<素材集めに苦労はつきもの>
ジンの発言で人間界でも霊昌石を入手可能と知った嘉助は、早速採掘に行く事にした。
「ジン、悪いが霊昌石のある場所まで、案内を頼みたい」
嘉助の言葉にジンは頷いたが、ふと怪訝な顔をした。
「案内するのは良いが、誰が行くのかい?」
「そうだな、やはりリピウスに行ってもらうのが良いかな? 今後も時々行く必要が出るかもしれないし、リピウスのディメンション・ボックスは容量も大きそうだからな」
嘉助の言葉に、リピウスは速攻で拒否した。
「嫌だぞ俺は。さっきのジンの話では、メッチャ寒い場所みたいじゃないか。俺は寒いのは苦手なんだよ。絶対に嫌だからな」
「嘉助、ハッキリ言って人間じゃ無理だぞ。人間の肉体では耐えられない環境だからな」
ジンがリピウスの擁護をしてくれた。リピウスも大きく頷いている。
「いや、彼なら大丈夫だよ。霊気を遮断する結界くらい簡単に対応するだろうからね。肉体では厳しいなら、彼は義体も使えるじゃないか。それにワープしてしまえば、そんな環境の心配も不要だろ?」
嘉助は呑気な顔をして言っているが、その横でリピウスが大きく首を振って拒絶している。
「ワープはできないぞ。麓の村あたりにワープしたら、そこから先は地磁気も狂っているし、磁気嵐も頻発するような環境だから、ワープアウトはできないんだよ」
ジンの説明に、嘉助の顔が引きつりだした。
「そんじゃあどうやって霊峰に行くのだい?」
リピウスが聞いてきた。
「うん。そこからは徒歩で上るしかないね。おおよそ急いでも4日程度はかかるかな。まあ往復で10日は見といた方が良いだろうね。それと、当然霊峰は天候も悪くて、年中吹雪いていて、氷点下の極寒地だからね。俺も行く際は、極寒仕様の対磁気シールド付き義体を着用しているのだよ。普通の義体ではとても行けないからね」
ジンの言葉に、嘉助が完全に固まってしまった。
「ほら見ろ! 嘉助は俺に死んで来いって言っているような物じゃないか」
リピウスはこれ幸いと嘉助を煽っている。
「極寒・対磁気シールド付きの義体じゃな。わしも幾つか持っておるから、リピウスにも貸してやろうて。じゃが、リピウスでも暫くは操作訓練をせねば、流石にジンと同行は無理じゃのう」
ヨルダの言葉に、リピウスは最初は「いやいや」と首を振り、後半の言葉に「そうだそうだ」と頷いていた。
暫くの沈黙の後、嘉助が口を開いた。
「僕が一緒に行こう!」
あの面倒臭がり屋の嘉助にしては、珍しい宣言である。
「おい嘉助! おまえ大丈夫なのか? とんでもなく過酷な場所みたいだぞ」
杏子が流石に心配そうに声をかける。
「なに、僕だって昔は素材確保に、自然界の過酷な環境に行っていたのだからね。極寒仕様・対磁気シールド付きの義体だって、ちゃんと持っているから大丈夫さ」
と言いつつも、少し目が泳いでいるようだ。
「まあ嘉助なら大丈夫だろう。それじゃあ早速準備にかかるかい?」
ジンの言葉に嘉助が頷くと、よせば良いのにトンバが口を挟んだ。
「おう、お前らも大変だな。頑張って来いよ。おれはもう一度フランスあたりを……」
と言いかけたところで、嘉助がトンバの肩に手を回してきた。
「何を言っているんだい、トンバ。君も一緒に行くんだよ」
嘉助はニヤニヤしながら肩をギュッと強くつかみ、暗に「逃がさない」と言うように囁いた。
「な・何を言っているのかな、嘉助君は? 僕みたいな華奢な霊界人が、そんな過酷な場所に行けるわけないじゃないか……」
冷や汗を流しながら、トンバは必死に抵抗しようとしているが、嘉助の力は意外に強く、振り払う事ができないようだ。
「トンバ、以前一緒に食材探しに、もっと過酷な場所にも行ったじゃないか。君だって極寒仕様・対磁気シールド付きの義体を持っていたよね」
ジンがさらりとばらした。
「持っていても、俺が行く意味が分からねぇって言っているんだよ!」
トンバも少し苛立ち始めたようだ。
「そりゃあ君が特大のディメンション・ボックスを持っているからだよ。大量に採掘しても、君が居ないと持って帰れないじゃないか。私のボックスは色々既に詰まっているからね。嘉助もそれなりの容量持ちだけど、やはり君と比較したらね」
すました顔で理路整然と言ってくるジンには、いつもトンバは負けてしまう。諦めたのか、萎れた様子のトンバに向かい、ますます悪い顔をした嘉助がトドメを刺した。
「さあ、一緒に準備しようね。もう逃げられないって分かっているだろ」
そう言うと肩を抱いたまま、会議室から連れ出し、準備のためにどこかへ消えてしまった。
残された杏子は「やれやれ」と言った風に、ジンに向かって苦笑いをしていた。
その頃、ヨーロッパの地下洞窟にあるダーズリー卿の本拠地では、ティモラが大きな声を張り上げていた。
「ソルダー! 魔導兵器の生産が遅れているのではないか? もう開戦の最終段階まで来ているのだぞ」
「そ・そんな事言っても、良質な魔晶石が手に入らないのだから、進めようがないじゃないか。そっちこそもっと良質な魔晶石を大量に生産して、こっちに回してくれよ。屑魔晶石じゃ、能力無効化装置や霊力探知器程度に使うなら良いが、兵器類ではすぐに割れてしまうんだよ」
ソルダーも退かない。
「分かってる。できるだけ純度を上げて量産には入っているが、純度を上げればその分時間もかかるのだよ。それより大型の魔導兵器がまだ生産に入れないと言うではないか、そっちが問題だと私は言っているのさ」
ティモラも退く様子が無い。
「よう、ティモラ。そう頭ごなしに言うもんじゃないぞ。ソルダーもやる事はやっているんだからよ。最近思うように進まなくて、お前の方がイラついているだけじゃないのか?」
ガードナーがソルダーの肩を持ったので、ますますティモラは引きつった顔になった。
そして何かを言いかけた途端、ガチャンとグラスを強くテーブルに置く音がして、みんなは一斉に静まった。
「ティモラ。少し控えなさい。お前の気持ちは分かるが、魔晶石の入手が困難なのは分かっておるよ。最近魔界でも検閲が厳しくなって、魔界衆でもなかなかまとまった量が手配できないそうだ。向こうも色々手を尽くしているようだし、多少の遅れが出ても今なら間に合うだろうから、あまり雰囲気を壊すでないぞ」
声は柔らかく、労わるような響きではあるが、その底には恐ろしい程の威圧感が潜んでいる。ティモラもそれ以上は言い張る事もできず、静かに跪き、従う意を示した。
「それにしても、世の中はなかなか思うようにはいかないものじゃな……。まあ今に始まった訳では無いがな……」
そう呟くと、再びグラスを手に取り、静かに喉に流し込んだ。
嘉助達だけでなく、ダーズリー卿も魔導兵器開発では魔晶石集めに苦慮しているようであった。これらが今後の大戦時にどう影響してくるのかは、まだ誰も知らない。




