなかった。
怖すぎて。
扱いに困る存在になっていた。
ほぼ核兵器。
ただし意思あり。
***
子供だけは無邪気だった。
「剣聖さまー!剣見せてー!」
「おう」
シュッ。
「キャー!!地面割れたぁ!!」
「ごめん」
***
一番おかしいのは。
本人の感覚が普通なことだ。
「軽く振る」
→ 山脈消滅
「集中する」
→ 空間断裂
「本気出す」
→ 天候変化
理解できるわけがない。
***
晩年。
俺は山奥に引きこもった。
理由はシンプルだ。
くしゃみで谷ができた。
「へっくしゅ!!」
ズバァァァァァン!!
新しい川、完成。
「……もうダメだろこれ」
***
人と関わらないようにした。
剣も封印した。
息をするのも気をつけた。
たぶん、強くなりすぎた。
いや。
“強い”という概念から外れていた。
***
それでも。
たまに、思う。
もし。
あの時。
神が適当に言わなければ。
少しだけ弱かったら。
世界を削らずに済んだのか、と。
***
そして後世。
世界地図には、奇妙な線が大量に残された。
真っ二つの山脈。
一直線の巨大渓谷。
割れた海底地形。
学者たちは議論を重ねた。
「古代文明の兵器では?」
「神話級の戦争跡か?」
「異世界災害の痕跡かもしれない」
どれも違う。
全部。
一人の剣士の――
“軽い素振り”だった。
***
そして民間伝承には、こう残っている。
「世界を斬った男は、最後に剣を置いた」
「だが、大地は今も覚えている」
「彼が振るった一振りを」
もしも、どこかで。
風もないのに、大地が震えたら。
それはきっと。
――あの男が、まだ生きている証だ。
今回は「物理最強系」を極端化しました。
魔法系チートはまだ“魔法対策”があります。
ですが物理系は厄介。
なぜなら、
「ただ斬ってるだけ」
だから。
現実でも、
極限まで加速した物体は核兵器並みになります。
もし剣速が異常化したら、
衝撃波、
真空断裂、
熱発生、
地殻破壊、
大気変動、
全部起こり得る。
しかも本人は剣術のつもり。
このギャップが面白いところです。
ある意味、
「努力し続けた結果、世界が努力に耐えられなくなった男」
の話かもしれません。




