<異常事態へのカウントダウン>
ここは天界のシステム管理センター。
ヨルダの訪問後、所長の号令一下、運用班は大騒ぎになっていた。システムの全面チェックが開始されたのだ。
それは言葉に尽くせないほどの作業量であった。運用班だけでなく、可能な限りの職員が駆り出され、昼夜を問わずチェックに奔走していた。
そんな中で、先日ヨルダに説明をしたエンジニアの二人は、ひそひそと話し合っていた。
「……やっぱり、絶対にまずいですよ。最近、めちゃくちゃ頻繁に発生しています」
「だからって、今更言えるかよ!」
「でも、他の連中も気づき始めてますよ。これ以上は隠せません」
二人は以前からシステムに軽微な異常を確認していた。それはほんの一瞬の出来事であり、メイン担当の二人以外は気づいていないはずだった。
「でも、200年前の申し送りにもあったじゃないですか。周期的に異常警報が頻発していたって」
「それは当時の管理部長が握りつぶしたんだから、我々の責任じゃない」
「でも……!」
「とにかく、原因も分からない状態で報告しても混乱させるだけだ。ここは二人で何とかするしかないんだよ」
その後も二人は、コソコソとシステム内容を精査していく。
しかし、この哀れな二人の願いも虚しく、異常はますます頻発するようになった。他のエンジニアからも次々と報告が上がるようになり、センター内の混乱は極限まで高まっていく。
* * *
そして、センター内の混乱を冷ややかに見つめる怪しい影があった。
(ふっふっふ。こちらは予想通りだな。あとは時が来るのを待つだけか……)
その影は、誰にも気づかれることなくセンターを離れた。
影の行き先は、天界の端にある一軒の屋敷だった。
屋敷の中へとスッと消えると、奥の部屋へと向かう。薄暗い部屋に入ると、円卓を囲んでいる人影から声がかかった。
「センター内の様子はどうだ?」
「はい。予想通り混乱しております」
「うむ。ヨルダ老師がシステムの問題を指摘したと聞いた時は少々焦ったのだが、特に影響はしていないようだな」
「はっ。今のところはオロオロするばかりで、誰も核心には気づいていないようです」
「人間界の方はどうだ?」
別の方向を向き、円卓の人影が尋ねた。いつの間にか、そこには別の影が控えていた。
「はい。こちらも予定通りに進んでいるようです。ただ、ERIの動きが予想以上に早いようで、その点は気がかりではありますが」
「三条嘉助がだいぶ色々と動いているようだな」
「はい。やはり嘉助は油断できない人物かと。それとダーズリー卿の件が、意外と早く露見したのも想定外でした」
「まあ良い。単に見かけられただけらしいからな。彼らの真の目的までは気づかれていないだろう」
「そのように思われます」
「ここまで来れば、もう誰も止められないであろう。このまま我々は時を待てばよい。引き続き、関係者の動きは監視しておくように」
「「はっ!」」
天界の闇が、さらに色濃くなっていくようであった。
異常事態へのカウントダウンは、既に始まっていた。




