<後始末>
デミトリの消滅を確認すると、リピウスは再びメイさんの元へ戻った。
メイさんは完全に停止した状態で地面に横たわっている。唯一の違いは、舞がメイさんの頭部を膝枕に乗せて、優しくなでていることであった。
しかし舞もかなり疲労が濃く出ているようで、既にほぼ意識を失っているようである。
他の捜査員も疲れと、リピウスの活躍を見た安堵感から、寄り添うようにして眠りに入ってしまったようだ。
「やっぱ疲れたんだろうな……。そりゃそうか。紫音に言ってメンタルケアを頼んでおかないといけないな」
そう呟くと、結界を解いて嘉助へ連絡を入れた。
「おう! リピウス。舞達は、ジャネット達はどうなったんだ?」
リピウスの連絡を待ち焦がれていたようで、嘉助は矢継ぎ早に安否を聞いてきた。
「大丈夫……とも言えないけど、まあみんな命に別状はないよ。今は疲れて、眠ってしまったようだけどね」
リピウスの返事に、嘉助は「ふぅ~……」と大きな安堵の溜息をついた。
「でさ、すまないけど至急誰かを派遣してくれないかな? 魔界衆を4人ほど拘束しているんだよ。そいつらを何処かに連れて行かないと、救急車も呼べないだろう?」
「魔界衆が4人も? いったいどんな連中とやり合っていたんだね?」
「うん。それは帰ってからゆっくり話すよ。今はさっさと片付けて、舞達も病院へ連れて行かないとまずいからね。あ! それとできれば紫音にも付き添わせるように言ってくれないか? 舞達特犯の連中は、相当に精神的ダメージを受けていると思うからね」
リピウスの指摘に嘉助は了解し、すぐに清君に命じてリピウスの元へ行き、魔界衆の連行を命じた。更に紫音にも連絡を入れ、リピウスの要請を伝えて、至急準備をしたら事務所へ来て欲しいと依頼した。
リピウスは現地で魔界衆の拘束状態を確認し、嘉助の手配した監視人の到着を待っていた。
ほどなく清君と3人の1階のコンビニ店員達がやってきたので、4人の魔界衆を任せた。
「これって風嵐一族ですね。こいつら確か、気配隠蔽能力を持つ厄介な種族って聞いてますよ」
清君は風嵐一族の事も知っているようだった。
「なるほどね。それで舞達は罠に嵌められたのかもしれないね」
リピウスが言いながら再びメイさんの方へ戻ると、ちょうど嘉助も紫音を連れて現場に来た。
「ウハッ! これは結構派手にやったものだね。一体何体の悪魔が居たんだい?」
嘉助は少し大げさな感じで驚いて見せた。その横で紫音が(またリピウスが厄介事を押し付けてきた!)とでも言いたげに睨んでいる。
反射的にリピウスは頭を手で庇った。
「いきなり殴ったりはしないわよ」
紫音は否定したが、リピウスは頭を庇ったまま反論した。
「いや、するでしょ。いつもいきなりするでしょうが」
本気で殴る姿勢を紫音がさらに見せたので、リピウスはスタコラと逃げ出した。
そんなやり取りを横目にしながら、嘉助は舞達の様子を確認していた。
そして清君にジャネットの義体も回収するように伝えると、リピウスを呼んだ。
「メイさんはどうする? こっちで預かるかい?」
「いや、メイさんは俺が連れて帰るよ。どちらにしろヨルダ爺に頼んで修理が必要だろうからね」
リピウスが答えると嘉助は頷き、清君達に引き上げるように合図した。彼らがワープゲートから消えると、すぐに特犯にも連絡を入れ、救急車の手配を行った。
嘉助は紫音と共に、救急車の到着を待つつもりらしい。
そんな様子を感じ取ったリピウスは、舞の手からメイさんの義体を受け取り、お姫様抱っこの状態で自分の家へと戻っていった。
リピウスが消えると、改めて嘉助はこの戦場跡を眺めた。
御剣という上級悪魔の義体が転がっているのを見て、嘉助は首を傾げた。
(義体の首が消失している……。それと心臓部にも貫通する穴が開いている。これは……)
嘉助が義体の型番などを確認する。嘉助の知る限り、この義体の耐久度も、以前カテリナが使っていたものと同じ60万であった。
さらにリピウスによると、デミトリという上級悪魔も居たそうだが、そちらは義体もろとも跡形もなく消滅していた。
(つまりリピウスのパワーは軽く60万を超えている……?)
嘉助はリピウスの鑑定結果にも疑問を持ち始めた。が、今はそんな事にかまっている場合でも無いので、ここは胸にしまっておく事にして、救急車や処理班の到着を待つ事にした。
間もなく救急車も現場に到着し、舞達6人は近くの病院へと運ばれていった。嘉助と紫音も分乗して病院まで付き添った。
現場には特犯の処理班が到着しており、悪魔の残骸や破壊された塀などを確認し、てきぱきと処理を進めていた。
リピウスがメイさんを抱えて家に戻ると、そこには意外な事にデュークとヨルダ爺も来ていた。セバスチャンも既に戻っており、二人をコーヒーでもてなしていた。
「あれ? 二人とも来ていたんだ?」
「うむ。少し前に嘉助から連絡が有ってのう。何でもメイさんが壊されたと言っておったが……」
ヨルダ爺は言いながら、リピウスが抱えたメイさんの無残な姿に目をやった。
「おいらも聞いて驚いて来たんだけど、凄まじい状態だな。一体何があったんだ?」
デュークも余りにも悲惨な状況に、驚きを隠せないようであった。
「うん。まあ、少し一息入れさせてくれよ。まずは先に体に戻りたいからな。セバス、メイさんをいつもの控室に移動させておいてくれ」
そう言うと、メイさんをセバスチャンにそっと渡した。
セバスチャンも大事な物を扱うように受け取った。その表情は心なしか、悲しみに耐えているようにさえ見えた。
リピウスが肉体に戻り、テーブル席に座る。
セバスチャンがメイさんを控室へ運び、すぐに戻ってきた。空間からコーヒーと一皿のケーキを取り出し、リピウスの前に置く。
「リピウスや、そのケーキはセバスチャンがイタリアの有名なケーキ屋で買ってきてくれたそうじゃよ。なかなかおいしいケーキじゃったぞ」
場の空気を変えようとしてか、ヨルダ爺は陽気な調子でケーキの説明を始めた。
その後、リピウスは今回の事件について、知り得る情報をヨルダ爺達に伝えた。詳しい経緯はジャネットや舞達が回復してから聞くしかないが、今回の一連の事件にダーズリー卿の企みが関係していたことは確かであり、いよいよ彼らが具体的に動き出した証でもあると、リピウスは語った。




