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第9話:吾輩、キャットタワーの頂に立つ

その日、我が家に「異物」が届いた。


 


【みのり視点】


「よし……よし……よいしょ、っと!」


 巨大なダンボールを部屋の隅にやっとこさ押し込んで、私は汗をぬぐった。

 仕事帰りにヨレヨレで帰宅したところへ、Amazonの宅配攻撃。

 差出人は、もちろん私。


「やっと来たー!キャットタワー!!」


 そう、とうとう買ってしまったのだ。

 ネットのレビューを血眼で読み、寸法を測り直し、楽天とAmazonを往復すること3日。


 もちが部屋の高いところに登ろうとして、

 本棚から本を落とす事件が三回連続したのが決定打だった。


「もうね、いい加減、君の居場所をちゃんと作ってあげようと思ってさー」


 そう言いながら、もちを見やると――


 


「……にゃ?」


 


 キャットタワーと同じくらいの高さに頭を傾け、

 首をかしげてダンボールを見つめていた。


 


【もち視点】


 ご主人様が何やら大きな箱を引きずって帰ってきたにゃ。

 部屋の景観が完全に崩壊してるにゃ。


 そして、箱から出てくる、得体の知れない棒と板と布!


……にゃ?家具の分解遺体かにゃ?


 だが、それは次第に形を変えていった。


 組み立てという魔法によって――


 やがて現れたのは、そびえ立つ謎の塔!


「にゃにゃにゃー!(にゃんじゃこりゃー!?)」


 


 吾輩、正直びびったにゃ。


 これが新たなる……吾輩の縄張りというわけかにゃ……?


 


【みのり視点】


 タワーのてっぺんには、ドーム型の隠れ家ベッド。

 その中段にはハンモック、さらに爪とぎポールと遊び玉。


「うふふ、完璧じゃない?部屋の半分埋まったけど」


 あとは、もちが気に入ってくれるかどうか。

 正直、お高かった。お財布は大打撃。


でも――


「これでもちが喜んでくれるなら、全然オッケーです!」


 ところが。


「もち?どうぞ?」


「……にゃ。」


 もち、動かない。 


 タワーの前でぺたりと座り、ジト目でこちらを見ている。


「……えっ?乗らないの?」


 そっと、もふっとした身体を持ち上げて、

 下段に置いてみると――


「にゃにゃ!(違うにゃー!)」


 猛ダッシュで降りて、ソファ下に潜り込む。


「ええええええぇぇ!?乗らんのかい!!」


 


【もち視点】


 吾輩、いきなり見知らぬ塔の上に乗せられ、心の準備ができてなかったにゃ。


 なにそのサプライズ登頂にゃ!?


 にゃんか、ふわふわしてて足場も不安定だったし、

 一番上とか……高すぎて怖いにゃ。


 慎重派の吾輩、まずは足場チェックと安全確認が必要にゃ!


 ご主人様、いきなり置くのはナシにゃ!


 

【みのり視点】



 結局その日は、もちがキャットタワーに近づくことすらなかった。


「ま、まあ、気長にいこ……」


 私もなんだかちょっと凹みながら、夜は布団に潜った。


 


――そして、深夜。


 


「カサ……カサ……ぴょんっ」


……え?


 目を開けると、月明かりの中に――


 あの白黒の小さな影が、タワーの中段に乗っていた。


「……あっ」


 息をのむ。


 もちが、ぴょん、ぴょんと慎重に登り、

 ついに最上段のドームに、すっぽり身体をおさめた。


 その顔は――


「にゃ……(我、征服せり)」


 完全なる、勝者の表情だった。


 


【もち視点】


 登ったにゃ。

 ついに、てっぺんに到達したにゃ。


 ここからなら部屋が全部見えるにゃ。

 ご主人様の寝相も監視できるにゃ。


……なんか、ちょっと、気分いいにゃ。


 風もないけど、王者の気分にゃ。


「にゃふ。(ここ、わるくないにゃ)」


 吾輩、今日からこのタワーのてっぺんが定位置にゃ。


……あとで爪とぎも試してみるにゃ。


 


【みのり視点】(翌朝)

「……んー、よく寝た……」


 ふと顔を上げると――


 タワーの頂上で、もちがどや顔で見下ろしていた。


「にゃあ。」


「……うそ、めっちゃ気に入ってるじゃん!!」


 思わず吹き出して、顔がほころぶ。


「ふふ……そっか、征服したんだ。よかったね、もち」


「にゃっ(当然にゃ)」


 高かったけど、部屋が狭くなったけど、


――この得意げな顔が見れたなら、全てが報われる。


「じゃあ、今日はそのてっぺんで一日中のんびりしてていいよ」


「……ご主人様は、仕事いってくるけどね……(涙)」


 


 もち、今日も変わらず、我が家の王である。


 


次回予告

第10話:吾輩、トイレの外でうっかりする。


新しい猫砂導入に、もちが抗議の意思表示!?

トイレの外に巻き散らされる“おからの雨”と、ご主人様の悲鳴が部屋に響く!



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